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(島津騒動)4

 島津家を追い詰める工夫を思い付いたが、与太郎は秘した。

さて、お次は・・・。

島津家だけに構ってはいられない。

六才児だが、これでも忙しい身。

揃った忍びの衆に大老中老奉行に関して尋ねた。

獅子身中の虫はいないと思うが、万一に備えた。

石橋を叩いて渡る主義なのだ。


 毛利家に問題があった。

当主、輝元は男子が生まれなかった事から、

縁戚の毛利秀元を養子とした。

ところが遅れて男子が生まれた。

慶事だが、家内で相続問題に発展した。

更には両川の一人、小早川隆景の死去に伴う騒動も起きた。

幸い、存命だった太閤殿下が仲介して二件とも収めた。

が、その死去により効力が疑わしくなった。

それらしき煙が上がっていると言う。


 宇喜多家も問題があった。

当主、秀家が側近達を重用するので、

先代の頃よりの重臣達が反発したのだ。

まだ斬り合いには発展してないが、それも間近いと言う。


 毛利家と宇喜多家が目立つが、

他の家々もそれなりに問題を抱えていた。

お家の拡張に伴って軋轢が生まれたのだ。

これは致し方のないこと。

家来や領民が増えれば、その分、争いも増えるというもの。

避けては通れない。

豊臣家自体も問題を内部に抱えているので、

与太郎は目くじらは立てない。

黙って聞き流した。


 毛利家、宇喜多家、双方ともに徳川家からの介入は見られたが、

それは思ったよりも小さかった。

踊らされる者が少なかったのだ。

これから分かったのは、徳川家の影響力が薄れていること。

大老職を解任された事が大きいのだろう。

石高だけでは如何ともし難いようだ。


 次は御掟破りに加担した四家だ。

加藤家、黒田家、蜂須賀家、福島家。

太閤殿下子飼いであっただけに、豊臣家内部に詳しくだけでなく、

知己も多いのだ。

油断していると、上手の手から水が漏る、の例え通り、

引っ掻き回されるかも知れない。

それが有り得る、と厳しい目を向けたのが来栖田吾作。

独自の判断で、それぞれの家に忍びを張り付けた。


 与太郎は、御掟破りの主犯、徳川家康を解任したが、

従犯である彼等には何も科していない。

何しろ彼等は豊臣家に貢献したお家ばかり。

それを処罰すれば、色々と厄介事が生じる。

特に、これまでの功績を声高に主張されるのが困る。

誰もが閉口してしまう

 そこで主敵、徳川家に専念する為に彼等を放置した。

内々に、登城を求めない、役目を与えない、を徹底させた。

それが功を奏したのか、彼等は徳川家との接触を止め、

大坂屋敷で自主的な謹慎に入った。

この放置も、行き過ぎれば逆効果。

四家が暴走してしまう懸念、無きにしも非ず。

が、それは承知の上。

暴走すれば叩き潰すだけ。

公儀の力を示す絶好の機会だ。


 もっとも、落としどころは考えていた。

ただ、こちらから提案する事ではないので、誰にも話していない。

それでも、四家のうちの、知恵袋殿なら察してくれるだろう。

太閤殿下が最も信頼し、最も警戒した人物なのだから。

肉親の情よりお家存続を第一とすれば、だが。

 

 与太郎は議を進めた。

「最後は徳川家か」

 ところが、一人が異を唱えた。

「その前に」と。

「どうした」与太郎が尋ねた。

 その一人が頭を下げた。

「東北に怪しい動きがあります」

 すると甲斐姫が身を乗り出した。

「伊達家ですか」

「そうです。

あの辺りで小賢しいのは伊達家だけです」

 甲斐姫が吐き捨てるように言う。

「またしてもですか」

「はい、またしてもです。

密かに旧家や国人衆を煽っています。

東北一円で一揆を起こすつもりのようです。

前回で学んだ筈なのですが、その辺りの事情は計り兼ねます」

 甲斐姫が怒りを含んだ目で与太郎を見返した。

「上様、前回は太閤殿下が許されました。

けれど、こたびは徹底的になさって下さい」


 前回というのは、太閤殿下の奥州仕置の過程で発生した一揆、

葛西大崎一揆の事であった。

この一揆の黒幕として名前が上げられたのが伊達政宗。

彼の関与を示す密書や証人が太閤殿下の元に届けられた。

上洛した政宗は、自分にかけられた疑いを言葉巧みに否定した。

役者が一枚も二枚も上だったのは太閤殿下。

政宗に、速やかな一揆討伐を命じた。

そして彼がそれを為すと、褒美として葛西大崎十三郡を与えた。

その場で、引き換えとばかりに伊達家の所領六郡を没収。

右手で荒廃した十三郡を差し出し、

左手で豊かな六郡を奪い取った。

これは明らかな処罰であった。


 この時、甲斐姫を含む成田氏長一門は陸奥にいた。

陸奥に移封された蒲生家に、与力の形で同行していた。

その陸奥にも葛西大崎一揆の影響が及んだ。

一揆討伐と共に、甚だ疑わしい伊達家に対応する為、

蒲生家は伊達家との国境を固めざるを得なかったのだ。

成田家の主力もそれに従った。

 理由は判明していないが、新規召抱えの浜田兄弟が謀乱。

手薄となった成田家の福井城を乗っ取り、

留守居の者達を殺害した。

その中には成田氏長の継室も含まれていた。

継室に愛されて育った甲斐姫は大激怒。

僅かな生き残りを伴って反撃に転じた。

浜田兄弟は事前に策を練っていたらしく、多勢。

甲斐姫は無勢にもかかわらず、薙刀を振るって突入した。

浜田弟の首を落とし、浜田兄を生け捕った。

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甲斐姫、強すぎる
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