鬼の副生徒会長
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてChatGPTを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
・ 世界観・キャラクター・ストーリーの基盤は完全オリジナル(整理や補助を行ってもらうことはあります)
・ プロットは自身で立案(ストーリー展開、キャラの行動、テーマ性などを自分で組み立てています)
・ 重要なセリフ・行動・心情変化はすべて文章で指示(キャラクターの一貫性を重視)
・ プロットをもとに叩き台の原稿を出力 → 30%以上の加筆修正(表現のブラッシュアップ・個性の強化)
・ 執筆の過程で違和感のチェック・校正を補助的に利用(つなぎの違和感や文章の整理)
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「ChatGPTをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
世羅は屋上の柵に寄りかかり、遠くの光景を眺めていた。
変異島を囲む巨大な壁。幾重にも積み重なった鉄の塊が、空を断つようにそびえ立つ。
人はおろか一陣の風ですら通さぬと、"内"と"外"を隔てている。
あの向こうには"外界"がある──だが、この壁を越えることはできない。
壁の先。都市の影のようにそびえる巨大な塔。
四十八層にもおよぶ、重積バリアフィールドに守られた基部には、無数の鉄塔と装甲板が張り巡らされ、迎撃システムと長距離空間レーダーが高空をにらむ。その周囲では、バトルドローンが旋回し、機械的な軌道を描きながら島を監視している。
この塔こそが、すべてを記録し、管理し、制御する存在。島のルールも、スコアの管理も、デュエルの記録も、そして生死さえも──すべてが、ここで決定される。
世羅は塔を見上げ、ぼそりとつぶやいた。
「……MONOLITH。今日も神様きどりか……」
世羅は柵に肘をつき、遠くを見つめながら、ふっと目を細めた。
戻りたい――そう願ったことは何度もあった。しかし、いざ戻ってみると、思った以上に窮屈だ。当時はただ、憧れていた。もし、あの頃の自分に今の知識があれば――何度そう考えたことか。やり直せるのなら、もっと上手く立ち回れたはずだと。
だが、こうして"学生"に戻ってみると、現実は違った。
決められた時間割。支配された空間。個人の自由は制約され、ルールのもとで生きることが求められる。"正しい在り方"を押しつけられる生活は、息苦しい。
("内"でも"外"でも変わらないのだな……懐かしさより、窮屈さのほうが勝る……)
それでも、ここでやるべきことは決まっている。今さら"合わない”と愚痴をこぼしても仕方がない。
ならば――この環境で、"自分のルール"を、"欲望"を貫くだけだ。世羅はそう感じていた。
(しかし、眠いな……)
世羅の目の下には、クマがくっきりと浮かんでいる。
(コンビニのバイト……時給が良いとはいえ、深夜シフトは過酷だ……学生って身分ならなお更だ)
彼は週五でバイトを入れ、割の良い"仕事"があれば土日も働く。
変異島において、クランを維持するにはスコアが必要である。世羅も例外ではない。
スコアーー。
それは、この島での存在を決定づける数値だ。生きる価値を数値化し、命の価格を定め、唯一外界への道を開く鍵となる。どれほど積み上げれば、その扉が開かれるのか。そして、その先に何が待っているのか――ほとんどの者は知らない。だが、ごくわずかに、その答えにたどり着いた者もいる。
世羅もまた、その真実を知るひとりだった。
(コンクリは硬くて冷たいが、椅子で寝るよりはマシだろ……とりあえず、少しだけ寝よう)
世羅が地面に横たわり、目を閉じかけた瞬間、声が響いた。
「マス……違った……世羅くんっ!」
「……ん?」
水色と白が交互に繰り返す、しま模様が視界に入る。膝上までのスカートが揺れ、しま模様の主張は強い。
さした傘を下から見上げるような形であるから、顔はみえない。
しかし、それだけではなかった。腰に佩かれた野太刀が、風に揺れるスカートの隙間から一瞬だけ覗く。黒漆の鞘、品のいい装飾、そして間違いなく使い込まれた重み。
(これは誰だ……?)
世羅はそう考えつつ、口を開いた。
「……しましま」
「えっ? しましま……? 何ですか?」
世羅の頭上から声が降る。りんとした響きだが、どこか戸惑っている。この声の主の顔と、しましまと、そして腰の刀を結びつける。
(……なるほど、月乃か)
「あの? 世羅くん? ……どういう意味なんですか?」
世羅は何の反応も返さない。
「……あ」
月乃の体がぴくっと震えた。最初は気づいていなかったようだが、徐々に自分の"状況"を理解していく。
視線をゆっくりと下げ――しま模様を認識する。
「きゃああああっ⁉ 不埒なっ! 見ないでくださいっ!」
顔を一瞬で真っ赤に染め、スカートを慌てて押さえる。しかし、その場で止まることができず、勢い余って数歩後ずさる。
「~~~っっ⁉」
足元がもつれ、バランスを崩しそうになりながらも、ぎりぎりのところで踏みとどまる。だが、衝撃でポニーテールが跳ね、揺れる髪が彼女のほほをかすめる。
彼女は視線を逸らし、ぎゅっとスカートを握りしめたまま、小さく縮こまる。
まるで怒る余裕すらないほど、恥ずかしさでいっぱいになっているかのように。
「……いや、見せられたんだが?」
世羅は肩をすくめ、気の抜けた声で言った。悪びられるでもなく、むしろやれやれといった雰囲気を醸し出している。
「なっ……ち、違いますっ! そ、そんなつもりはなくて……!」
月乃の顔は耳まで真っ赤になり、必死にスカートを握りしめている。そのまま縮こまってしまい、まるで防御の姿勢。普段のきぜんとした、副生徒会長らしさは完全に消え失せていた。
「……ふーん?」
世羅は興味深そうに月乃を見下ろし、軽く腕を組んだ。わざとらしく口元に手をやり、しばらく考えるふりをする。
「しましまは好きだぞ? お前もやっとこちらのニーズってのを理解できたんだな?」
「~~~っっ⁉」
月乃の肩がビクリと跳ねる。顔を伏せ、スカートをぎゅっと握りしめる指が震えている。
「でも、それじゃあ五十点だな」
世羅は肩をすくめ、軽く指を鳴らした。
「次からはタイツを履いてくれよ」
「な、なぜですかっ⁉」
月乃は顔を真っ赤にして、勢いよく言い返す。声がわずかにかすれる。
「大好きだから」
世羅はあっさりと答えた。あまりにも当然のことを言うような口調。その言葉に月乃はしばらく固まった。
月乃は肩をビクリと跳ねさせた。顔を伏せながら、言葉にならない声を漏らす。"そんな理由"で片付けられるのが納得いかないのか、それとも…… ほほがますます赤く染まり、震える指先がスカートの裾を握りしめる。
(タイツが好きって……どういうことですか……? 破廉恥な理由では……?)
彼女は目を見開き、わなわなと肩を震わせる。怒りなのか、それとも別の感情なのか、すぐには判断できない。
「……しょ、しょうがないですね……」
月乃は目を伏せ、小さくつぶやいた。その指先はスカートの裾をつまみ、ぎゅっと握りしめたままだ。
「タイツくらい……履きますけど……」
「ほぉ?」
世羅は思わずニヤリとした。
「意外と素直じゃないか」
「ち、違いますっ!」
月乃は一歩引き、両手でスカートを握りしめる。そして、プルプルと震えながら、必死に言葉を続けた。
「べ、別にっ……それは……っ!」
「……?」
世羅は面白がるように首を傾げる。
「あなたのためではありません……!」
月乃の声は最後、かすれるほど小さくなった。耳まで真っ赤になりながら、彼女はうつむく。
「へぇ?」
世羅は興味深げに彼女の様子を眺めながら、ゆっくりうなづいた。
「じゃあ……誰のために?」
「~~っ!」
月乃は何も言えず、拳を握りしめる。それを見て、世羅はクスリと笑った。
「ま、なんでもいいけどな」
世羅は軽く手を振り、やれやれといった態度で背を向ける。
「次はちゃんと履いてこいよ?」
「……それは、絶対命令ですか……? そうですよね?」
絶対命令なら従う。そうであれば自分のプライドを保ちながら受け入れられるのだろう。変異島においてクランマスターは絶対で、その絶対命令は"命と等価"だ。
「いや、これは個人的なお願いだよ。絶対命令じゃない、強制力はゼロだ」
「……っ!」
「ただ、きいてくれたら嬉しい」
月乃は小さく息をのんだ。一瞬、返す言葉を探すように視線を揺らしたが――
「……わかりました。とりあえず……履きます……けど……っ!」
顔を真っ赤にしながら、月乃はスカートの裾をぎゅっと握りしめた。最後の最後まで、負けたくないという意地を感じさせる。
「タイツが好きならお好きなだけ、差し上げましょうか?」
世羅は肩をすくめる。
「タイツが好きなんじゃない、タイツを履いた美少女が好きなんだ」
「もう! やめてくださいっ!」
月乃はますます顔を赤らめ、顔をそらす。
「……履きますよ……履きますが……別に、あなたのためではありませんからね……!」
さっきも同じセリフを聞いたな、世羅はそんなことを思った。
「それで何か用事か?」
「そうでした! 氷室先生から連絡があったんです。世羅くんが授業をサボタージュしたって」
「サボったんじゃない、抜け出したんだ」
「保険室に行くはずだったのでは?」
「そうだが?」
「保健室の生田先生には会ってきました……来ていないって、言ってましたが……」
月乃は困った顔を見せる。
「保健室はここだろ? 意見の相違だな」
月乃はほほを膨らませる。
「もうっ! わたくしを困らせないでくださいっ!」
ガチャ! バンッ! と屋上のドアが開く。
「ユーキぃ~! ほらね、絶対ここにいると思ったぁ~!」
「世羅くーん! うちらと遊ぼーよ~?」
スカートを短く折り曲げ、メイクをばっちり決めた女生徒がふたり。
ひとりは"確信してた"というドヤ顔で世羅に駆け寄り、もうひとりは"ねーねー"と悪戯っぽく笑いながら後を追う。彼女たちは一直線に世羅の両脇へ向かった。両腕にまとわりつくように寄りかかりながら、甘えるような声を出した。
「あれ? 副生徒会長……? うわ、やっば!」
「ねぇユーキぃ~、カラオケいこ? 授業なんかより楽しいことしよ?」
片方の女生徒は月乃の姿に気づくやいなや、あからさまに顔を引きつらせた。だが、もうひとりはまったく気にせず世羅にまとわりつく。
世羅は腕を組まれたまま、わずかに眉を寄せただけだった。彼の立場から見れば両手に花……いや、両手にギャルだ。嬉しいことかどうかは人によるだろう。
「……」
「ねぇねぇ! ユーキぃ!」
世羅は答えない。そこまで邪険にしているといった態度ではないが、まともに相手する気はないといった体だ。
「あなたたち」
月乃の声音は、わずかに低くなった。しかし、その言葉には "まだ怒ってはいない"という余裕がある。
彼女はちらりと世羅を見る。世羅も月乃を見つめ返していた、無言で。
(……わたくしにやれというのですね?)
「ねぇねぇ、ユーキぃ~。カラオケじゃなくてもいいんだよぉ?」
「ユーキが行きたいとこ、ぜ~んぶ付き合ってあげる(はぁと)」
ふたりのギャル。その片割れが世羅の腕にぴたりと寄り添い、露骨にすり寄る。もう片方も"うんうん"と相づちを打ちつつ、世羅の反応を横目でうかがう。
世羅はというと――ただ、腕を組まれたまま、特に興味も示さず遠くを見ていた。
「スゥ……」
月乃は深呼吸をひとつ。
「あなたたち……今、授業中では?」
その声は、まだ穏やかだった。だが、微かににじむ圧力がある。
「そーだっけ? でも二年生もでしょ? なに……うっわ! 副会長、怒ってんの? そんな怒んなくてもいいじゃん?」
月乃は二年生で副生徒会長という立場だ。
ギャルの片割れ、おそらくふたりの中でリーダー格の方は、まだ余裕を崩さない。
「ねぇ、ちょっと……やばくない?」
もう片割れはすでに"マズイ"と察していた。リーダー格の袖を引っ張り始める。
ゴオオッ……。風が変わった。
ギャルふたりが息をのむ。
月乃の腰まで届く黒髪、根本でまとめられている。大きなポニーテールだ。前髪はキッチリと整えられ、生徒会員としての真面目さを強調する。
その黒髪に似つかわしくないのは、角だ。右額から伸びた鬼の角が、髪の房をわけている。根元は皮膚と同じ色で、先端にかけて赤黒い。
「えっ……ちょっと? 副会長……まぢな感じ?」
その角が徐々に熱を帯び初めていた。誰の目にも明らかにわかりやすく。
「ユーキ行こ……副会長、もう行くから怒んないで」
ふたりのギャルは世羅の手を引き場をはなれようとする。うつむき加減の月乃の脇をぬけて。
チャキ……。
野太刀が三人の行く手を阻んだ。鞘に収まったままなのは救いだろう。
「ドコに行くつもりですか?」
ギャルが答える。
「ドコって……カラオ……」
「教室っ! 教室に戻るにきまってんじゃーん! ねー? ゆーきぃ」
「……」
世羅は何も答えない、場の流れに身を任せていた。
「そうですか……それでは……その前に済ませましょう」
月乃は左腕にはめたR.I.N.Gを掲げる。金属的な光沢を持つリング状のデバイスが、彼女の手首にしっかりと装着されていた。
それは、この島に生きる変異体たちに等しく与えられたデバイス。通信端末としての機能を備え、情報へのアクセスを可能にする、いわば"未来のスマートデバイス"。
だが、実態はそれだけではない。
このデバイスは、個々の変異体を識別し、スコアを管理し、統制を維持するための監視ツール。装着者の生命情報や異能の使用履歴すら記録され、MONOLITHの監視下に置かれる
。
何より――決して外すことはできない。変異体である限り、R.I.N.Gから逃れることはできないのだ。
月乃がコールした。
「応えませい! MONOLITH!」
シュイィー……。
R.I.N.Gの表面に微細な光の粒が走り、システムの起動を告げるかのように淡く点滅した。次の瞬間、空間に微細なノイズが走り、あお白いホログラムが空中に展開される。幾重にも重なるデータフレームが交差し、無機質ながらもどこか格式を感じさせる声が響いた。
『R.I.N.Gプロセス起動……セキュリティレベル:特級』
「うそ! まぢ? なんで!」
「信じらんねぇ!」
ギャルふたりは顔を見合わせて言った。
「副会長っ! 見逃してっ! これ以上スコアを減点されたらまぢヤバいんだって!」
「そそっ! うちの親まぢでヤバくて!」
「規則ですので……授業のサボタージュ、立ち入り禁止のはずである屋上への侵入……明確な校則違反です」
『生体データ照合中……パルス解析クリア。遺伝子パターン一致……許可』
『デバイスID:882401 確認済。声紋認証:エラーなし。生態認証:変異世代3.0 確認』
『登録個体:怒島月乃……照合完了。MONOLITH-52964……プロセス応答中』
『認証プロトコル:生徒会特権アクティブ。識別コード:怒島月乃……生徒会権限認証中』
『認証完了……プロトコル:学内特権レベル3 承認。現在の権限レベル:執行者』
『実行可能アクション:罰則執行/情報閲覧/施設アクセス(制限あり)』
『ごきげんよう。識別コード"怒島月乃"、生徒会権限を確認しました。ご用件をどうぞ』
R.I.N.Gプロセスの起動が完了すると。月乃が口を開く。
「当学園における生徒会規則にのっとり、罰則スコアを算出せよ!」
『処理中……完了。対象三名のログを確認、罰則スコアを算出を開始……』
それまで月乃の行動を見守っていた女生徒が月乃にすがり、言った。
「ほんとまぢやめて! 副会長ぉ!」
『サボタージュ、侵入禁止エリアへの無断侵入……1000ポイントの罰則。加えて先ほどの生徒会校務執行妨害による罰則はプラス100000ポイントとなる。合計101000ポイント。執行しますか?』
「じゅうま……! ひぃい!」
ふたりのギャルは腰が抜けたように地面にうずくまり、涙を流した。美少女でも、非美少女でも、どちらでもないふたりだが。涙でメイクが流れて、見るに耐えない。
「やめてよー! ホントにしんぢゃうよお! 鬼ー!」
死ぬというのは決して大げさな話ではない。この変異島においてスコアとは通貨であり力であり、存在価値なのだ。全ての事象はスコアに行きつく。
「……」
鬼の変異体である月乃は、鬼と言われ慣れている。実際に鬼であるし、生徒会副会長として風紀を取り締まる様は、まさに鬼。
何時もであれば容赦なく執行していただろうが……本日この場、この面子では少し事情が違ってくる。
月乃はちらり……と、世羅の顔を伺う、まるでしかられる前の子犬のように。
「……月乃……」
世羅はこれだけを言った。他には何も言わない。
鬼の角の熱が和らぐ。
「……」
時間にしてほんの数秒。月乃は考えた。
「……おふたり、反省していますか?」
彼女はギャルふたりに向かって問うた。
「……! してる! してるよ! ねっ!」
ギャルの片割れがもうひとりに同意を求める。求められた片割れもクビを縦に振り、肯定する。
「してる! まぢしてる! ねっ、ユーキもしてるよね! ねっ!」
ギャルたちは、月乃ではなく世羅に助けを求めるように振り向いた。月乃は世羅に問うてはいなかったが。
「ああ……そうだね、すみません。副会長」
世羅はギャルの言葉を否定せず、素直に頭をさげた。月乃の表情に少し陰りが見える。角の発熱もすでに収まっていた。
「……ふぅ……」
月乃は深呼吸をひとつ、言葉を続けた。
「わかりました……。MONOLITH、執行はしない。わたくしの権限を持って本件は不問とする、ステータスをアップデートしてください」
『了解した、他には何か?』
「いいえ、ありません……クローズしてください」
『ではごきげんよう』
ーーブン。
ギャルたちは顔を引きつらせていたが、月乃の判断を聞いた瞬間、手のひらを返したように歓声を上げた。
「副会長、マジで女神っ!」
「やっさしぃ~!」
涙を拭いながら世羅の袖を引っ張る。少し前まで鬼呼ばわりしていたのを忘れたように。女生徒ふたりは世羅の手をひき、月乃の脇を通り過ぎようとする。数分前の行動を繰り返すように。
カチャッ!
月乃も先ほどと同じように、三人の行く手を野太刀でふさいだ。
「ん? なに? まだなんか用事あんのー?」
「ちゃんと教室に戻るってぇ、しつこくね副会長ー? 間に合わなかったら副会長のせいだかんね?」
ふたりの態度の急変に再び、鬼の角が熱を帯びた。
「あっ……やべっ……」
「うそうそうそ! ごめんて! 副会長っ、そんな本気にならないで!」
ギャルの片割れが必死に笑顔を作りながら両手を振る。もう片方は一瞬で戦意喪失し、青ざめる。
月乃は怒りを抑え込むようにふぅふぅと息を吐く。声色に怒りをのせたまま言った。
「生徒会命令です。三人とも放課後に、トイレの掃除をお願いします」
ギャルふたりは"えぇ~"といった表情で顔を見合わせた。ここまで大人しくしていた世羅も口を開く。
「三人ともですか?」
月乃はふっと鼻を鳴らし、スッと背筋を伸ばした。
普段はきっちりした生徒会副会長そのものな彼女だが、今は違う。ピンと張った背筋と、どこか冷たいが紅い光を宿した瞳。それだけで、場の空気が一瞬引き締まる。
角がじんわりと赤みを増し、わずかに熱を帯びていく。怒りを表すかのように、ポニーテールが風もないのにふわりと揺れた。
美しい顔立ちはそのままに、険しさが増す。まるで彫刻のように整った表情が、ほんのわずかに鬼の気配を帯びる。
カチャッ。
野太刀が、わずかに角度を変えた。さやに収まっているのに、鋭い圧だけが伝わってくる。
「三人ともです」
声音は淡々としていたが、その一言には、有無を言わせぬ圧があった。
ギャルたちは、あからさまに顔を引きつらせた。
世羅はため息をついた。
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