(島津家と伊達家を仕置き)2
与太郎は女子会ネットワークの活用は浅野家、小西家、
伊東家、これに六家から七家ほどを加えようと考えていた。
ところが甲斐姫と大谷吉継がこれに異を唱えた。
甲斐姫は、東北の子飼い大名衆にもお願いします、と言う。
大谷に至っては、関東に備える必要がございます、と言う。
甲斐姫の言は分かった。
今の甲斐姫は秀パパの愛妾ではなく、上様の傅役。
前田利家夫妻とは同役。
ただ、それだけでは心許ない。
そこで、是非とも上様の書付が欲しい、欲しいと願望もれもれ。
大谷の言も理解した。
今回は家康個人も徳川家そのものも釣り上げられないが、
この女子会ネットワークを活かし、公儀としてではなく、
豊臣家単独でも子飼い大名衆を動かせられるようにしたい、
その思惑が伝わって来た。
膨大な作業量になるのが目に見えた。
却下と言いたかった、が、出来なかった。
圧に負けた。
お陰で送り先が増えた。
ごめんよ、右筆のみんな。
頑張って筆を走らせてね。
紙はワイが手配させっから、よろしゅうにな。
あっ、送り先が増えれば当然女子会の進物も増える。
でも、そこは困らないな。
お金ならあるし。
豊臣家には二つの収入源があるし。
一つは直轄領からの税収。
これは豊臣家単体を賄う物。
もう一つは全国の蔵入地からの税収。
こちらは公儀を賄う物。
となると、進物費用も当然豊臣家からだ。
片桐に手配させよう。
ああ、あの日から随分と気を揉んだ。
小西家や伊東家は手際よくやってくれるだろうか。
商家の物資集めに支障は出ないだろうか。
伊集院家が簡単に負けはせぬか。
伊達家が本当に釣れるのか。
徳川家はどうか、他にも釣れないか。
釣果を楽しみにする一方で、胃が、胃が、胃腸薬くれー。
二個目のきんつばを頬張る与太郎に北政所様から労いの言葉。
「上様、ご立派です。
よくぞ遣り遂げられました。
私も皆も嬉しく思いますよ」
続けて他の面々も褒めてくれた。
家康個人も徳川家も釣り上げられなかったが、
秀パパ時代の因縁の相手が釣り上げられた。
伊達政宗は、陸奥で一揆が起こったと知るや、即座に発った。
小数の供回りを引き連れて陸奥へ駆け下った。
一揆を討伐すると意気込んでいたそうだ。
甲斐姫はそれを聞いてほくそ笑んだ。
伊達政宗は自領での一揆を切っ掛けに、
東北一帯で騒動になるように仕組んだ。
それが露見しているとは、微塵も思わぬだろう。
東北には秀パパの子飼いもいるが、甲斐姫の伝手も多い。
徳川が関東に移封されるや、小田原方だった国人衆や地侍衆は、
徳川に臣従するかどうか去就を迫られた。
臣従や帰農を選び関東に残る者達、良しとしない者達。
親兄弟でも道が分かれた。
新天地を求めた者達の多くが東北へ去った。
彼等は嗅覚で、秀パパの東北平定に期待した。
甲斐姫の生家、成田氏は秀パパの指示で蒲生氏の与力となり、
蒲生家に従って東北入りした。
これに甲斐姫も帯同した。
それが今回活かせた。
小田原方だった者達と東北の地で旧交を暖めた。
それは今も、文の遣り取りで続いていた。
取次役方が大広間に声を響かせた。
「上様、お成りです」
一斉に衣擦れの音。
全員が平伏するなか、与太郎は久々の出座。
御簾を上げさせ、ついでに面も上げさせ、隈なく見回した。
今日は大名衆だけでなく、希望する御用商人衆や町の大人衆、
寺社衆、公家衆等の列席を許した。
だから知らぬ顔が多い。
数は少ないが女衆もいた。
粗方は商家の女房や芝居興行筋だ。
女衆の中ではないが、女子会も顔を揃えた。
与太郎より後に入り、その与太郎の後ろに控えた。
圧が凄い。
大広間に居並ぶ者達はたいていが顔を逸らすか、俯いた。
流石に公儀の大人衆は慣れているので、全く臆しない。
街の衆を同席させたのには訳があった。
巷で流布していた噂が原因だ。
「「「徳川様を恐れているんかい」」」
「「「流石は島津様、公儀を無視してはる」」」
「「「大老中老奉行の衆は腰抜けばかりやないか」」」
「「「東北で一揆やそうやで」」」
「「「どないなるんや、豊臣さんは大丈夫かいな」」」
不満を持つ大名を釣り上げる、その策が裏目に出た格好だ。
そこで、それを払拭する為にこのような仕儀と相成った。
玄人はんも、素人はんも、全員大集合させた。
大人達は大反対したが、上様の権威で押し切った。
与太郎は久々という事もあり、【第三の目上級】を起動した。
鑑定、探知、察知を重ね掛け。
対象は大広間の者達全員。
自分への好感度を計った。
サーチ、解析。
好感度上限は百。
七十以上で青色。
三十以下で赤色。
大名衆に赤はいない。
多いのは青。
おそらく、空き時間にお茶席へ招いた効果だろう。
他は、まあ、こんなもんだろう。
赤がいないのは、物怪の幸いだ。
前田利家を探した。
隠居した今はお伽衆に加わって貰った。
与太郎のお傅役兼お伽衆。
そのお伽衆筆頭の席で寛いでいた。
大老職を退いて余裕綽々と見えた。
サーチと解析で利家を診断した。
与太郎の治癒の効果で赤は脱したが黄色どまり。
もうちょっと力を入れれば健康体にできるだろうが、
そこまで他人の人生に介入するつもりはない。
次は大谷吉継を探した。
彼にも治癒スキルを使った。
利家に続いて二人目だ。
利家同様に赤色を無くす方向で治癒をかけた。
業病なので、治癒スキルの効用を試す意味合いもあった。
その大谷は片桐且元の後ろに控えていた。
【第三の目上級】をそっと起動した。
サーチ、解析。
吉継を診断した。
青色もあるが黄色の方が多い。
赤は薄くなっていた。
座学の度に治癒を掛け続ければ、何れ赤は消える、そう確信した。




