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(島津家と伊達家を仕置き)5

 与太郎は石田三成を諦め、片桐且元を見た。

「もう一つあったな」

「はい、それは上杉殿より」

 上杉景勝が膝を進めた。

「東北にて一揆が勃発しています。

その為、伊達政宗殿が急ぎ国元へ戻りました。

他の大名衆も続くと思われます。

これへの対処は如何いたしましょう」

「当初は大名衆に任せ、要請があれば景勝殿、宜しく頼む。

足りなければ当家の先手組を貸し出すのもやぶさかではない」

「万事お任せを」

 流石は東北の要。

否はない。

「頼む、しかし、政宗殿はやけに早いな」

「はい、かつて葛西大崎で一揆がありましたので、

危機感を持っての事でしょう」

「葛西大崎か、昔もあったそうだな」

「ございました。

伊達殿、蒲生殿が中心となって収めた一揆でした」


 与太郎は事前に甲斐姫に聞いていたが、知らぬ振りして尋ねた。

「今回の一揆はその時の残党か」

「いいえ、それはございません。

あの時の首謀者と思しき者達は伊達家によって、

悉く処断されたそうです

縁座にて赤子一人として残しいない、そう聞いております」

 それを甲斐姫や大谷吉継は、証拠隠滅と言っていた。

「すると今回の一揆は、新たな不平不満が溜まったものか」

「おそらくそうではないでしょうか」

「うむ、東北は収め難い地のようだな。

して、その一揆が周辺に飛び火していると聞いた」

「その通りでございます。

近隣の大名衆の領地にも飛び火しております」

「他の大名衆の領地と申すのは」

 景勝が一つ一つ名を上げて行く。

与太郎は覚えたての東北地図で、それらを当て嵌めて行く。

すると、飛び火した地は甲斐姫の説明と合致した。


 大谷吉継が与太郎に申していた。

政宗は今回も右手で一揆を討伐する一方、

左手で飛び火した地の一揆を煽る、と。

飛び火した地には旧伊達領が多く含まれている事から、

これを機に旧領回復する心算ではないか、とも。

与太郎を軽く見て、捕らぬ狸の皮算用らしい。


 景勝が与太郎をジッと見ていた。

その目色から、何やら思うところがあるらしいと察した。

「景勝殿、表向きの話はよい。

思うところを披露して欲しい」

「御慧眼ですな。

ここまでは、こちらの手元に届いた表向きの報告でございました」

「すると」

「ええ、一揆の裏に怪しい動きがありました。

ところがこれが中々掴み難く、往生しました」

「掴み難いとな」

「忍びの者と思しき者達が暗躍しておるそうです。

それが複雑な動きでして、敵か味方か甚だ不明だそうです」

 敵か味方か、か

ああ、そうか。

甲斐姫が当家の忍び衆を便利使いしていた。

おそらくそれが含まれているのだろう。


 与太郎は知らぬ顔をして言う。

「誰かが一揆を使嗾していると思って良いのか」

 景勝、我が意を得たりといった表情。

「まず間違いないかと存じます」

 与太郎は単刀直入に尋ねた。

「景勝殿はそれに心当たりがあるようだが、それは誰だ」

「あの辺りで小賢しいのは一人だけです」

 流石は上杉家を継いだ者。

気安く個人名を口にしない。

与太郎は景勝を凝視した。

すると景勝、優しく見返してきた。

何でございますか、といった目色。

六才児相手に何してんだよ、景勝。

個人名を上げろよ。

泣くよ、泣いてええのんかい。


 与太郎は困り果てた末、毛利輝元を頼る事にした。

同じ大老であるから、下話で個人名を共有しているはず。

懇願の意を込めた目色で輝元を見た。

「輝元殿、どう思われる」

「それがしも上杉殿と同意見です」

 ほんにゃら、にゃら、にゃら。

個人名はどうした。

景勝に遠慮している風には見えない。

与太郎は他の大老を見た。

前田利長と宇喜多秀家。

利長はそっと目を逸らした。

秀家は俯いた。

下話で個人名を共有しているのだろう。

 そうか。

疑いはあっても証拠がない。

だから軽々に個人名は口にしない。

重職にある者としての見識の一つなんだろう。


 与太郎は家中統制の一環として伊達家を討伐するつもりでいた。

が、大老四人の様子からそれは難しいと察した。

島津家は伊集院家へ攻め込んだ。

それは誰にも分かる実力行使。

対して伊達政宗は疑いのみ。

明確な証拠がない。

今回、政宗は書状も文も残していない。

有るのは甲斐姫が伝手や忍びを介して集めた証言のみ。

心証としては有罪なのだが、はて・・・。


 全てを考慮して一つの結論に落ち着いた。

与太郎は大老衆を見回した。

はっきり告げた。

「小賢しいと申すは伊達政宗であろう」

 まず景勝が平伏した。

「ますますの御慧眼、この景勝、恐れ入りましてございます」

 残りの三大老がそれに倣った。

大袈裟なまでの平伏。

おそらくは他の者達の目を意識した儀式美。

与太郎は、小賢しいのお主らであろう、そう言いたくなった。

でもそこは我慢我慢、グッと飲み込んだ。


 与太郎は大広間全体を見回した。

「皆もよく存じているだろう。

伊達政宗、その者はかつて葛西大崎一揆に関与したが、

太閤殿下の慈悲によりお目溢しされた。

にも関わらずだ、太閤殿下が亡くなるや、御掟破りに加担した。

そして今回、またもや東北の一揆を煽っている疑いが濃い。

もはや我慢の限界である。

本来であれば討伐すべきかも知れん。

しかし、確たる証拠がない。

よって公儀より追放とするに止める。

これより彼の者は公儀の枠外となる」

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