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4月1日  作者: 蓮枯Re:
1/1

プロローグ 15円

 鬱陶しいな、心って。

 分かってる。結局はどうにもならないって。だけどつい、君の声を聞くとその方向を見る。馬鹿だな、私。

 何を期待しているんだろう。その声が、私に向けられているとでも思っているのだろうか。まったくもって馬鹿な思い違い、ぬか喜び。

 期待した分だけ、落ち込んでしまうと私は学習したのに、ずーっと同じことを繰り返すつもりかな。

 君が視線を向けている方へ視線を向け、君が友達と話している会話が特別耳に入り、君の癖を自分で実行してみたり、君が座っている席を確認したり、歩いて行く方向を目で追ってしまったり。

 いわゆる、ストーカーみたいだ、とつくづく改めて思う。

 君が好きになる物は、私も好きになりたくて、君が笑っているのがとても嬉しくて。

 その笑顔が誰に向けていられたとしても。


「えっ…もぅこんな時間…」

 近くの本屋で立ち読みに耽って、もう午後六時。好きな事をしていると時間がたつのが早いというのは、このことらしい。少し面白そうな本を見つけたので、ちょっと読んでみよう、と思ったらすっかり本に夢中になり、三分の一ほど読んでしまった。

 しかし、いざ買うとなると少し躊躇う。この本の最後の種明かしが面白くないかもしれない。過去に、推理物の本を買って、最後の結果が分ってしまって面白くない、という本を買ってしまったことがあるからだ。

 ここまで読み進めてしまったから、かなり先が気になってしょうがなかった。とぼとぼと歩き、レジの列の一番後ろに並ぶ。お金が足りるかどうかが心配なので、鞄から財布を取り出して中を見ようとしていたら、脇に挟んで持っていた本を落としてしまった。

「あっ…」

 本が落ちた。わかっている、が、今は財布から出した小銭で手がいっぱいな為、すぐに拾えない。それでも拾おうと思ってしゃがみこみ、本をつかもうとしていたら、小銭までもが落ちて転がってしまった。

「あーもうっ」

 どうしてこんな風に嫌なことが繰り返されるのだろう。これが、泣きっ面に蜂。

 とりあえず、手に残ってる小銭を政府の中へ、落とさないように入れて、落ちた小銭を拾い集めていく。ふと、視線を感じたて、周りを見渡すと、列に私と同じくらいの男子がこっちを見て笑っている。 相手は立っていたのでよく顔は見えなかったが、たぶん、馬鹿にしているんだろう。ものすごく恥ずかしくなって、視線を小銭に戻す。なんでこんな時に限って小銭が多いのかな。イライラする。

 落ち込みながら拾っていると、近くにしゃがみこみ、

「大丈夫?」

 と誰かが声を掛けてくれた。やっぱり、親切な人もいるんだ。そう思って、嬉しくて顔をほころばせながら顔をあげたら、しゃがんでいるのはさっきの人……また馬鹿にしに来たのか。

 さっきは顔がよく見えなかったが、今は見えた。やっぱり笑っている。だが、優しそうな笑いだった。好きな顔だな、と思った。

 そう思っていると、彼は落ちた本を手に取った。ぼーっと顔を見ていてしまっていた。なんでだろう。急いでまだ落ちている小銭を拾った。拾い終えて立ち上がると、彼も立ち上がる。ふーっと息をつく。やっと片付いた。

「この本、俺が気になってたやつだ。俺も買おっかな」

「ふーん…じゃあ買えば?」

「んー…今はこれ買うし、また今度にする」

 ……何故、そんなことを私に言う? 買うなら勝手に買えばいいのに。でも、嬉しかった。この人の顔とか雰囲気が好き。そんなことを考えてしまっていた。

 何考えてんだろう。この人とはこれっきりなのに。いや、でももしかしたら……。

「次のお客様どうぞ」

「あ、すいません」

 レジの方を向き、急いで財布をまた開け、小銭を出す。レジに表示されている金額は、五二五円。手の上に全部のせてある所持金の金額、五一〇円。全身をさーっと汗がつたる。

 ないかないかと財布を覗き込む。……無い。

「お客様?」

 諦めるしかないようだ。ここまで来てお金が足りないとは。迂闊。恥ずかしいなぁもう。

「や、やっぱりやめときます」

 落ち込み加減にそう言うと、すぐ後ろの彼が口をはさむ。

「え、お金足りないの?」

 彼が少し笑いながら言う。なんでそういうこと言うのかな、余計恥ずかしくなるって。

 少し彼の方を見て、何か言おうとしたが、何も言えなかった。何も言えずに突っ立っていると、彼が財布から十円玉と五円玉を取り出す。

「はい、これで足りた」

 そう言って彼は足りなかった十五円を、五一〇円が置いてある私の掌に置いた。うまく彼の考えが読み取れなくて、ぼーっとしている私を彼は急かすように、

「早く代金払えって。遅い!」

 と、文句を言う。その時は、列には他にも客さんがいて急がないといけないと思うのと、頭が困惑して冷静な判断ができなかったため、その本を買ってしまった。

 代金は、五二五円だった。

 買い終わってから、ようやく終えてほっとした安堵で、冷静さを取り戻した。勢いで買ってしまったが、この本の十五円を出してもらったのは彼だ。

 彼は自分の本を買い終えて、何事もなかったのように立ち去ろうとした。その彼を、反射的に呼びとめた。

「あの…さっきはありがとう」

 彼の目をしっかりと見た。彼もこっちを見ている。こっちが見ているのに、相手の目の奥に吸い込まれるような気がして、我慢できず少し目をそらした。妙に顔が熱い。

「いいって。十五円くらい」

「今度ちゃんと返すから」

「今度って?」

 彼がまた優しそうに笑う。その顔を見ているだけで私は嬉しくなる。ずっとこのまま喋っていたい――。

 だが、それは叶わぬ夢。この彼とはたぶん、もう会えないだろう。今度なんてなかった。

「じゃあ…いつか! いつか絶対返すから!」

「わかった、わかった。じゃあ、俺はその『いつか』を楽しみに待っとく」

「うん、じゃあね…」

 彼は小さくこくりとうなずき、踵を返して出口ドアへ向かっていった。

 彼がこの本屋を出て行ったあとも、私はまだそこに突っ立っていた。脈がどくどくと流れているのがわかるし、顔も熱い。

 もう会えないはずなのに、そんな気がしない。

 どうやら、私の初恋は名前も知らない彼に注がれてしまったようだ。

 私は、『いつか』を楽しみにして、本屋を出た。

 外はまだ肌寒い。もうとっくに春は来たというのに。


 本日、四月一日、『エイプリルフール』。今日起った出来事は、小さな嘘にすぎないのだろうか。

初めての小説に緊張していますw

まだまだ文章構成などが、ぐちゃぐちゃな気がしますが、アドバイスなどがあればよろしくお願いします。


修正点・改善点があれば、コメントお願いします。

読んで頂き、ありがとうございました!

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