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(島津家と伊達家を仕置き)7

 与太郎が佐竹義宣に答えようとすると、多数の声が上がった。

「「「上様、我等の同行も」」」

 居並んでいた大名衆だ。

お馬揃えに喰い付いて来たとしか思えない。

そんなに美味しいのか、お馬揃え。

馬糞が山を為すと聞いたのだが。

実際、前世でもそうだった。

 東京駅。

来日した要人が皇居を訪問するとなると、

儀式美として東京駅が用いられた。

その要人を儀装馬車と騎馬隊がお出迎え。

忘れてならないもう一つの主役が馬。

馬は如何なる場所でも我関せず、「フン」と笑って馬糞する。

人なら断罪される行為だが、馬鹿と笑って許された。

お出迎えの後ろに、それを回収する軽トラがいるのはお約束。

活躍したのはおそらくフラットシャベルだろう。

フラット喋る曰く、「ワイが好きなのは黒糞じゃないで、雪やで」


 与太郎が驚いたのは九州と東北を除いた大名衆が、

我も我もと声を上げたからだ

島津討伐と一揆鎮圧の与力を九州と東北に限定したのだが、

関東に備えて池田家浅野家加藤家長岡家を加えた。

そこへ思わぬ佐竹家の名乗り。

それが付け入る隙を諸大名に与えたようだ。

透かさずの申し出。

まさに戦国を生き抜いた強者達だ。


 困った与太郎。

深く考える前に結論に達した。

中老席に視線を転じた。

「親正殿、吉晴殿、一氏殿、頼みがある」

 生駒親正、堀尾吉晴、中村一氏。

三中老が与太郎に正対した。

「「「何なりと」」」

「私に代わり、彼の者達を頼む」

 理解したのだろう。

三人が揃って頷いた。

生駒親正が代表して口を開いた。

「構いませんが、落としどころは如何します」

「それも加えて頼む。

私は子供だからその辺りの塩梅が分からない。

だから宜しく頼む。

お主らが合議に達した事は決して無碍にはしない」

 丸投げした。


 与太郎は奉行席に視線を転じた。

浅野長政、前田玄以、石田三成、増田長盛、長束正家。

その中の前田玄以に尋ねた。

「玄以殿、天下布武を発したのは私の大伯父の信長様だったな」

 玄以は織田時代より畿内に縁の多かった人物で、

京都所司代を努めた事も二度三度。

今は公儀の、内裏との折衝役であった。

その玄以、胡乱気な表情を隠さない。

「そうでございます」

「かれこれ何年だ」

「およそ三十五年は過ぎたかと」

「私の父、太閤殿下の惣無事令からは」

 ますます胡乱気な玄以。

「もうじき十五年になるかと」

 与太郎は大広間を隅々まで見回した。

「なるほど、天下布武に始まり、惣無事令が重ねられた訳か。

紆余曲折もあり、途次の争乱で大勢が亡くなった。

それもこれも、むべなるかな。

・・・。

結果がこの形か、悪くはないな。

先に天下の安寧も見えて来た。

もう直ぐ天下万民の望む天下泰平の世だ。

・・・。

玄以殿、それを妨げようとする輩は許せない。

無駄に血を流すのも許せない。

内裏へ参内して上奏せよ」


 玄以の表情が引き締まった。

玄以だけではなかった。

公卿席を含めた大広間が静かになった。

こいつら、官軍発言を聞いてなかったのか。

真っ先に玄以が再起動した。

「錦の御旗ですか」

「そうだ、分かっているではないか」

「ですが、島津殿も伊達殿も内裏に弓引いた訳では」

 与太郎は途中で発言を遮った。

「気にするな。

内裏が天下の安寧を望まぬ筈はないだろう。

もし、曖昧にされたらそれも良し。

内裏の心底が分かるからな」

 公卿席の者達が顔色なからしめた。

しかし、誰一人として声にしない。

玄以もそれ以上は抗しない。

重々しく承諾した。

「錦の御旗は二つで宜しいですな」


 あれはと与太郎は探した。

見つけた。

「真田昌幸殿」

 昌幸は行き成りの事に驚いた。

それでも立ち直りは早い。

気の良い顔を作り、膝スリスリ進み出た。

「何なりとお申し付けください」

 言葉とは裏腹、胡散臭い雰囲気までは隠せていない。

与太郎は、それも個性、と考えた。

「聞いていたと思うが、東北の一揆鎮圧の為に官軍が関東を通る。

関東には徳川家がある。

その徳川家に邪推されてはたまらん。

そこで昌幸殿だ。

徳川家との折衝を頼みたい」

「某のような貫目の軽い者にですか」

 真田家は特異な存在だ。

秀パパのお気に入りであると同時に、家康のお気に入りでもあった。

為に、秀パパの直臣であり、徳川家の与力大名、と両属。

かつて真田家に何度も苦汁を飲まされた家康だが、

重臣、本多忠勝の娘を養女として昌幸の嫡男に嫁がせ、

真田家の取り込みに懸命になった。

その姿勢は今も変わっていない。

「誰もそうは思わん。

大人衆と協議し、話を持って言ってくれ。

其方しかおらん、宜しく頼むぞ」

 ここでも必殺丸投げ。

昌幸は深々と頭を下げた。

顔色までは読めない。

「喜んでお引き受けいたします」


 これで内裏と徳川家には手を打った。

残るのは、・・・。

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