思い出せない
いつか見た 空を思い出せない
隣にいた 誰かを思い出せない
一緒にその空を 見上げた気がするのに
ふわふわと 周りだけの思い出の欠片
散らばって浮かぶ言葉 断片の光景
つぎはぎの記憶は 真ん中の確信を
大事な部分を映さない 思い出さない
なのにどうして こんなに悲しいのだろうか?
涙だけがあふれて こぼれ落ちていく
きっかけがあれば──
きっと全部全部 隅々まで 思い出せるはずなのに
僕の大事な 穴の空いた記憶
雨の日に空を見上げ
ふと雫が 頬に垂れて流れ落ちていく
まるで あの時の涙のように
胸に沸き立つ熱情 頭を抜ける閃光
あの時 空は雨が降って曇っていた
隣に立つ人は女性で 僕はまだ子どもだった
迎えに来てくれて 笑って抱きしめて
手をつないで 傘を差して歩いた
あぁ ようやく思い出せた
脳裏に弾ける母の姿
幼き日の色鮮やかな記憶
なんて罪深いんだろう
母が亡くなったその日から
母の思い出や感情を忘れた
そして何気ない雨の日常が
僕にとって 最も強い母との思い出だったのだ
思い出せて本当によかった
雨の空を見上げ 僕は泣きながら笑う
母さん
今度 父さんと姉さんと一緒に墓参りに行くよ
今まで忘れていてごめん 薄情な息子でごめん
もう 絶対に忘れないから




