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漆黒の闇に紛れ込んでしまった女

作者: 瀬崎遊

 目を開けているのか閉じているのかわからないほどの漆黒の闇の中で私は一人立ち尽くしていた。

 自分がどうしてここにいるのか理解できない。

 さっきまで王宮の舞踏会場にいて、してもいない罪をでっち上げられて断罪を受けていたはずだった。

 婚約者である第三王子が抜刀して私への不満をぶつけながら剣を振り下ろして切っ先が私の肩に触れた気がした。

 私は声には出さなかったが心の中でこの世界を拒否した。

 そのせいだったのだろうか?剣の切っ先が触れた瞬間私はこの漆黒の闇の中にいた。


 空を見上げても星一つ、月すらも出ていない。

 自分の手すら見えなくてどうすればいいのか解らなかった。

 ほんの一瞬剣が触れただけの肩に触れると触れた手にぬるりとした感触があった。

「触れただけだと思っていたのに切られていたのね」

 今のこの状況をどうすれば脱せるのか考えが及ばない。

 人知を超えたなにかが起こったとしか思えなかった。



 どれほどの時間が経ったのか。手を前に突き出してゆっくりと足を前へ前へと進めている。

 長い時間歩いた気もするし、ほんの短い時間だったのかもしれない。

 ふと気がつくと遥か前方に小さな光が灯った。

 理由なくその光に向かって足を進める。

 既に小走りと言ってもいいほどのスピードで光を目指す。

 光はどんどん大きくなり地上で灯っていたと思っていた光は遥か頭上で灯っていた。

 闇の中に突如現れた太陽のようだった。


 私の歩みが遅くなりついぞ止まってしまった。

 頭上にあるのならいくら歩いても光に届くことはない。

 出口でもこの闇が果てるわけではないのだ。

 光がどんどん強くなっているのに周りの景色はただの闇だった。

 歩く理由がなくなって私はその場所に座り込んだ。

 床は大理石のようにツルツルしているのに温かみを感じた。

「どうすればいいのかしら?もしかして私は死んだのかしら?」


 不安がどんどん大きくなって胸が苦しくなり体温が上がったかのように体に熱を感じる。 

 胸がドキドキしてきてその音が耳について何かがせり上がってくる。

 息がしづらくて肩が大きく上下しはじめる。

 はぁはぁと息を粗くしていると突如音が聞こえた。

 音だと思っただけで実際には音色だった。

 その音色が繰り返されてそれが次第に人の言葉のように聞こえるようになった。


『きこえるか?』

 聞こえるかと聞こえた気がして恐怖に支配されていた心が少し(やわ)らぐ。

「はい。聞こえています」

『おまえに たのみたいことが ある』

 やはり言葉ではなく音色で聞こえる。正しく聞き取れているのか自信がもてない。

「私に頼みたいこと?」

『そうだ。おまえに このせかいを つぶしてほしい』

「世界?潰すって・・・?』


『おまえは おうけに きりすてられようとしていた。このせかいを にくんだで あろう?』

「それは・・・」

『おまえに せかいを まもる りゆうは なくなった だろう?』

「ですが私の力では世界どころか王家を潰す力すらありません」

『それは しんぱい しなくていい。ちからを あたえる』

「あなたは一体誰なんですか?力を貰っても世界を潰すなんてことは無理だと思います。力を与えられるくらいなら貴方が潰せばいいでしょう?」


『われには ちじょうに かんしょう することは できない』

 地上に干渉?

「私をここに呼び寄せたのではないのですか?それは干渉と言うのではないですか?」

『われは なにも しておらぬ。おまえが かってに ここに まぎれ こんできたのだ』

「私が?」


『そうだ。ここは死を つかわすせかい。ここに せいじゃが やってくることは いちまんねんに いちど あるかないかだ』

 死を遣わす世界?生者?一万年に一度?

「意味がわかりません」

『わからなくても かまわない。おまえに ちからを あたえたら せかいを つぶすことに ちからを ふるうことに なるだろう』


 空気が震えた気がする。

 それと同時に私の体から黒い色がほとばしる。

 なに?なんなのこれ?

 痛みも苦しみもまるでないけれど体の中から黒いものを受け止められなくて溢れ出ていく。

『からだに なじんだ ようだな』

 馴染んだ?本当に意味が解らない。


「何が馴染んだのでしょう?さっきの黒いものはなんですか?!」

『くろいもの ではない。やみの ちからだ』

「闇の力?なんの力なんでしょうか?」

『ありと あらゆるものを はかいする ちからだ。さぁ、ちじょうに もどるがいい』

「まって、私は破壊なんかしたくないわ!!」


 瞬きすると元の舞踏会場に戻っていた。

 私の体からは黒いものが溢れ出ている。

 溢れないようにする方法はないかと意識してみるが溢れることを止められない。

 どんどん黒いものが溢れて周りを呑み込んでいく。

 黒いものに触れると人であれ建物であれ崩れて消えていく。


「私、こんなことを望んでいない!!止めて!嫌!!」

 いくら拒否しても黒いものはどんどん広がっていって私の周りから人も物もなくなっていく。

 黒いものに呑み込まれて消えていく者、物。

 それを見て逃げ出す人々。

 第三王子が呑み込まれてその横にいたエレス・コバッチュ男爵令嬢が呑み込まれていく。

 ほんの少しいい気味だと思ってしまった。黒いものがその感情に触発されたように勢いを増していく。


 黒いものはどんどん広がっていき今ではもう王城をすべて覆い尽くしてしまう。

 それはどんどん広がっていって街が村が森が飲み込まれていく。

 国のすべてが呑み込まれた時これで終わると思っていた。

 けれど黒いものは止まらない。

 隣国を呑み込み、海を呑み込み。最後には地表すべてを呑み込んだ。

 地上には私一人だけが残された。

 世界が黒く闇に閉ざされた。




『ふっふっ。せかいを つぶすには やみを ひろげるのが いちばんね。これで わたしの せかいには だれも いなくなるわ。このほしを ひさしぶりに いだいて ねむりましょうか』

惑星の一つが抱き枕。

さえずる人間が五月蝿くて眠れないので偶然紛れ込んできた人間を使って環境を整えました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 平仮名ばかりでわかりにくいときは、分かち書きをしたらどうでしょう。 後書きで注釈するより読者の没入感を妨げないと思います。 注釈の他の内容も話の中に入れたほうが読者にとって親切なのではと思い…
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