68/133
貴方だけだった・形骸の約束
【貴方だけだった】
「きみを助けてあげよう」
私は
貴方の深紅の瞳を
感情の読めない笑みを
差し出された手を
じっと見つめる
この手を取れば
私は二度と戻れない
自らは囚われ
周りを容赦なく巻き込む
それが最悪な結末を生む
引き金だったとしても
それでも──
私に助けを
手を差し伸べてくれたのは
貴方だけだった
たったひとり
貴方だけだった
だから私は
【形骸の約束】
『ずっと一緒にいようね。約束してくれる?』
『ああ、ずっと一緒にいる。──約束だ』
二人で誓い合った夜空 大きな月明りの下で
温かな抱擁と愛しき口づけを交わす
約束したのはいつだったか?
約束した相手は誰だったか?
遠い遠い──
忘れてしまった
果たされることのなかった
形骸の約束
それでも"約束"を
忘れることはできなくて
遠い風撒きの果て
散り散りになっても
私はここに居続ける
本当に忘れられる日が来るまで




