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帝国の歌姫よ
帝国の歌姫よ
貴女は唯一人 歌劇の舞台に立つ
蜂蜜色の髪を結い上げ 鮮烈なる青き瞳を定め
滑らかなる紅唇を開き 白き喉元を上げ歌う
歌姫に楽器も人もいらず
透き通る硝子の声 深い闇の奈落の声
静かなる凪の声 木漏れ日の温かな声
人々を魅了せし天上の声
自在に高低を操り 望むがままに歌う
帝国の歌姫として 世界に名を響かせた
その活躍を前に我らの神は
貴女を我がものにしたいと
肉体と生命に病を与えたもう
若くして蝕まれ 貴女は死期を悟る
最期に最大の歌劇を歌い切った
人々の惜しみない拍手は尽きず
天幕が閉じると同時に 貴女の命は尽きた
我らの神により疾く攫われたのだ
今、貴女は天界の歌姫であろうか?
神のための歌の女神であろうか?
帝国の歌姫よ
もし貴女が人としての命の短さを
満足に歌えなかった後悔を
抱いているのであれば
我らはそのすべてを否定しよう
貴女が泣くことはない 嘆くことはない
貴女の歌声は消えない 貴女の名声は尽きない
その姿と歌声は 天と地と神と人の歴史に
すでに刻まれているのだから