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ラストダンス
『火炎の舞姫』と謳われる、踊り子の私
その相手を務めてきたあなた
ほら、向き合えば、自然と音楽に合わせ軽やかに
手、足、全身でお互いを感じあう
呼吸のリズムすらあっていて
この関係がずっと続くと思っていたわ
でももう、これで最後
私もあなたも違う道を行く
だから生涯で最高の踊りを
あなたのために
あなたのためだけに踊るわ
今だけは、この瞬間だけは
私はあなたのもの、あなたは私のもの
お互いに見つめ、複雑な感情が絡み合う
やがて音楽が終わり、踊りも終わった
周囲からの惜しみない拍手に
私とあなたはいつものように
微笑みながらお辞儀をした
お互いに言葉はなく
見つめ合うこともなく
関係は終わった
でも、それで十分だった
だってお互いの別れは
重なった瞳の中で交わしたから
あなたは最愛の婚約者のもとへ
私は新しい踊りの相手のもとへ
私は旅立つ
国一番の舞姫として、各地を回るために
あなたは残る
婚約者と結婚し、家を継ぐために
さようなら、私の最高のパートナー
けれど、この最後の踊りが
あなたの心に消えることなく
残ることを私は知っている




