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貴女に語りましょう・貴方に語りましょう

【貴女に語りましょう】



今宵(こよい)も貴女に語りましょう

竪琴(たてごと)(かな)でて紡ぐは

貴女が一番大好きだという

幸せの恋物語


この国の小さな村で

幼なじみの娘と青年が

互いに惹かれ結ばれるまでの

小さな恋物語


聴き入りながら貴女はほほえむ

でも本当は涙を流さず

泣いているのだと私は知っている


私だけが知る貴女の真実

本当は結ばれることがなかった

その娘が貴女

そして私は 貴女と結ばれるはずだった

青年である


すべては病が蝕んだ離別

結婚式をあげるわずか二日目

私は病で死んだ

その後を追って

貴女が水に沈んでいくのを

見ていることしかできなかった


今世 私は吟遊詩人 貴女は一国の女王

招かれた一興で偶然出会い

貴女だと気づいた

だが 互いの境遇が違いすぎて

貴女に会うことも難しい


極秘に来た

女王からの使者で気づいた

貴女は私に気づいている

女王の命令で

私は宮廷の吟遊詩人となった


だからこそ 恋物語を奏でることで

貴女に愛を伝える 想いを語る

そして約束する この魂に誓う

来世こそは 貴女を妻に迎える


出会いから始めて 恋に落ちて

「貴女を一生幸せにする」と伝えたい

そして結婚式で 貴女の花嫁姿を見たい


平凡な夫婦として

恋物語の先の 未来まで幸せにする

死が別つまで 貴女と一緒に生きるのだ




【貴方に語りましょう】


貴方への愛を忘れなかったのは

貴方のおかげ


あの時の離別の悲しみは

いまも強く胸に突き刺さる

結婚式をあげるわずか二日前に

貴方は病でこの世を去った


貴方を喪ったことが耐えられなくて

花嫁姿で私は水に沈んだ

来世で貴方に会えたら──

それが最期の想い


私たちは生まれ変わって 確かに出会えた

でも私は一国の女王 貴方は吟遊詩人

身分以前に 立場も境遇も違いすぎた


だけど 愛する人に会えたからこそ

どうしても我慢できなかったの

一時でもいい 私のそばにいてほしかった


私は気づいたの

貴方は私に気づいている 憶えている

あの時と変わらない 愛を語ってくれる

そして約束してくれる


奏でる音色に 語られる小さな恋物語

私たちが歩むはずだった 本当の幸せ

私も約束するわ この魂に誓う

来世で今度こそ――


……

……

……


時は巡り 私たちは出会えた

辺境の小さな村の幼なじみ

二人で恋に落ちて

貴方は約束どおり告白してくれた


両親 親戚 友人たち 村のみんな 

総出の祝福を受けながら

私は花嫁姿で貴方の隣に立つ

貴方は私の手を取り 微笑みながら口づける

そして本当の夫婦になれた


今 私の腕には 新しく生まれた息子がいる

小さな恋物語では語られなかった 新しい幸せ


「この子のために歌をつくろうか」

「あら素敵ね。ほら、この子も笑っているわ」

「これはがんばらないとな」


腕の中の息子がご機嫌に笑う

私たちの幸せは――今も続いている


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