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晴れた日にはピクニックへ行こう

作者: HARUNE

心にある懐かしい情景のようなものを表現してみたく書いて見ました。

 晴れた日にはピクニック。

 これは小さな頃からの私の習慣。 

 

 今日は爽やかな秋晴れだ。

 私はななちゃんと一緒にバスケットにサンドイッチとフルーツを詰め込んで、近くの丘へと出かけた。

 ななちゃんと私は幼馴染で、もはや十年以上の付き合いになる。

 お互いの長所も短所も知り尽くしていて、気を遣わなくていい無二の親友と言える、よね?確認してないけど。


 田んぼの畔道を通って、その先の緩やかな小道を登って行くと、見慣れた丘がそこにあった。

 丘の上からは街が一望出来る。

「あっ。ななちゃん家みっけ。」

 なんて、知り合いの家を見つけては盛り上がる。

「昔に比べて新しい家が増えたね。」

 ななちゃんが言った。

「そうだね。」

 私は頷いて一番見晴らしのいい場所にシートを広げた。

 大きな木の下のいつもの位置。


 風が吹き抜けて行く。

 目にかかるぐらいまで伸びた前髪を私はそっと押さえた。 

 不本意ながら前回の頭髪検査時に眉毛が見えるぐらいまで切ってしまったのが、ようやくお気に入りの長さまで伸びたのだ。


 早速バスケットを広げてお茶の用意をする。

 私は温かいお茶が好き。

 ななちゃんは冷たいジュース。

 これもいつものお決まりだ。


 会話は他愛もないクラスメイトの面白話からアニメの話に、今ハマっているアーティストの話など、飛びに飛びまくってもはや着地点が見つからない。


 お腹も満たされて、私は段々眠くなってきた。

 ななちゃんも眠たそう。

 視界がぼんやりしてきて

「ななちゃん。」

 私はななちゃんの名前を呼んだ。

 ななちゃんは振り返って

「すずのこと私結構知ってるんだ。」

 と言う。

「どう言う意味?」

 私は聞いた。

「そのまんまの意味。だからいつかまた遊ぼうね。」

 ななちゃんは笑った。


 まだ言えていない。

 私は引っ越すって。

 お父さんとお母さんが離婚するからこの街を出て行くって。

 そしてななちゃんのお母さんがお店のお客さんといなくなった事もななちゃんからは聞いてはいない。

 やがてななちゃん達家族もこの街を去ることも。

 それから、今いるこの場所に新しい商業施設が建ち、この場所がなくなってしまう事も。


 まだ何も起こっていないけど、これから起こる事。


「ななちゃん。」

 はっとしてななちゃんの名前を呼んだ。

「今寝てたでしょ。」

 ななちゃんはそう言って笑った。

「うん。寝てたー。」

 私も笑った。


 おそらく私は今夢を見ていた。

 そう、昔から時々不思議と予知夢のようなものを見る。

 さっき見たのはきっとこれから起こる事。


 私達は互いの事を多くは語らない。

 でも私は私で、ななちゃんはななちゃんでそれぞれに心の葛藤を抱えている。

 表向きは何でもないような振りをしながら。


「ななちゃん。またピクニックに行こうね。」

「そうだね。今度はスイーツを持ってこよう。」

 ななちゃんはそう言った。

「いいね。それ。」

 私達はスイーツ話に花を咲かせた。


 晴れた晩秋の風の匂いが妙に懐かしかった。


 私はその後街を去り、ななちゃんのお母さんは家に戻って来た。

 そして暫くしてななちゃん一家は引越してこの街を出て行った。


 そしてこの場所には巨大なショッピングモールが建ったと人伝に聞いた。


 ななちゃんと私はそれぞれ違う街に住み、その後何度か会ったりもした。

 会えば昔話に花が咲き、他愛ないお喋りをし私達は過ごした。


 そして晴れの日の今日、私は公園にピクニックに来ている。

 幼い子供達を引き連れて。

「お母さん。遊んで来ていい?」

 遊具を指差して息子が言う。

「いいよ。」

 兄弟で連れ立ってテトテトと駆け出していく。

 私は逆光に目を細めながら子供達を見送った。


 大人になって忙しさを理由にななちゃんとは段々会わなくなった。

 だけど、ななちゃんが言ってくれたように私の事を結構わかっている友達は、後にも先にもななちゃんだけだ。


 爽やかな風が前髪を掻き上げて行った。

 私は前髪をおさえながら懐かしく思う。

 ななちゃんはどうしているだろう。

 きっと逞しく生きているだろうなと。


 時は移り行き、街並みは変わり、行き交う人の顔ぶれが変わろうとも、私達が今何処にいようとも、あの頃の私達が共に過ごした時間はずっと私の中で生き続けている。


 そしてやっぱり私は晴れた日にはピクニックへ行く。

お読みいただきありがとうございます。

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