表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/77

(島津家と伊達家を仕置き)1

 与太郎の供回りは片桐且元と渡辺糺、そして大谷吉継。

お茶席は女子会と合わせて都合八名。

個性の強い面々ばかり。

亭主、甲斐姫がそれらにお茶をふるまう。

多いのは抹茶ミルクティー、次にただのミルクティー、

そして同じくただの抹茶。

与太郎の前には抹茶ミルクティー。

子供の舌に優しい味。

ゆっくり飲んだ。


 甲斐姫が控えていた局達に指示してお茶菓子を配らせた。

お茶菓子もそれぞれの好みに合わせた物。

和菓子にバター、チーズ、カステラ。

それらが陶器の皿に乗せられていた。

今日はカステラ派が多い。

配られたのは一品だけではなかった。

内緒で用意されたもう一品。

それぞれに蓋付きのお菓子入れが添えられた。

白磁の逸品。

みんなの目がそれに注がれた。

甲斐姫が説明した。

「上様が大角与左衛門に申し付けられた物です。

丹波から取り寄せた小豆で作られました。

お楽しみ下さい」

 厨方頭、大角与左衛門に無理を言って作らせたもの。

試食は渡辺糺の道場で度々おこなった。

食いしん坊なあの面々とだ。

その結果が目の前に置かれた。


 蓋を開けるとそれがあった。

厚い形状の、鍔に似せた黒いもの。

蓋を開けた皆が息を飲んだ。

初見だから致し方ない。

甲斐姫が付け加えた。

「上様が、きんつば、そう名付けられました。

これは甘さ控え目にしております。

さあ、お召し上がれ」

 与太郎より先に渡辺糺の手が動いた。

きんつばを手掴みすると、少し食べて言う。

「甘さ控え目でも、美味しいですね」

 行儀が悪いかも知れないが、場を暖めてくれた。

感謝感謝感謝。


 お替りの注文は甲斐姫と局達が無難に捌いてくれた。 

様子から、材料にはかなり余裕があるらしい。

流石は奥で鍛えられた者達、手抜かりがない。

それを横目に、女子会の面々が主役になってのお喋りが始まった。

聞き役は片桐、渡辺、大谷の三名。

話を振られる度に頷くか、説明、釈明に追われていた。

 そんな中、与太郎一人は別枠。

無垢な子供だから大人達の会話には付いて行けない。

それでも笑顔で耳を傾けた。

大人達の言葉の端々から、それが何であるか把握に努めた。

きんつばの二個目を頬張りながら。


 傍目には無為に見えるかも知れない。

でもそれが大事なのだ。

与太郎は、この時間を潤滑油、と思った。

人は機械ではないが、他者との間には潤滑油が必要なのだ。

飾らない言葉で思いを口にする。

口論に及んでも、その後にギスギスしない為に。

まあ、この面子だと気心が知れてるから必要ないかも知れないが。


 甲斐姫が与太郎を見た。

さっきまでと目色が違った。

頃合いと判断したのだろう。

まったく、世話をかけてゴメン。

与太郎は甲斐姫に頷いて、居住まいを正した。

それに気付いた片桐が軽く咳払いした。

全員が手を止めた。

飲み物を、お茶菓子を置いて正対した。


 与太郎は全員を見回して頭を軽く下げた。

「此度は皆に助けて貰った、礼を申す」

 端緒は島津と伊集院の一連の騒ぎであった。

徳川家への仕置きがままならぬところに、これ。

口にはしないが、僥倖であった。

予想していたように公儀の機能が鈍化した。

秀パパのような司令塔不在が大きく響いた。

大老筆頭の毛利は決断力に欠け、

上杉を始めとした三家は毛利に遠慮気味。

その様子を見て与太郎は釣れる、と感じた。


 通常、秀頼名義で書状を発するとなると、それは公文書で、

公儀の大人衆の副状が必要になる。

そうなると関わる人間が多いので、どこかの段階で漏れしまう。

お漏らしは困りまっせ、ほんまに。

 与太郎は知恵を絞った。

思い付いたのは、女子会ネットワーク。

大名家や御用商家等との文や進物の遣り取りだ。

その中に書状を入れ、正妻より当主に内々に手渡して貰う。


 その前に片桐を説得した。

渡辺の道場に帯同し、奥にて仕掛けの全体像を説明した。

最後に腹蔵なく述べた。

「徳川家が連動するかも知れんが、あちらは随分と力を落とした。

当家単体でも負けるとは思わん」

 すると片桐、苦い表情で頷いてくれた。

「なんともはや、徳川家が・・・ですか。

・・・にしても釣るのですな、不埒な大名を、分りました。

甲斐姫殿だけでは心許ないので、大谷殿にもご相談下さい」

 幸い、大谷吉継は座学の指南役の一人。

片桐のように度々呼び出しても、誰も不審には思わないだろう。

早速大谷を招いてこれまた説き、片桐の言葉も伝えた。

「某であれば、喜んで」

 白頭巾の奥の目が笑っていた。


 女子会をお茶席に招いた。

片桐と大谷、甲斐姫の三人同席の上で大名釣りを説明し、

協力して欲しいと頭を下げた。

頭を下げるのを見た四人は呆れながらも喜んで承諾してくれた。


 一人目は五奉行筆頭、浅野長政。

彼には、島津と伊集院の一連の取り扱いを遅滞させるよう、

はっきりと指示した。

 二人目は小西行長。

彼の領地は南肥後で、東側が伊集院家と接していた。

その彼に、豊臣家が一切の費用を持つので、

伊集院家が必要とする武器食糧等の物資を輸送すること、

肥後の浪人衆を雇い入れて伊集院家へ送り込むこと、

その二つを指示した。

 三人目は伊東祐兵。

伊集院家と同じ日向の大名で、これまた領地を接していた。

彼にも、伊集院家が必要とする物資の輸送を指示した。

当然、資金提供も約束した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ