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(新たな歩み)6

 与太郎はそれを公言するのは時期尚早、と思い至った。

何しろ秀パパがやらかしていた。

朝鮮侵攻。

それで日ノ本も痛んだ。

ましてや、目の前に島津伊達があり、徳川が控えていた。

う~む。

ヒーヒーフー、ヒーヒーフー。

一休み、一休み。


 与太郎は大谷吉継に尋ねた

「長岡藤孝殿と石田三成殿はこの席に来ているのか」

「はい、お隣の陣幕におられます」

 与太郎は近習に指示した。

「お二人をここへ招いてくれ」


 ぞろぞろ入って来た。

近習に案内された長岡藤孝と石田三成、その二人の側仕え。

そして前田利家と古田織部、同じく二人の側仕え。

呼んでいない利家と織部を横目に、

近習が申し訳なさそうに頭を下げた。

目を丸くしてる与太郎に利家が言い訳した。

「面白そうな話でも聞かせて頂こう、と思いましてな」

 隣で織部が大きく頷いていた。

この年寄り二人には適わない。


 与太郎は藤孝に視線を転じた。

「藤孝殿、頼みがある」

「何なりと」

「足利学校を存じているな」

 我が国最古の最高学府だ。

下野国にて細々と命脈を繋いでいた。

「はい、存じております」

「当家も学校を作りたいと思う」

 藤孝が怪訝な顔をした。

「如何なる仕儀にて」

「足利学校はもはや古い。

そこで、豊臣にて新しき学府を設けたい。

我が国や漢唐だけでなく、南蛮からも知識や文化を仕入れたい。

特に農や医を得たい。

南蛮語もだ。

その為の学び舎であり、研鑽して深く修める場としたい」

「そうですか」

 藤孝が腕を組み、天井を見上げた。


 居合わせた者達は全員が息を潜めていた。

この空白に、思わず全員が息を吐き出した。

「「「足利学校ですか」」」

「「「それをここへ」」」


 与太郎は右筆席に視線を転じた。

彼等は一言一句逃さぬように筆を進めていた。

感心感心。

指示はないが、記録に残す必要がある、と判断したらしい。

与太郎は視線を藤孝に戻した。

藤孝がその視線に気付いた。

「一からとなると、かなり時間が掛かります。

建物は元より、人や書物を集める必要がありますので。

・・・。

完成する前に某の命が尽きます」

 苦笑いする藤孝。

「その心配はいらぬ。

お主は長生きする、・・・たぶん。

それに、これは長岡家三代に渡る大事業になる」

 藤孝の苦笑いがより増した。

「長生きする、が、たぶんですか」

「忠興殿も忠隆殿も優れている。

だから長岡家に任せたい。

掛かる費えは当家持ちだ。

好きな書物や絵等を集めて欲しい」

「これでは断れませんな」

「断ると忠興殿や忠隆殿が怒る、と思う」

「ですな」


 与太郎は話を進めた。

「豊臣の最高学府は足利学校よりも大きくなる。

そこで学校の名称を豊臣大学校とする。

大学頭に相当する役職は、豊臣家では学長とする。

その初代は藤孝殿だ。

三代目までは長岡家が受け継ぐが、四代目からは別とする。

嫉妬や妬みが長岡家を向かったら申し訳ないからな」

 藤孝が相好を崩した。

「上様、そのお気遣い痛み入ります」

「その分、しっかり励んでくれ」

「ええ、お任せを」

「おまけではあるが、大学校の下に小学校と中学校を置く。

元服前の子供の学び舎が小学校で、

元服した者の学び舎を中学校とする。

更に学びたい者は、学長の権限で大学に引き上げて欲しい」

「ほほう、良く考えられておりますな」

「いやいや、ここまでは下話だ。

取り敢えず、この話を持ち帰って検討して欲しい。

色々と不足や不満が出る筈だ。

続きは別の日に改めて行おう」

「承知いたしました」


 与太郎は利家と織部に正対した。

「聞いた通りだ。

ここに居合わせたのも何かの縁。

御伽衆には藤孝殿の相談に乗って欲しい。

人集めや土地探し、と問題が噴出すると思う」

 二人に否はなかった。


 近習がお茶を淹れ替えた。

それで口を潤し、石田三成に目を転じた。

「三成殿には豊臣家の海軍を任せたい」

 三成の顔が強張った。

「海軍ですか」

「水軍を持つ家は多いが、海軍とまで名乗れる家はない。

そもそも海軍は、外海にて戦える力を持つ軍の事だ。

朝鮮に渡れるだけでは心許ない。

せめて南蛮に渡って欲しい」

 三成の顔が増々強張った。

「南蛮ですか」

 気持ちは分かる。

外れ籤を引き当てた気分かも知れない。


 居合わせた者達が口々に言う。

「「「大学校の次は海軍ですか」」」

「「「南蛮へ渡るのですか」」」

「「「何故に南蛮へ」」」

 話の展開に、皆が皆、戸惑っていた。

どうやら皆は忘れているらしい。

与太郎の体内に流れる血の正体に。

何しろ与太郎は秀パパの子供で有るだけではない。

大叔父、信長の血も受け継いでいた。

予想を超えて行動した二人の後継者、と認識を改めて欲しい。


 与太郎は三成に尋ねた。

「海外に売られた奴隷の事は耳にしているだろう」

 日ノ本の民が奴隷として輸出されていた。

それに秀パパが猛抗議し、バテレン追放令という形にした。

三成が知らぬ訳がない。

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