表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/107

(始まりは突然に)3

 片桐且元の声が聞こえた。

「淀の方様、宜しいでしょうか」

騒がしかった大広間が波が引くように静まって行く。

論戦を繰り広げていた五大老三中老五奉行も姿勢を正した。

全ての視線がこちらに向けられた。

淀ママは慣れているようだが、与太郎は困惑した。

思わず淀ママを盗み見した。

淀ママが片桐に尋ねた。

「どうしました」

 目の前の遣り取りを聞いてなかったのか、

それとも判断に苦しんでいるのか。

たぶん、苦しんでいるのだろうな。

淀ママの実妹が家康の後継者、秀忠に嫁いでいた。

その辺りが影響して・・・、の苦渋・・・かな。


 片桐且元が淀ママに言う。

「皆様方がお方様のご裁断をお待ちです」

 それでも淀ママは表情には表さない。

平然として見えた。

やおら傍らの大蔵卿局を振り向いた。

「そなたはどう思う」

 かつて自分の乳母であった小母はんに投げた。

小母はんは慣れたもの。

「これは男衆で片付ける問題です」

 ごもっとも。

奥の者が口出しする案件ではない。

が、扱いに困ったからこうなったんや。

あかんわ、こいつら。


 このままでは足が痺れる。

【生活魔法(治癒)】起動。

【身体強化初級】と連動させ、身体全体を癒す。

ああ、休まるー。

「上様、宜しいですか」

 徳川家康の声。

落ち着いた中に威嚇を含ませていた。

何て器用な奴。

与太郎は辺りを見回した。

皆が与太郎と家康を注視していた。

 困った事に秀頼の人柄も事績も知らない。

いや、残される程の人ではなかったか。

周囲に流された人生を送った彼。

そして担がれるまま、滅びた。

一分でも、そこに彼の意志があったのだろうか。

納得の上の滅びとはとても思えない。

そんな人物を演じるには材料が少なすぎる。

どうせぇちゅねん。


 与太郎は立ち上がった。

МPを見るに、減りが少ない。

たぶん、攻撃魔法ではないからだろう。

上から見下ろす姿勢で家康に正対した。

 淀ママから注意された。

「立ってはいけません、座りなさい」

 犬やないんやから、淀ママ、ステイはないわ。

無視して家康に尋ねた。

「徳川殿、なにかな」

「皆が、上様のご裁断を仰ぎたいと待っております」

 見上げる姿勢のまま、眼光で威嚇して来た。

それあかん、子供に向けるものやないやろ。

普通の子ならそれで死ねるわ。


 与太郎は覚悟を決めた。

関ケ原で動くことを想定し、色々と案を練っていた。

こしあん、つぶあん。

しかし、こうなった。

前倒しや。

やるしかあらへん、いてもうたる。


 与太郎は家康から前田利家に視線を転じた。

「前田殿、答えは短くな。

御掟を破った、破っていない、この何れだ」

 重役に逃げ言葉は許さない。

二者択一。

家康が抗議の声を上げたが無視した。

利家は即答した。

「御掟を破っております」

 残りの大老にも尋ねた。

毛利輝元、上杉景勝、宇喜多秀家。

全員が、御掟を破ってると答えた。

前田家、毛利家、上杉家、宇喜多家、合わせた石高は、

四百万石には少し足りない。

それでも連合すれば徳川家を凌駕した。


 思わぬ展開に動揺したのか、家康の声が途絶えた。

与太郎は、川に落ちた犬は棒で叩く主義。

三中老にも尋ねた。

生駒親正、堀尾吉晴、中村一氏。

揃って、御掟を破っていると答えた。


 横目で家康が悄然としているのが見て取れた。

それでも与太郎は手を緩めない。

最後の五奉行に尋ねた。

浅野長政、前田玄以、石田三成、増田長盛、長束正家。

元々の家康嫌いであった面々。

御掟を破っていると答えた。


 与太郎が大広間を見回すと、空気が一変していた。

誰一人、言葉を発しない。

固まったまま身動ぎ一つしない。

先程までヒートアップしていた五大老三中老五奉行もだ。

淀ママや小姓を見遣ると、同様であった。

記録係の右筆達までが筆を止めている始末。

記録は大事なので空咳払いして再起動させた。

彼等の手が動くのを見て、与太郎は利家に尋ねた。

「前田殿の御年は」

「六十になりました」

「そろそろ悠々自適に暮らす時期か」

 その言葉に利家が反応した。

思わず与太郎を凝視した。

意味を計り兼ねたのだろう。

与太郎は足りぬ言葉を補った。

「周りの者達から、利家様は心労で幾度か臥せられた、そう聞いた。

利家殿は私の親父殿も同然、是非とも長生きして欲しいのだ」

 利家が目を瞠った。

肩を震わせ、両手を着き、低頭した。

この遣り取りに大広間の空気が温くなった。

あちこちから、ひそひそと聞こえて来た。

「「「利家様はお喜びでしょうな」」」

「「「上様はお優しいですな」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 新作ありがとうございます。 正直ワクワクしています。 続き楽しみに待ってます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ