(島津家討伐)5
PC不調により、手間取っていました。
すみません、すみません、すみません。
討伐軍の水軍衆は考慮のうち。
薩摩半島と大隅半島、それぞれの外海に島津水軍衆を配備し、
討伐軍水軍衆を発見しだい攻撃するように命じていた。
ところが、これまで何の報告もなかった。
怪しい動きをする船の捕獲もなかった。
そこへこの知らせた。
薩摩半島と大隅半島に挟まれた大きな湾の奥に、
島津家の内城があった。
そこは穏やかな内海で、一際存在を露わにするのは桜島のみ。
そこへ討伐軍水軍衆と南蛮船が現われた、と。
それも湾を埋め尽くす程の船数で。
船数は話半分だとしても、容易ならざること。
それが、島津水軍衆を蹴散らして強行上陸した、とは。
夢想だにしない事態に相成った。
義久は新しい事態に思わず心躍らせた。
望むところ。
外海に配備した島津水軍衆の裏切りが明らかになった。
対して湾内の島津水軍衆は壊滅した。
その二つを頭に入れて対抗策を練った。
こちらが後手に回っているので、取り得る策はそれほど多くはない。
優先されるべきはただ一つ。
内城の島津忠恒。
ただ問題は、駆け付けるにしても間に合うかどうか。
下手に動けば正面の討伐軍に気付かれ、追撃されてしまう。
書状を読み終えた義弘が言う。
「裏切りは外海の水軍衆だけではありますまい」
「分かっている。
しかし、今は詮索している暇はない。
まずは忠恒を助けねば」
義弘が頷いた。
「責は全て某にあります。
朝鮮の渡海を忘れておりました。
内城には某が参ります。
兄上はこの場に留まり、睨みを利かせて下され」
義久が何か言おうとするが、それを義弘が手で制した。
「おそらく討伐軍は志布志にも上陸しています。
それが伊集院軍を吸収して内城へ向かうでしょう。
忠恒しだいですが、上手く乗り切ってくれさえすれば、
状況が一転します。
その時こそ、兄上の出番です。
島津の底力を見せる時です。
それまで我慢して下され、兄上」
市来正富が義弘に味方した。
「お館様、ここにてお館様が健在であれば、
討伐軍に内応を約束している者達も勝手できない筈です。
どうか内城は義弘様にお任せして、
お館様はここにてお味方衆に健在ぶりを発揮なさるべきです」
実弟と重臣の言葉に義久は心を動かされた。
当家は島津家の宗家ではなく諸家の一つ、枝葉でしかなかった。
無勢ではあったが、四兄弟で力を合わせて無勢なりの戦いをし、
島津を纏め上げ、薩摩を手始めに大隅日向をも手中にした。
しかる後に九州の北伐に乗り出した。
太閤殿下の怒りは買ったが、それなりのお家だと自負していた。
思えば、満天下に島津家の名を喧伝したのは今の我等。
恥じる事も卑下する事もなく候。
義久は実弟と重臣だけでなく、周りの者達をも見回した。
よかにせ衆ばかりがいた。
自分の言葉を今か今かと待っている表情が読み取れた。
義久は笑みを浮かべた。
事ここに至って残された妙手はただ一つ。
討伐軍をここにて討ち平らげるのみ。
「相分かった。
討伐軍が薩摩に立ち入るのは許さぬ。
立花宗茂が望めば雌雄を決してやろうではないか」
内城の島津忠恒は身体を休める暇はなかった。
なにしろ次々と事態が変化して行くのだ。
今までの戦とは様相が違っていた。
理解が追い付くのに時間を要した。
先ずは不審な船団の報だった。
湾内に侵入して来た、と。
対処する為に鐘が打ち鳴らされた。
それに応じて、各港より島津水軍衆が迎撃に出た。
双方の距離が縮まり近接するや、湾内に轟音が鳴り響いた。
南蛮船よりの砲撃であった。
たちどころに勝敗が決した。
島津水軍衆は一方的に撃沈させられた。
逃げ帰ったのはごく僅か。
生き延びた水軍衆により、相手の正体が分かった。
討伐軍の水軍衆であったと判明した。
桜島を背にして討伐軍水軍衆が船をズラリと並べた。
圧巻であった。
雲霞のごとくと言っても差し支えないだろう。
それらが南蛮船を置き去りにして、内城に押し寄せて来た。
彼等は止まらなかった。
そのまま浜に強引に乗り上げて上陸した。
出遅れた船は近隣に港に回頭し、これまた上陸した。
内城の守りの為に幾つもの小城や砦もあったが、
それらは北より襲来する敵を想定していて、
今回の役には立たなかった。
想定外の出来事に皆が皆、困惑していた。
島津忠恒は声を絞り出して、側仕えに命じた。
「城の女達を逃がせ。
奥も含めてだ。
よくよく言い聞かせて指宿の方へ逃がせ」
忠恒は戻った物見の者達に戦況を尋ねていた。
「浜の防御陣は如何した」
「お味方は不利です。
ジリジリと下がっております」
「兵力が足りぬか」
「兵力もですが、練度が違い過ぎます」
主戦力は肥後口に回した。
こちらは老兵と賦役の兵が中心。
最初から分かっていたこと、文句は言えない。
別の物見に尋ねた。
「近辺に上陸した討伐軍の様子は」
「足止めするにも兵が足りません。
直にこちらに姿を現すでしょう」
兵力不足は予期していたが、ここまでとは。
内城を守る役目の小城や砦の様子を尋ねた。
「こちらに振り向ける兵はあるのか」
「放棄する指示があれば、総員にて直ちに応じるそうです」
つまり、振り分ける余裕はない、と。
そこへ複数の軽やかな足音が近付いて来た。
廊下で警戒していた近習が板戸を開けて報告した。
「奥方様が侍女衆を引き連れて参られました。
全員白装束でございます」
その声に答えるより早く、板戸が大きく開かれた。
忠恒の正室が一同を見回してから、
当然のように上座に腰を下ろした。
その上座はお館様、島津義久の定席なのだが、
彼女は全く気にしない。
侍女衆が彼女を守るように侍った。
突然の事に忠恒を始めとして男衆は唖然とするのみ。
奥方様が言う。
「忠恒様、私共は城から退避はいたしません。
城に殉じる覚悟です」
取り戻すぞ、この遅れ。




