指切り
中学生の葵と美咲は、小学校からの親友だった。二人は幼い頃からよく指切りをして、「嘘ついたら針千本飲ます」と誓い合ってきた。指切りをしたことは、二人だけの約束であり秘密だった。
ある日、葵は美咲の気になる噂を耳にした。美咲が他のクラスメイトに嘘をついていたというのだ。なんでも人を殺したと言いふらしているらしい。放課後、葵は美咲を問い詰めた。
「美咲、あの噂って本当なの?どうしたの急に?」
美咲は笑顔で「大丈夫よ。噂なんて信じないで」と言い、二人はいつものように指切りをして誓い合った。
しかし、次の日、葵はまた別の噂を耳にした。美咲が他の友達にも同じ話をしているということだった。葵は不安になり、再び美咲に問いただした。
「美咲、どうしたの?本当に約束を守っているの?」
美咲はため息をつき、「もうその話はやめようよ。私は嘘なんてついていない」と言い、再び指切りをした。
数日後、葵は美咲の様子が変わっていることに気づいた。顔色が悪く、学校でも無口になっていた。心配になった葵は、美咲の家に訪ねることにした。
玄関のドアを開けると、美咲の母親が驚いた表情で迎えてくれた。「美咲、最近元気がなくてね。何かあったのかしら?」
葵は美咲の部屋に入ると、ベッドに横たわる美咲がいた。彼女は苦しそうに息をしており、手には手紙を握りしめていた。葵は美咲の手をそっと開き、小さな手紙を預かった。
「これ、どうしたの?」
美咲は弱々しく答えた。「約束を守らなかったのは私。でももう嘘なんてつけない……」
その言葉を聞いた葵は震えながら、美咲の苦しみの理由を理解した。
「美咲、あのときの約束は二人で守り切らないと。あの約束に嘘をついちゃいけないわ、でないと…」
美咲は涙を流しながら、「でも……」と呟いた。その瞬間、葵は心の中で美咲に謝りながら、彼女の手を強く握った。
その夜、葵は何か悪い予感を感じ、再び美咲の家を訪れた。玄関を開けると、美咲の母親が驚いた表情で迎えてくれた。「美咲がまた体調が悪くなったの。どうしたらいいのかしら。」
葵は美咲の部屋に駆け込んだ。そこには、美咲が苦しげに床に倒れていた。葵は驚いて彼女を支えた。「美咲、しっかりして!」
葵は混乱しながらも美咲の手を取り、指切りをした。「嘘ついたら針千本飲ます……」
翌日、美咲は病院に運ばれたが、原因不明の体調不良として診断された。数週間後、美咲は徐々に回復し、再び学校に通えるようになった。
二人はあの日以来誰かに見られているような気配を感じながらも学校に通い続けている。美咲ももう真実を話すことなく口を閉ざし続けた。葵はこれからも度々美咲と指切りをし続けるのだろう。指切りで誓ったことは二人だけの約束であり秘密なのだから。