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妙演技・矜持
【妙演技】
舞台の幕開け
光照す艶影よ
舞う美と踊る彩に
魅されて酔いどれて
とんとん拍手盛んに
叫んで歌って援飛ばし
はらはら舞うは万札紙吹雪
艶やかに艶やかに
今宵の客を愉しませるは
一幕の享楽
蝶なる舞妓の妙演技
【矜持】
病が蝕み 激痛に苛まれ 血を吐いても
この舞が わたくしの唯一つの 誇りでございます
舞台に立ち 扇子を閃かせ 繊手を返し 艶を見せましょう
煌びやかに 華やかに 艶やかに
舞い上がれ 舞い踊れ 舞い狂え
どうかこの身体よ この心臓よ 最後の最後まで
わたくしを踊り手とさせてくださいな
立つのも限界で 呼吸は苦しくて 意識が遠のいても
この命尽きるまで 客人を魅せて喜ばせましょう
この踊りは わたくしの最期の 務めでございます
煌びやかに 華やかに 艶やかに
舞い上がれ 舞い踊れ 舞い狂え
客人の拍手と幕が下がって
わたくしの 身体は倒れ
やり切った達成に ただ満たされた
あとはもう 安らかに静かに
永の眠りにつかせて頂きます




