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旅立ち・旅の最中・旅の終わり

【1、旅立ち】


どれほどの月日が過ぎても

どれほどの想いを重ねても

あなたの死が受け入れられない

もういないのだとわかっていても

涙が絶えることはなくて

寂しさが消えることはなくて

だから わたしは旅立つことにしたの


あなたが遺した時刻石が

わたしを導いてくれる

かつて世界を放浪していたと言うあなた

その生き様が映し出される


昔のあなたを辿り どこに行きつくかはわからない

でもね そこにいるあなたに会えるの

わたしにとって孤独じゃないの とても幸せなの

きっと天にいる本当のあなたは

わたしの行動に頭を抱えているかな?


でもね 知っているでしょ

わたしがいざ動くときは 思いっきり大胆だって

だから 笑うくらいの気持ちで見守ってほしい


そして 天にいるあなたに会える時になったら

ちゃんと迎えに来てよね

そこは 結婚するときに約束したんだから しっかり守ってよ



【2、旅の最中】


わたしが祈るのは いつもあなた

旅に出て危険にあっても 不思議と守られている

その時いつも感じるの あなたの強い気配

普段は空にいるけれど いざという時は 必ずそばにいてくれる

だからわたしは 安心して旅立つ


花が吹いて 緑が満ち 紅が流れ 雪がちらつく

季節とともに巡る旅路は まだまだ終わる気配を見せない

あなたの軌跡は歴史に刻まれ わたしに生き姿(過去)を映す


知らない街を歩んで 光の一つが弾ける

あなたの面影を映し 当時の記憶を伝える


世界を放浪していた と言っていたとおり

本当にあちこちに行っていたのだと知る


当時のあなたを知ることができて

わたしは本当に幸せである


だけどあなたにとって

昔のことを知られるのは

恥ずかしいのかな?

ちょっと気になる



【3、旅の終わり】


あなたの死が受け入れられず

寂しさを埋めるための旅立ち

それはあなたの軌跡を知る旅


どれくらいの時が経ったろう

どれくらい世界を巡ったろう


たくさんの思い出ができ

多くの人と知り合い

多くの人と別れてきた

生死を含めて

わたしは 彼らより長く生きる身

それでも永遠は存在しない


いつしか時刻石は輝かず

もうあなたを映すこともない

若いままの身体も疲れやすく

眠ることが多くなってきた

あなたを見送った時と同じ現象

わたしの生にも終わりが迫っている


──さあ 帰ろう


ゆっくりと進み

帰ってきたのは懐かしい我が家

ここは 時空凍結の魔法で旅立った時のまま

懐かしい匂い 懐かしい感触

でも あなたはいない

ベッドに横たわれば 自然と落ちていくまぶた


時刻石よ 最期の願いを叶えて

わたしを夫の元へ連れて逝って

こちらのすべてを跡形もなく消して


時刻石が消える感触

最後の魔力で

わたしの意識は本当の眠りへ


さようなら こちらの世界

わたしは本当に幸せだった

会えた人たちに感謝を


そのまま眠って眠って──

眠り続けて──

気づけばあなたがいた


あなたはいつもの柔和な美形ぶりだった

わたしを食い入るように見つめている


「……。約束通り、ちゃんと待ってたぞ」

「うん、えらい!」

「きみの決断には本当に頭を抱えた」

「えへへ」

「ずっとずっと、きみを見守っていたぞ」

「うん、知ってる」

「俺の過去を知られるのは、かなり恥ずかしかったんだが」

「いいじゃん、別に」


 そこであなたの会話はとぎれ 泣きそうな顔になる


「……随分と早く、先に逝ってしまって悪かった」

「ううん、いいの、いいの!」


 わたしは衝動のまま あなたに抱きつく

 あなたも強く抱きしめてくれる

 生前の時のように すべてを確かめる

 あなたの感触があって 匂いがあって 鼓動はないけれど 温かくて安心する

 ようやくわたしは あなたのそば(本当の居場所)に帰ってきた

 涙をぬぐって微笑む


「話したいこと、たくさんあるから、ちゃんと全部聞いてよね」

「俺だって話したいことがあるから、聞いてもらうぞ」


 わたしとあなたを手をつないで

 光の世界を歩んでいく 遠ざかっていく──

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