件名:12人の転送が確認されました。あなたは無事ですわ
ポチ、ポチ、ポチ――。
砂漠の夜風が、私の長い鼻先をかすめる。
足元には乾いた砂がひそやかに流れ、遠くでは異国情緒漂う楽器の音がかすかに聞こえておりました。
「まさに砂漠の夜街らしい風情」
そんな静寂の中、私はガラケーを優雅に開き、ポチポチとボタンを押し続けております。
「ふふ……すでにターゲットへはメッセージを送信済みですのよ?」
【送信済みメール】
件名:「あなたの魂を狩りますわ」
送信先:◯◯亭(ターゲット確定)
「では、次の標的に参りましょうか」
「ちょっとボルゾイ御夫人⁉︎ まだ街の情報も集めてないのに、もう行くの⁉︎」
リアンさんが慌てて私の後を追いながら、スマホの画面と私の顔を交互に見つめております。まるで「せめてもう少し慎重に行動しようよ⁉︎」という目をしておりますわね?
私は静かに夜の砂漠を見渡しながら、優雅に歩を進めました。
「計画なら、すでに立てておりますわ」
さらりと告げると、リアンさんが困惑の表情を浮かべた。
「え? いつの間に⁉︎」
「先ほど、カウンターで紅茶をいただきながら」
「……いやいやいや⁉︎ そんな短時間で⁉︎」
リアンさんが驚愕の表情で、スマホを握りしめる。しかし、私はフフッと微笑みながら夜空を仰ぎ、星の輝きを眺めました。
「転生者というのは自ら情報を漏らしてくださる方々ですもの。対処法など、最初から決まっておりますわ」
彼女はスマホの画面をまじまじと見つめた。
「まさか……もう情報を入手してるってこと⁉︎」
その問いに、私はつぶらな瞳を輝かせながら、ニコリと優雅に微笑む。
「ええ。そして……」
◆ 一方、その頃――「転生者の反応」
【スレッド:ヤバい、12人に転送しろってメールが来た】
匿名1:「おいおい、また来たぞ……件名が変わってる」
匿名2:「12人に送れって……え? 今回は助かる系?」
匿名3:「誰か試したのか?」
匿名4:「えっと……俺、一応12人に送ったけど……まだ来るんだけど⁉︎」
匿名5:「あーあ、終わったな……」
――ポロン。(新着メールの音)
匿名6:「待って、誰か返信したらしい……!」
◇◇◇
「なるほど……転生者たちはすでに"信じて"おりますのね」
私は夜空に広がる無数の星々を仰ぎながら、静かに言葉を紡ぎました。
「私の手の中にあるのは、ターゲットの魂だけではございませんのよ?」
この世界の理は、ただの噂話を"偶然の戯言"で済ませるほど単純ではございません。
転生者たちが恐怖と不安を募らせ、それを語り継ぐほどに……その噂は呪いの力――「呪力」を帯びて実体を得ていく。彼らが「オオアリクイのメールは呪いだ」と囁けば、それはいつしか呪詛として根を張り、彼らが「返信した者は消える」と怯えれば、それは次第に現実を歪めるのです。
「そして、それを可能にするのは……」
私の手の中にある、このガラケーという呪具ですわ。復讐を願い続けた一年間、その思念がこの道具を染め上げたのですもの。
もはやこれは、ただの通信機ではございません。私の憎しみと怨念を宿した、呪詛を届ける"媒体"に過ぎません。転生者たちが自らの噂に怯え、恐怖を糧に怪異が育っていく様子を……ただ私は静観するだけでいいんですもの。
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