緋桜花 新/旧
【緋桜花 新】
朧月夜に深山 古の大樹聳え
繊細なる枝指に 火なる緋き桜
若き剣士魅了し 艶やかなる景に
風走りて 火く緋く
滾る熱情 我が一刀に刻む
その銘──緋桜花
【緋桜花 旧】
我が生涯において この一刀に勝るものなし
燃え盛る炎のごとき 絢爛な緋き桜吹雪
見上げし若き剣士の姿 魅せし情景に込め
その銘を刻む──緋桜花と
没ネタ(供養)
とある老いた刀鍛冶が、大陸から来た若き剣士と出会う。
不器用ながら、二人は交流し仲を深めていくが、剣士が大陸へ帰る時期が迫ってきた。
刀鍛冶は必死に剣士を押しとどめて、帰郷を引き延ばす。
刀鍛冶は剣士のために、自分の退き時のために、最後の一刀を打ちたかったのだ。
刀鍛冶は山師から聞いた、ある場所へ剣士を連れていく。
山の奥にその大樹は生える。
火桜、緋桜と呼ばれる、緋色の桜。
剣士は魅され、ぼうっと巨木へ近寄る。
やがて風が吹き桜が舞う。すべてを艶やかに緋く染める。
刀鍛冶は、その光景に忘れていた情熱を思い出す。
──そうだそうだ、これがおれの打ちたかったもの。
刀鍛冶は、剣士のために最後の一刀を打つ。
その銘を『緋桜花』という。
剣士は感謝とともに緋桜花を抱え、大陸へと帰るのだった。
刀鍛冶はその後、すべてを息子に継がせ、余生は妻と静かに暮らした。




