表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/76

(始まりは突然に)9

 見送りの後は与太郎の執務室で会合を行う予定であった。

大老中老奉行に少数の御伽衆を交えての、

早い話、徳川家対策だ。

ところが、城門での見送りに大名衆も連なった。

来てくれた彼等に、その場で解散しろとは言えない。

困った片桐且元が漏らした。

「上様、如何しますか」

「皆は心配しているのだろう。

一手間違えれば大乱になるからな」

「江戸攻めですか。

それを期待してる者達ばかりですな」

 言わぬが花。

「取り敢えず大広間にて、皆にお茶と茶菓子を振舞ってくれ。

その後、皆の前で朱印状を詰めよう。

なあに、こちらに隠し事はない。

詳らかにしても問題なかろう」

 所謂、情報の共有。

こちらに疚しい事は一つもない。

詰まらぬ噂の拡散、疑義は避けるには好都合。


 淀ママは見送りには来なかった。

大広間への御出座も見合わせられた。

侍女によれば、昨日の疲れで今日は控えられる、とのこと。

勿論、与太郎に異存はない。

後ろからの圧が減るのは大歓迎。

お大事に、と侍女に言付けた。


 大広間はおっさん達でムンムン。

もしかして、昨日より増えてはいないか。

そんな中、片桐且元が進行役を務めた。

「昨日、徳川殿の見舞いを曽呂利新左衛門にお願い致しました。

曽呂利新左衛門殿、こちらに」

 亡き秀パパの御伽衆だった一人。

今も引き続き、与太郎の御伽衆を勤めていた。

その新左衛門がそろりそろりと進み出た。

与太郎は彼を労い、見舞いの様子を尋ねた。

すると新左衛門、顔を伏せて言う。

「徳川殿の御家来衆に、子供の使いのようにあしらわれました。

誠に持って申し訳御座いません」


 詳しく聞けば、面会どころか、門内に入るのすら拒まれたそうだ。

与太郎は笑みを浮かべた。

「その程度で引き下がるお主ではなかろう」

 新左衛門が顔を上げた。

「ええ、ですから上番医共々、門前に座り込みました」

「従者達もだろう、迷惑だな」

 新左衛門が我が意を得たりとばかり言う。

「数で門の前を塞ぎました。

しかし、騒ぎにならぬよう、適当な所で引き上げました。

そこに抜かりは御座いません」

 この適当の範疇が分からない。

しかし、彼の事だから駆け引きの一つには違いない。


 与太郎は考えてから指示した。

「本日と明日、続けて三日になる、頼むぞ。

仮にも私の名代だ。

汚れぬように床几や縁台、傘を持って行け」

「宜しいのですな」

 見舞い三日に意味を込めた、つもり。

「宜しい。

・・・。

で、屋敷の様子は」

「見知りの重臣の方々は一人も顔を出さず仕舞いでした」

 軽輩に相手させて知らぬ顔の半兵衛か。

「咽喉が乾いたら、門前で茶を点てても良い。

大坂の地は当家の物、許す」

 新左衛門が破顔一笑。

「それはそれは、大いに楽しみます」


 与太郎は大老中老奉行衆を見遣った。

「朱印状は仕上がったのか」

 大老筆頭、毛利輝元が応じた。

「仕上がりました。

浅野殿、まずは草案を上様のお手元へ」

 五奉行筆頭、浅野長政が膝すりすり前に出て、

草案三通を片桐且元へ渡した。

それが与太郎の手元に。

一通目、御掟を破ったので徳川家康殿を大老より罷免する。

二通目、許しがあるまで家康殿は大坂屋敷で謹慎すること。

三通目、相模と伊豆、この二つの領地を取り上げる。

与太郎が草案を吟味する傍らで、輝元が草案を皆に読み上げた。

大広間に詰めかけた面々が声を漏らす。

「「「これは手厳しい」」」

「「「されど申される通り」」」


 草案に問題はない。

どんな疑問にも対応できる文言ばかり。

良く練られていて安心した。

与太郎は輝元に尋ねた。

「これで良い。

ところで副状は」

 面倒臭いが朱印状を保証する為に副状もセットになっていた。

それに相応しいのは、先方と書状の遣り取りをしている者。

「某が」

 驚かされた。

一夜明けたばかりなのに輝元が、

大老筆頭としの貫目を身に付けていた。

役が人を作る、とはこの事か。


 後は人選だ。

誰に届けさせる。

通達でもない、通告でもない。

最上位での決定、裁可、申し渡し。

翻せないものだ。

だけに迂闊な者は送れない。

「正使と副使だが、何か考えがあるか」

「喧嘩ごしの者や、猛々しいだけの者は送れません」

 これには輝元も悩ましいようだ。

 

 与太郎は大人衆を見回した。

「家康殿は御掟を破ったが、それより前は豊臣家、

織田家に大いに尽くしてくれた。

それに相応しい礼儀を持って当たれる者が良い。

誰ぞ心当たりはないか」

 すると石田三成が声を上げた。

「宜しいですか」

「良い、聞かせてくれ」

「織田家の方々のお一人を正使としては如何ですか」

 織田信長様は非業の死を遂げられたが、濃い縁者は大勢いた。

信長様の家系が子沢山だったのが幸いした。

秀パパは表立って反抗する者は潰したが、他は取り立てた。

弟妹、直系の子女の多くをだ。

明らかに役に立たない者にも少なくない給地を与えた。


 与太郎も信長様と同じ血が流れていた。

秀パパは縁者の少なさを嘆いていたが、

与太郎にその心配はない。

亡き浅井長政の庶子ですら仕えているのだ。

枝葉が多い。

改めて血縁の大事さに思い至った。

与太郎は三成に応じた。

「織田家であれば老犬斎殿か、有楽斎殿であろう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ