表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/77

(島津家と伊達家を仕置き)6

 与太郎の申し渡しに大広間が凍り付いた。

が、それも一瞬のこと。

衣擦れの音とともに多くが一斉に平伏した。

「「「ははー」」」

 代表して毛利輝元が声を上げた。

「流石は上様、良き仕置きにございます」

 上杉景勝は相変わらずの無表情。

「某も感服いたしました」


 異なる声が聞こえた。

発言と、それを遮る物音。

そちらに目を向けた。

近衛親子が座するあたり。

なんと、近衛信輔が転がっていた。

頬に手を当て、唸っていた。

片脇にはうちの馬廻り衆の一人。

与太郎の視線に気付いて軽く会釈した。

どうやら、発言した信輔を殴り倒した様子。

また面倒な。

でも、よくやった。

与太郎は目を瞑る事にした。


 与太郎は大名衆の一人に目を止めた。

「南部利直殿」

 南部家の嫡男、南部利直が膝スリスリ進み出た。

若い。

二十代。

立花宗茂が三十代だから、公儀の若い世代にも期待できた。

「はっ、これに」

「信直殿の加減はどうだ」

 南部家の当主、南部信直は臥していた。

「芳しくございません」

「そうか、・・・。

そちに頼みたいのだが、・・・」

「何なりとお申し付けください。

公儀の御用でしたら喜んでお受けします」

「東北の一揆を鎮めてもらう」

「承知しました」即答だった。


 与太郎は改めて言い直した。

「南部利直殿、その方に東北で勃発している一揆の鎮圧を命じる。

大将である。

副将はその方が任ぜよ。

与力大名は東北の大名衆とする。

戦目付と軍師は大老衆が任ずるのを待て」

「お尋ね致して宜しいですか」

「申せ」

「伊達家は如何致しましょう」

「暫し待て」


 与太郎は五奉行の方を向いた。

「浅野長政殿」

 五奉行筆頭、浅野長政が正対した。

「これに」

「島津と伊達に事の次第を知らせ、討伐と追放を通告して欲しい。

何も隠す必要はない。

こちらは公儀の軍、官軍である。

正々堂々と官軍を発する」

 長政だけでなく、居合わせた者達に緊張が走った。

身体を震わせる者が多い。

涙する者も散見された。

たぶん、官軍発言に刺激されたのだろう

再起動した長政が言う。

「承りました」平伏した。

「その通告の後に官軍を発したい。

発するのを特段に急ぐ必要はない。

万全の準備の後、この城の前で馬揃えを行い、官軍を発する。

馬揃えは、伏見城へ向かった結城秀康殿の時に同じにせよ。

立花殿と南部殿との段取りを任せて良いか」

「それも某にお任せあれ」


 与太郎は再び利直の方に正対した。

「利直殿、通告した後は、伊達家は公儀とは無縁の存在。

大きいだけの豪族だ。

塩梅はその方に任せる」

 言葉で言い表せない事もある。

それを汲み取ってくれれば嬉しい。

利直を見遣ると、何やら言葉を咀嚼している様子。

しかし、返答にそれほど時間を要さない。

「一揆のみでなく、伊達家の事も万事お任せあれ。

ただ、問題が一つあります」

「聞かせてくれるか」

「この地を発して東北へ向かうには関東は避けられません」


 よく気付いてくれた、利直えらい偉い、偉い。

一揆とか、伊達とかは酒の肴でしかない。

島津もだ。

これを機会に徳川家の動向を探りたい、と大谷吉継に具申された。

確かに都合が良い。

与太郎は秀パパの子飼い大名衆へ視線を転じた。

「池田輝政殿、浅野幸長殿、加藤嘉明殿、長岡忠興殿」

 四つの名前を上げた。

何れも家康に与していると噂された武功派の四名だ。

その噂は、与太郎とのお茶席で打ち消されたように見えるが、

確とした行動で裏打ちされたものではない。

四名が揃って膝スリスリ進み出た。

ここまでの話からある程度は理解している色。

「「「ははー」」」

「東北は利直殿に任せたが、関東がいささかあれだ。

兵を率いて同行せよ。

手伝い戦になるが、宜しく頼む」

 輝政に問われた。

「我等も馬揃えに」

 そこに喰い付いたか。

四名は期待の色。

「当然だ。

ただし忘れるな。

これは関東での戦ではない。

あくまでも東北の一揆鎮圧だ。

それを忘れるな」

「「「ははー」」」


 大名衆の一人が声を上げた。

「宜しいでしょうか」

 佐竹義宣だった。

常陸の大名で、年代も二十代。

「当家の領地でも一揆が起きたそうです。

某も領地に戻って鎮圧しようかと思います。

その際、南部殿に同行しても宜しいでしょうか」

 彼の領地は関東の常陸。

そこまで政宗の手が長いということ。

政宗、侮りがたし。

しかし、常陸には先代の佐竹義重が隠居していた。

北の伊達家、南の北条家挟まれながらも、

獅子奮迅の働きで佐竹家を存続させた者。

まだ五十代であったはず。

彼の者がのんびり隠居している筈がない。

すでに行動に移しているだろう。

・・・、ははあ~ん、馬揃えか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
東北に官軍が向かうのですか なにやら歴史が収束するような、違った形でこちらの歴史をなぞりそうな臭いがしてきましたが はたしてどうなるのか わくわくしながら次回をお待ちしております 南部利直、輝政、忠…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ