リビドーブースト
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
空気が張り詰めていた。
屋根のトタンが軋んでいる。
ギャングたちがかすかに動くたび、“ギィ……”という音が響いた。
日は沈み、無機質な街灯の光だけが周囲を照らしている。
普段は必要最低限の光量しかない街灯だが、今宵はやけに明るい。
欠けた月の光だけでは、ボロアパートの屋根上まで照らしきれないが、それを補ってなお余るほどの光量だった。
世羅、ヤミ子、多湖、そしてギャングたちの顔がはっきりと見える。
戦闘の気配を察知し、MONOLITHが監視を強化したのだろう。
周囲の建物に隠された数百台もの監視カメラが、一斉にレンズをこちらに向けた。
闇夜に紛れ、監視用ドローンも次々と集結している。
介入はせず、ただ監視する──それだけが目的だった。
戦いの火蓋を切ったのは、最前列にいたギャングの一人。
名前を語る必要はない──彼は最前列にいたから、真っ先に殴りかかった。
格闘技とは言えない、実戦仕込みの大振りな一撃。
世羅は男のパンチを皮一枚の間合いまで引きつけ、反撃の蹴りを放った。
ゴッ――!
彼の一撃は最短最速で男の頭を捉え、脇の道路を越えて、向かいの建物の壁へと吹き飛ばした。
打撃の瞬間、ほとんど手応えを感じなかった
完全に芯を捉えた時の、あの奇妙な軽さ――。
ドゴォ!
男が打ち付けられた壁にはひび割れが走り、周囲に破片が舞った。
……ズリズリ……ズズズ………………ドサ
男は白目を剥いたまま、落下し屏の向こうに消えていった。
死んでいても不思議ではない。
まるで居合の達人が抜刀するかのような蹴りだった。
「おい、こいつ……」
「へぇ……女みてーな顔してる割には……やるじゃん」
仲間がそのようなやられ方をしたが、ギャングたちに動揺はない。
彼らもまた変異島において身勝手に生きることを決めた不良たちだ。
喧嘩には慣れている――そして、それ以上の戦いにも。
「体から青いモヤみてーのでてねぇ?」
「気を付けろ。バフ系の異能だろ?」
厳密には異能ではない。
変異世代3.0以上が備える――機能。
各々が執着する“欲望”の”%”に比例して出力を強化する――“欲望強化”。
この場にいる若者たちの大半は3.0世代だが、“意図的”に発動できる者はほとんどいない。
それはクランマスター、もしくはそれに準じる者だけが持つ“強者の証”なのだ。
「おい、一人ずつじゃねぇ、囲め!」
多湖が仲間に指示を出す。
彼は自分がこの場の中心だと錯覚していた。
「おぃ、命令してんじゃねーぞ、多湖ぉ?」
ギャングの一人はそう口にしたが、ジリジリと世羅を取り囲む位置に移動する。
他のギャングたちもそれに倣った。
多湖が調子に乗るのは気にくわないが、世羅の実力を過小評価する者は、この場にはいなくなっていた。
どんな手段を用いても、完膚なきまでに叩きのめすーーというか殺す。
ギャングたちの敵意は、一つにまとまりつつあった。
カチャ……カチャ……
ギャングが世羅をぐるりと取り囲んでいる。
ボロアパートの屋根上は狭い。少し踏み込めば互いが射程内だ。
世羅の間合いギリギリをギャングたちは移動し配置についた。
時間にして数秒、沈黙が落ちる。
「いくぜっ! オラぁ!」
多湖の叫びと共にギャングたちが動いた。
四方八方、円陣を縮めるように男たちが世羅に迫る。
世羅が低く唸り声を上げるーー
「異能:衝撃破!」
瞬間、空気が爆ぜたような鈍い音が響く。
衝撃波は目にも留まらぬ速さでギャング一人の腹部を直撃する。
その男は「ぐぁああ!」と呻ぎ声をあげ、一度だけ屋根にバウンドすると空中へ投げ出された。
「おらぁ!」
別のギャングが世羅に向かって、飛び込むように拳を振るった。
ガッ!
世羅は放たれた拳の軌道をずらし捌く。
「こいつ! 死ねコラァ!」
続けざまに別のギャングも跳躍し、強烈な肘打ちを叩き込む。
ゴッ!
男の肘が世羅に届くことはなく、代わりにカウンターでの蹴りをくらう。
「囲めっ! 囲めっ!」
世羅に対して六人のギャングが迫り、パンチやキックを繰り出す。
だが、同時に攻撃できるのは一人、多くて二人だ。
その程度の数であれば、世羅は難なく対応できる。
突きを払い、蹴りをいなし、時には体を入れ替え、細かく反撃も行う。
「うわぁ! 危ねぇし!」
世羅の脇に抱えられたヤミ子が、悲鳴にも似た声をあげる。
彼の素早く力強い動きに振り回され、髪が乱れる。
「同時だっ! 同時に行けっ!」
多湖は着かず離れずの距離で指示だけを出していた。
彼がこの襲撃の為に仲間を集めることが出来た理由、それは不明だ。
特に人望があるわけでもないから、ろくな理由ではないのは確かだ。
「だからっ! 命令すんじゃねぇ! 多胡ぉ! てめーも戦えやっ!」
ギャングクラン“アイアンメイデン”のメンバーは、大半が第八学園の生徒で構成されている。
世羅やヤミ子と同じ第三学園の生徒は、多胡を置いて一人として居ない。
無法地帯の第八学園と違って、第三学園は規律があり校則がある。
故にバカにされているのだ、ルールに縛られ、守られている腰抜けども――と。
この評価は、そのままクラン内での多湖の立ち位置だが、本人だけが気づいていない。
ゴッ! ガッ!
「バカやろう! 俺を殴るんじゃねぇ!」
「知るかっ! 避けろやっ!」
ガンッ!
多胡の命令に従ったのか、それとも各自の判断かは定かではないが、ギャングたちの攻撃が一斉に殺到しはじめた。
順番に来ていた殴打が、今では前後左右、全方位からのラッシュに変わっている。
だが、そこに連携はなかった。
同士討ちの頻度も増えていく中、わずかに成功した打撃も混じっていた。
そのいくつかが世羅に当たり始める。
それでも世羅は、ヤミ子を抱えたまま、一歩も退かなかった。
むしろ、彼女を守るために、自ら攻撃のラインに身を差しだすことすらあった。
「ますたぁ! 無理しないでっ! あーしは大丈夫だから!」
「黙って俺に付いてこい!」
その一喝と同時に、世羅がステップを踏み始める。
ヤミ子を抱えたまま、腰を軸に体を回す。
「うわぁ! 目がまわるかもぉ!」
「なんだこいつらっ! うごくんじゃねーよ!」
回転と共に、世羅とヤミ子の位置が交互に入れ替わる。
攻撃の的が絞れず、タイミングを外されたギャングたちが苛立つ。
まるで社交ダンスのような動き――だが、そこは世羅のオーラが渦巻く、“蒼い暴風”の中心だった。
「うぜぇ! 止めろ止めろ! 数人で押しつぶせっ!」
的確な指示を出すギャングに呼応して、周囲の仲間たちが縮むようににじり寄る。
回転するコマを掴んで止める――そういった狙いだ。
「こんにゃろぉ!」
ヤミ子が回転の勢いに乗せて蹴りを放つ。
「うがっ!」
その蹴りは近くにいた男の腹に深く突き刺さり、呻き声をあげさせる。
「ヤミ子! 捲れないように注意しろ! 回すぞ、弾き飛ばせっ!」
世羅の声が飛ぶ。
ヤミ子は即座に、体に巻いたバスタオルの端をぎゅっと握った。
「りょーかい!」
そのまま身を預け、世羅の動きと一体化して――脚を周囲へ伸ばした。
ゴッ!
ガッ!
バキィッ!
二人の連携は完璧で、ちいさなハリケーンとなる。
ギャングたちの体が次々と宙を舞い、転がっていく。
世羅が一歩踏み込み、腰を軸にした全身のスピンへ移行する。
ヤミ子の体が外側へと開き、フィギュアスケートのペア演技のように腕に支えられたまま水平に振り回された。
だが、ここは氷上ではない。
蹴りの先には男の腹と顔があり、その体が宙へと吹き飛んでいく。
美と暴力が渾然一体となった旋回は、決して止まる気配を見せない。
「どけバカっ!」
「うぉっ、俺を攻撃すんなっ!」
「ボサッとしてんなよ! こらぁ!」
怒号と悲鳴が交錯するなか、ギャングたちは同士撃ちを繰り返し、無意識のうちに殴り合っていた。
一方、世羅とヤミ子の動きは一切ぶれていない。
呼吸を合わせるまでもなく、次にどう動くかを当然のように把握していた。
「ますたぁ〜! バスタオルぅ! とんでっちゃう〜!」
「死守しろっ!」
「無理なんだけどぉぉ!」
ヤミ子は腰まである銀髪を振り乱し、悲鳴を上げた。
裸を見せるなという“命令”を健気に、必死に守り続ける。
「テメーら! 何遊んでやがるっ! どけっ! 俺がやるっ!」
輪に入らず、少し離れた位置で様子を伺っていた男が言った。
手には金属バット、他のギャングたちに比べて一回り大きい体躯だ。
加えて――。
「異能:武器強化だっ!」
男が叫ぶと同時に、手にしたバットにオーラが宿る。
変異体が持つ異能の中でも、ポピュラーな武器強化のひとつだ。
しかし、変異体の身体能力と合わさることで“必殺”の威力となる。
「おらおらおらぁあああっ!」
バットを持った男は雄たけびを上げながら、突進をする。
味方のギャングを押しのけながら、世羅の頭に金属バットを振り下ろす。
ドギャッ!
鈍い衝撃音とともに、屋根に大穴が穿たれた――が、既に世羅の姿はそこにはなかった。
「隣の家だっ! 追いかけろっ!」
世羅はヤミ子を抱えたまま約十メートル跳躍していた。
アパートの屋根上から、隣の一軒家への移動。
その家は古びた瓦屋根だった。
ガァチャン――!
世羅とヤミ子の着地の衝撃で、瓦が砕け散った。
「ますたぁー! 来てる来てるよぉ!」
ガチャンッ! ガシャン!
「わかってる」
一人、二人、三人と、ギャングが次々と飛び移ってくる。
小さな一軒家の屋根はそれほど広くはない。
「いけ! いけっ! 全員で追い詰めろっ!」
四人目が飛び移ろうと空中に舞った――その瞬間。
「人数オーバーだっ! 衝撃破っ!」
ドグォッ!
世羅はその男を迎撃した、男は悲鳴をあげる間もなく地面に落下する。
「うらぁっ!」
「いけっ!」
だが、そんなことはおかまいなしに五人目、六人目が飛び移ってくる。
「ちっ! もう一度、飛ぶぞっ! ヤミ子!」
世羅は苛立ちを募らせる。
十メートルもの幅跳びを全てのギャングがこなすのは、想定外だった。
良くて半数、少なくとも三分の一は振り落とせる、そう考えていた。
実際には全てのギャングが軽々とこなした。
一般人のトップアスリートに相当する身体能力──それが変異体の下限だ。
個体によっては運動が苦手という者も存在するが、内包する能力は桁違いである。
世羅はヤミ子を抱えたまま、屋根から屋根へと飛び移り、次々と居場所を変えていった。
移動範囲はボロアパートの周辺に限られている。
それ以外の建物は距離や階層の高さが障壁となり、飛び移れない。
その結果、彼の動きはアパートを中心に円を描いていた。
「おいっ! 逃げてんじゃねーぞ! 腰抜けがぁ!」
多湖の罵声が辺りに響く。
同時に、多湖から二本の影が伸びて世羅の足元をすくった。
世羅は素早く反応し、軽く跳躍して回避する。
「!」
影が鞭のようにしなり、次の瞬間には世羅の背を狙って振るわれる。
それを見たヤミ子が思わず声を上げた。
「なんじゃこりゃぁ!」
バシッ! バシィ――!
世羅は屋根上を駆け回り、時には五階建てのマンションの壁を蹴って身を翻し、縦横無尽に動いて回避した。
多湖の“異能:双影触”ーーふたつの影の触手は柔軟で、よく伸び、よくしなった。
彼はボロアパートの上から一歩も動かずに世羅を追い立てる。
残りのギャングたちも、世羅との追いかけっこを続けるが、双影触は、彼らの都合を顧みず暴れ続けていた。
「てめぇ! 多湖ぉ! ちったぁ考えろ!」
相変わらず、彼らには連携の概念がなく、行き当たりばったりだ。
世羅が目の前にいれば殴り、逃げれば追いかける。
それでも世羅にとって十分に厄介な状況であった。
圧倒的な人数差、何よりヤミ子を抱えたままというハンデは大きい。
両腕が自由なら、この戦いは既に終わっている。
だが今は、ヤミ子を離すわけにはいかない。
戦うことが目的ではなく、ヤミ子を守ることが目的なのだから。
「うっひゃあああーー!」
世羅はふと、腕の中の彼女を見る。
ヤミ子は叫んでいた。だがそれは、怯えや苦痛ではない。
まるで絶叫マシンに乗っているかのように、楽しげな悲鳴だった。
彼女は戦いの最中だというのに、叫び、怒り、調子に乗り、泣きそうになったりと、めまぐるしく表情を変えていた。
仮に自分が負けたら――この娘を奪われ、酷い目に合わせてしまう。
世羅の背筋をぞっとするような感覚が駆け抜けた。
『カタリシス反応……150%……160%』
R.I.N.Gが世羅の“欲望”の更なる上昇を検知する。
彼にとっては、手元に置くに値する“美少女”を、“手に入れる”こと、そして、“手放さない”こと――それが全てだ。
何も得られなかった過去に決別し、空っぽだった自身を埋める為に、自らの意思で変異体へと“堕ちた”のだ。
欲望のままに“独占”する――迷いなどとうに捨ててある。
例え窮地に陥ろうとも、彼がヤミ子を手放すことはない。
「ますたぁ! 抱きしめすぎだよぉ! ちょーと苦しいかもっ!」
ヤミ子が叫んだ。
苦しさを訴えながらも、どこか楽しげな声だった。
「すまん」
彼はヤミ子を抱える腕の力を緩めた。知らぬ間に力みが混じっていたのだろう。
ヤミ子は「おけっ」と短く答えると、にっと笑った。
「今の強さはちょうどいいっ! 絶対、離さないでねっ!」
こうなった以上は、ヤミ子も世羅から離れる気はなかった。
マスターが「離れるな」と口にした以上は、離れるわけにはいかない、離してもくれないだろう。
だったら全力で“しがみつく”、それがこの戦いにおける“最適解”。
もちろん、バスタオルのことも忘れない。
世羅の隣に居続けるなら、そこだけは、絶対に譲れない。
月夜に照らされながら、二人は屋根の上を舞っていた。
守る者と守られる者――その境界は、既に曖昧だった。
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