冬の夜、滑り台の上で
深夜の仕事帰り
何もかも嫌になって走り出した
冬空のハイテンション
近所の公園に逃げた
ヒール脱ぎ捨てて
バッグ放り投げて
滑り台に登った
足が痛かろうが
どうでもよかった
滑り台の天辺で
つらくて泣いて
苦しくてわめいた
自分の不甲斐なさが
腹立たしくて
俯きたくなる顔を
必死に上げた夜空には
憎らしいほど星が瞬いていた
月が本当にきれいで
呼ばれている気がした
私を連れてって
月のそばにいけば
ちっぽけな私も輝ける──
なんて幻想はなくて
一気に襲う寒気で 現実直視
月は呼ぶことも誘うこともない
ただ浮かんでいるだけ
当然すぎる事実に
自分の惨めさを嗤った
そのままでいたら
声を掛けられた
近所のおばさん
夜中なのに
見回りしてるって
ヒールとバッグを
拾ってくれて
上着を被せてくれた
私をベンチに座らせ
自販機のコーヒーをくれる
一口飲んだら沁みた
まるで陳腐な感動話
お涙ちょうだい一場面
だけどおばさんは
私の背中を撫でて
話を聞いてくれた
本物の人の温かさに
ボロボロ泣けた
泣き終わって
ようやく私になれて
おばさんにお礼と謝罪を言えた
家まで送るよと言うのを
心から感謝しながら断った
別れる時におばさんは言った
自分を甘やかしていい
逃げていいんだよ
だけど 自分に負けちゃいけないよ
この先を生きていくのは
まず自分なのだから
自分を大切にね と
私は強くうなずいた
改めて見上げた夜空の月は
先ほどより とても明るく見えた




