さようなら、私の夏休み
夏休み前 好きな人に告白された
もちろん喜んでうなずいた
一緒に帰って 町をぶらぶらして
待ちに待った夏休み 神社の夏祭り
このために 浴衣を選んで髪も結い上げたの
あなたはすぐに気づいて
かわいいと言ってくれて
本当に嬉しかった
屋台で好きなものを買ってくれて
二人で食べて笑って愉しんで
花火に彩られて あなたと手をつなぐ
思わずどきっとしながらも 微笑みあって
絵にかいたような青春の日
わずか二日後 私は事故に遭った
横たわっている自分の前で
お父さんとお母さんが泣いている
自分のお葬式を見て
泣いている友だちやあなたを見て
ようやく 自分が死んだのだと気づいた
いや 気づいていたけど認めたくない
上から光が見える
きっと天国の光なんだろう
私は光を拒否した
なんでなんでどうして?
なんで私は死んだの?
好きな人と付き合ったのが悪かったの?
いやだ! いやだいやだ! 私は生きたい戻りたい!
あぁ……
だったら戻ろう 戻ればいい
あなたに告白されて嬉しくて
本当に楽しかった夏祭り
あの時へ戻ればいい
時間は強引に引き戻される
あなたも私も戻るの
二人で楽しかった
夏休みと夏祭りを繰り返そう?
ずっと ずっと──
◇◇◇
古いビデオテープのように
巻き戻り再生 巻き戻り再生
たまに早送りされる『夏休み』
世界も音も姿も感情も
劣化し劣化し衰えていく
このままでは本当に壊れて
二度と戻れなくなる
わかっていても……
ようやく気づいた
所詮すべては偽物 自己都合の世界
その中であなたを犠牲にした
だけどあなたは
私に寄り添ってくれていた
好きな人を犠牲にしてまで
都合のいい夢を見て
なんて罪深いんだろう
もう逃げるのはやめる
もう死んだことを認める
あなたは死んだ私を
見てくれていたから
再生を止め消去
私が作り出した
『夏休み』を終わらせる
今度は真っ白な世界を
本来の正しい時間を
あなたのすべてを元に戻すために
終わっていく 消えていく
さようなら 私の夏休み
さようなら 大好きだったあなた




