(島津家討伐)14
島津義久は急遽編成した供回り百余騎を見回した。
よかにせ衆が揃っていた。
何れも薩摩では知られた強者共ばかり。
彼等の色に怯えは微塵もない。
既に覚悟していた。
死兵。
義久は深く頷き、彼等を呼び集めた近習を労い、
見送りの者供に視線を移した。
本陣幕内にて仕えていた者供。
徒士衆ばかり。
彼等は両膝を着いて義久を睨み付けていた。
付いて行けぬのが口惜しいのであろう。
桂忠詮と視線が重なった。
義久は彼を手招きし、軍配を差し出した。
忠詮はこちらも睨み付けながらも渋々と両手で受け取ってくれた。
「片が付いたら好きにさせて貰いますけん」
吐き出された言葉の意味は分かった。
苦笑い気味に頷いた。
「好きにせよ。
ただ、これまで良く使えてくれた。
礼を申す。
後はくれぐれも頼み入る」
桂忠詮の手配りで多くの家臣、国衆、地侍衆は、
事前に本陣から遠ざけられていた。
お陰で騒ぎにはならなかった。
しかし、遠くで騒ぎが起きていた。
状況が理解できる者共が抗議していた。
「「「あまっな」」」
「「「邪魔すっな」」」
「「「すっさくっ」」」
それらに義久は応じることはなかった。
けれど、心底では詫びた。
あいすまぬ。
意識を切り替えた。
ただ、小数にて島津義弘の下へ駆け付ける、ただそれだけ。
それに伴う喫緊の障害は、途中で楔の位置取りの討伐軍。
あちらは伊集院家が加わり膨れ上がっていた。
彼等の物見を掻い潜らねばならない。
うっとうしか。
小数の騎馬隊列であれば掻い潜れる可能性が高い。
のだが、できれば無傷で駆け付けたい。
忠詮が義久を見上げた。
「囮をば用意しもした」
義久は忠詮の視線を追った。
「あれか」
新手の騎馬隊列が遠くに見えた。
数はおおよそ二百余騎。
徒士が百余。
「血気にはやった者共は押さえきれもはん。
囮にでも使いたもんせ」
「ありがたい」
囮を物見にぶつけて、間隙を突いて駆け抜けるか。
島津義弘は和尚に討伐軍御大将に向けた書状を手渡した。
「仔細に認めた。
これを立花殿に頼む」
和尚は義弘を見詰めた。
「届ければ宜しいのですな」
「立花殿なら理解してくれる」
「承知しました」
和尚は頷いて書状を筒箱に仕舞った。
和尚を陣幕の外で見送っていると、使番が音もなく戻って来た。
最後に兄の下へ送った近習だ。
彼は陣幕の脇で控えた。
それに声をかけた。
「どうであった」
「義久様がこちらへ向かわれます。
兵力は騎馬百余です。
今頃は人選も終わっておられる頃合いでしょう」
残した本隊で肥後口を牽制し、
小数にて途中の討伐軍を出し抜くつもりであろう。
兄上らしい決断だ。
島津姓の家は失くしても、魂だけは残す、その意志が見えた。
義弘は兄を迎え入れる手配り考えた。
薩摩由縁の家臣一同は信頼しているが、
大隅由縁の者共まではそうそうは信頼していない。
実際、色々と怪しい動きがあった。
特に人の出入り。
国衆や地侍衆が大隅に残した留守居の者達からの使番が多い。
義弘の近習はそれらを明らかに怪しんでいた。
当の義弘は取り敢えず聞き流した。
疑心は疑心を呼ぶ。
さりとて疑いを捨てた訳ではない。
そこで兄を迎え入れる為に、急いで布陣を変えた。
近習達の意見を取り入れて大隅由縁の者達を二つに分けた。
大いに怪しい者達を最前線に陣替えした。
そして最前線と本陣の間に、それ以外の者達を配置した。
肝心の本陣周りには薩摩由縁の家臣達で固めた。
本陣の後ろには小荷駄隊のみ。
楔の位置の討伐軍への備えを緩めた大博打。
その楔の位置の討伐軍物見への新たな対処を、
我が軍の物見に指示した。
敵物見が前に出るようであれば、それを牽制し、
足りないと思えば攻撃しても構わない、と。
あの兄であれば、こちらの意図を理解し、敵を出し抜く。
二日目の夕暮れ時。
背後の我が軍物見より報じられた。
「敵物見二つが前がかりになりました。
これを牽制する為にこちらも動きます。
それでは我等は、島津家の後々までの幸運を願います。
くれぐれも御達者で」
後方の戦闘音が微かに届いた。
同時に近づく騎馬の複数の蹄音も届いた。
先頭に待望の兄、島津義久の姿を見つけた。
こちらは敵物見には遭っていないようで、隊列に崩れはなかった。
馬もよれていない。
途次にて馬を替えたのであろう。
「義弘、どうやら間に合ったようだな」
とっ、兄弟の再会を邪魔するような轟音・・・。
聞き慣れた桜島の噴火。
こちらからは桜島そのものは見えないが、
吹き上がる噴煙は望めた。
義弘はそれを見て兄は無論、皆に告げた。
「吉兆である」
確かに吉兆に思えた。
桜島方向には討伐軍本隊があった。
彼等が噴火に慣れているとは思えなかった。
義久もそれに大いに頷いた。
「確かに、公儀の船団も立ち騒いでいるであろうな」
居合わせた面々も同意した。
「「「こん機を逃さず攻むっと」」」




