隠れ家
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
夜の帳が下りた第八区の運河沿い――
ひとけのない倉庫街に、三つの影が浮かび上がる。
濁った水面が微かに波打つたび、誰のものとも知れぬ足音が反響する。
その足音の主の一人、世羅は振り返ることもなく言った。
「ソフィア。私の借金のことだが、オマエがMONOLITHをハッキングして何とかすることは出来ないのか?」
いつもならヒールの音をコツコツと鳴らしているであろうソフィア。
いまはサンダルを履いていて、ビニールを擦る足音を立てている。
「いつもやってるみたいに?」
「そうだ、いつもやっていることだ」
「無理ね。監視カメラやドローンのハッキング程度ならMONOLITHは何も言わないの。彼……もしくは彼女かしら? とにかく、その気があれば、私程度のハッカーを締め出すくらいなんて訳ないわね」
氷室ソフィアは変異島でも五指に入るハッカーである。
その彼女が考慮するそぶりも見せず、肩を竦めた。
「どういう意味だ? MONOLITHがその気になればとは?」
「ある程度のハッキングはスキルの活用、他人を出し抜く実力ということで容認してるってこと」
「まるで犬と飼い主だな」
「ふふ……面白い例えね? そうね、私の感覚としてエベレストに挑む人間ってイメージだけどね?」
「ふむ」
世羅が「さてどうしたものか」と、考えを巡らし始める。
その姿を見てヤミ子が口を開く。
「エベレスト? って、なにぃ? な〜んか、さっきから二人で小難しい話ばっかりしてズルくねぇ?」
「あらごめんなさい。変異島生まれあなたには解らない例えだったわね……さぁ、入って。ここが私の家。遠慮は……できるだけしてね?」
そこは“部屋”というより、“倉庫”と呼ぶほうがふさわしかった。
実際に倉庫街にある、れっきとした倉庫の一つでもある。
打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた空間には、無数のディスプレイが並び、その発光が仄暗い室内を照らしている。
壁には銃火器が無造作に並び、所狭しと置かれたラックにはコードとガジェットの山。
整然とはしているが、片付いているとは言いがたい。
隅には簡易なキッチンと、小さなバーカウンターのようなものがあり、その上には開けかけのピザ箱が何枚も積まれている。
この倉庫に押し入った強盗がいたなら、きっとこう口にするだろう――「あっ、スパイのアジトだ」と。
「スパイみたいな部屋だな」
世羅がそう呟くと、ソフィアの肩がぴくりと反応する。
彼女は「何を言っているの?」と口にしようとするが――
「うわっ! かっけ~~!」
ヤミ子は家主を押しのけながら入室する。
目を輝かせながら辺りを見回している。
靴を脱ぐこともない。
玄関は存在せず、剥き出しのコンクリートが一面に広がっている。
「こらっ! 触っちゃだめよっ!」
「え~、ちょっとくらいよくね? ケチじゃん!」
ヤミ子はいくつも乱雑に並ぶキーボードのひとつに触れようとした。
ソフィアはすぐさま咎めた。
彼女が学校で見せる姿は理路整然としており、お硬いイメージがある。
しかし、赤のジャージ、お世辞にも整理整頓が行き届いているとは言えない室内はギャップを感じさせる。
おそらくこれが彼女の普段着なのだろう。
「文句があるなら家に帰りなさい、あなたの家までなくなった訳じゃないでしょ?」
「ここからじゃ家遠いしぃ。もう彼女の家に泊まるって連絡しちゃったもん」
ヤミ子は口を尖らせながら反論する。
「彼女……彼氏じゃなくて?」
ソフィアは眉をひそめながら聞いた。
「あー、ソフィアせんせー。まだそんな感じなん? 今どきパートナーの性別で引っかかるとか古くねぇ?」
「古いとか言わない。私はまだ二十代です。そうじゃなくて、世羅くんの家に泊まるって話だったんでしょ?」
「そだけど?」
「じゃあ、彼氏でしょ? というか、あなた達、付き合ってるの?」
「彼氏じゃない」
世羅は勝手の解らぬ室内で、座る場所を探しながら口を開く。
ソフィアの視線には気づいていたが、顔を向けることはなかった。
「そそっ、ご主人様だもんねぇ♪」
ヤミ子は両手を口元に添えて言った。
甘えるような声、あざとい笑顔だが、妙に似合っている。
「……」
ソフィアは足を止め、世羅に向けた視線を強める。
「おい、そんな顔で私を見るな。ヤミ子、話が二転三転しすぎだ」
世羅はソファーに深々と座りながら言った。
ソフィアにもヤミ子にも視線は向けておらず、天井で緩やかに回転するシーリングファンを見つめていた。
「はい。申し訳ありません、ご主人様~」
「ヤミ子」
「うあ、やべ。やりすぎた」
ヤミ子は視線をあちらこちらに散らし、指をくるくると回しながら、言葉を探る。
「まぁ実際、彼女の所に遊びに行ったあとに、マスターの所に向かったわけ。いまさら彼氏できましたって親に言いにくくてさぁ~」
「彼氏じゃない」
「もう、また話をループさせる気なの? 別にどっちでもいいわよ……」
ソフィアはため息をひとつこぼしながら、スツールに腰を下ろす。
ヤミ子はその隣、コードが絡まったラックの縁に軽く腰をもたせかける。
しばしの沈黙の後、ソフィアが口を開いた。
「それでなぜ、ギャングが世羅くんを襲撃したの? たしかにギャング達を襲撃してまわっていたけれど、足が着くような痕跡は残してないわ」
「それは確かだな?」
「ええ、私の仕事は完璧よ“マスター”。ギャングごときには“影”すら踏ませない」
そう口にするソフィアの表情は淡々としていた。
衒いなどもなく、気負うこともなく、ただ真実を口にしている。
「だとしたら、偶々だな」
「偶々?」
「偶々、私の同級生に多湖がいて。そいつが偶々、ヤミ子にガチ恋。しかも偶々、ギャングの一員だった」
「えーと……要するにどういうことかしら?」
「多湖が手にしたくてたまらなかったヤミ子を、私が手にしてたってことだな」
「言い方よ……本当にご主人様って言われたいんじゃないのー?」
ヤミ子は眉をぴくりと動かし、軽くツッコミを入れる。
呆れたような口調ではあるが、顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「んでも、意味わかんなくねー? あーし、多湖を勘違いさせるようなことなんもしてねーし?」
ヤミ子は顎に手をあて目を泳がせながら続けた。
「そうなの?」
ソフィアが足を組み替えながら問う。
昼間ならタイトスカート越しに艶めかしさすら漂う所作だが、今は上下ジャージ。
色気の欠片もない装いでは、どうしても様にならない。
「学校で話したことないよ〜。握手会とかでは話したことはあるけど、でもそれってビジネスじゃん?」
世羅がぽつりと口を挟んだ。
「同情する」
「でしょー? 俺の元に戻って来いとか言ってたけど、意味わからんくねぇ?」
「いや、“多湖”に同情している」
世羅は小さくため息をつき、首を横に振った。
「なんでぇえ⁉」
「世羅くん。あなたの立ち位置でそれを口にするのは一番残酷だけど?」
「そうか、確かにな。まぁ、同情はするがとてつもなく阿呆なことに変わりはない。私のヤミ子を傷つけたしな」
「ひゅー」
ヤミ子は世羅を茶化すよう口笛を吹いた。
上手く鳴ってはいないし、顔をほのかに赤らめている。
「なんだ?」
「あなた達……やっぱり付き合ってるの?」
「なんでそうなるんだ」
世羅はため息まじりに地面に視線を移す。
ヤミ子はニヤついたまま、ソファの上で軽く一回転して、世羅の顔色をうかがう。
ソフィアは言葉を継ごうとしたが、軽く手を振ってそれを飲み込んだ。
「ところで、この家は客に茶の一つも出さないのか?」
「なによそれ? あなたの家にお邪魔した時にもてなされた記憶はないけど?」
ソフィアは立ち上がり、ラックの裏に押し込まれた冷蔵庫の扉を開ける。
中には半端なペットボトルと、冷え切ったピザの欠片が残っていた。
ひと呼吸置いて、彼女は小さく肩をすくめた。
「この家に客を呼ぶつもりはなかったから、何も用意していないのよね。近くのコンビニに行ってくるわ」
「えっ? こんな時間に? 危なくねえ?」
「世羅くんの家まで、私を呼びつけといて今さら何言ってるの? コンビニは目と鼻の先だから平気よ……それに、私にはコレがある」
コンクリの床をコツコツと歩きながら、ソフィアは部屋の隅のラックに引っかけてあったストラップを手に取った。
無造作に首にかけたそれは、どう見ても“本物”のアサルトライフルだった。
「堂々と首からぶら下げておくのがコツよ」
冗談のようで冗談でないその姿に、ヤミ子は半笑いで肩を震わせる。
「うわ、ソフィアせんせー。学校以外だとそんな感じなん? おもしれ〜女ぁ!」
ガチャ――バタン。
金属製の扉が閉まる音が響き、室内に静けさが戻る。
照明の明滅だけが、淡く部屋の輪郭を浮かび上がらせていた。
「ねぇ、マスター」
「なんだ?」
「おなかすいた」
「そうか」
「……」
「……」
「しよ」
「いや、まずいだろ」
「なんで?」
「その質問に答える必要あるのか?」
「しよ」
「……」
「せんせーが返ってくるまでに、ちょいちょいって終わらせればよくね?」
「……」
「次に無言だったらオッケーて意味ね? マスターもしたいっしょ?」
「……」
「うわ、おいバカやめろ」
「うるさいなぁ! さきっぽだけだから!」
「ソレは私の台詞だっ!」
「今日は変に頑張らずにさくっといっちゃえ! あーしの栄養補給なだけだからさっ!」
「うわおいばかやろう」
「うわー。口ではそんなこと言いながら、こっちは大変なことに〜」
――ガチャリ。
唐突にドアが開いた。
コンビニに向かったはずのソフィアが、手ぶらでひょこっと顔を覗かせる。
「……忘れ物、取りに戻ったら、コレ?」
「げっ! せんせいっ!」
「むう」
ソフィアは部屋をぐるりと一瞥し、ため息まじりに肩をすくめた。
「近くにそういうことをするためのホテルがあるわよ? 続きはそっちでお願いできるかしら?」
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