(女子会)2
流石は古田織部、仕事が出来る男。
手元を見るに、正規に茶を点てたのではなく、
抹茶ミルクティーを点てるではないか。
それも砂糖入り。
それが与太郎に配られた。
北政所様には紅茶。
お母様には抹茶ミルクティー。
叔母様にも抹茶ミルクティー。
乳母様には紅茶。
抹茶ミルクティーは子供の口に合わせてくれたのだろう。
適度な温さであった。
甘味も過不足なし。
古田織部がしれっとした顔で与太郎に尋ねた。
「上様、新しいお点前は如何でしたか。
特にお味の方は」
今回のやり様は女子会からの要望であったのだろう。
それに対し嫌な顔一つ見せない古田織部。
出来る男、益荒男。
「美味い、私には十分だよ」
「安心致しました。
それではお茶請けもご期待下さい」
「相分かった、楽しませて貰う」
飲み終えたのを見てお茶請けが出された。
それを見て、思わず抹茶ミルクティーを噴きそうになった。
なんと、なんと、カステラ。
カステラだよ、おっかさん。
早速、鶏卵を活用したようだ。
与太郎は口にしてから尋ねた。
「美味い、実に美味い。
この菓子の名は何と言う」
古田織部は南蛮の菓子を真似たと言い、
その菓子の名を教えてくれた。
はあ、だ。
良く聞き取れない。
古田織部はきちんと発音してるのだろう。
ところが与太郎の耳には今一つ響かない。
「それは南蛮人から直接聞いたのか」
古田織部ははいと答え、もう一度発音した。
はあ、絶対音感の差だ。
古田織部が慰めるように言う。
「日ノ本の者には聞き取りにくい発音のようです。
手伝ってくれた厨方頭の大角与左衛門殿も困っておりました」
大角与左衛門、お前もか。
お母様から助け船が出た。
「秀頼、お前様が和名を決めなさい」
お母様の指示で局の一人が筆と紙が持って来た。
与太郎は考えるまでもなかった。
カステラ。
ヒラガナで書き、ついでに余白に鶏を描いた。
描いたと言っても、デフォルメしたもの。
頭の大きなお鶏様、そして足紋。
まるで幼稚園児の落書き。
何故か受けた。
「「「おっほほほ」」」
女子会だけではなかった。
渡辺糺と来栖治久も大きく笑った。
古田織部が肩を震わせながら言う。
「くっくっく、上様、お願いで御座います。
その絵、某にお下げ渡し下さい。
あっ、お名前も入れて下さい」
あれっ、もしかして所謂、色紙の類。
それもサイン入り。
与太郎は気付いたが、既に手は動いていた。
書き上げたのを見て、古田織部が膝スリスリ、寄って来た。
「失礼します」
サイン入りを間近で見た。
「良いですね、味があります」
本当か。
子供の手跡だよ。
古田織部は一人納得して、書き上げた紙を押し抱いた。
「家宝にします」
取り上げられるのを心配したのか、
それを持ってそそくさと元の席に戻った。
皆の視線が古田織部に向けられた。
皆して、してやられた、という表情。
当の古田織部はニコニコ、誰とも視線を合わせない。
与太郎は空気を読んだ。
話題を変えるしかない。
女子会四名に視線をくれた。
「そろそろ本題に」
片桐且元から事前に聞いていたが、それは言わない。
与太郎は素知らぬ顔で四名を順に見た。
これが大人としての対応。
まだ六才なんだけど、年齢じゃないよ。
気持ちなんだよ。
北政所様が頷くと、局の一人が竹で編まれた籠を運んで来た。
仕草からの判断になるが、重そう。
それを与太郎の前に置いた。
局は蓋を開けて、そそっと下がった。
北政所様が与太郎に語り掛けた。
「上様、それらは私共、奥の女達に届けられた文です。
その籠にはその一部を入れました。
残りは片桐殿に預けました。
今頃は上様の執務室でしょう」
ああ、あれか。
ここへ来る途中、竹籠を運ぶ数名の局を見掛けた。
与太郎は開けられた竹籠を覗いた。
文の体裁だが、見るからに良い紙を使っていた。
大身の者達からの書状と言っても差し支えないだろう。
敢えて尋ねた。
「これは」
北政所様が笑顔になった。
「各地の大名衆から家康殿の赦免を求める文です。
私共奥の者に、上様への口添えを望んでおります」
「赦免ですか」
「そうです。
上の方に家康殿直々の文も有ります。
豊臣家との絆を太くしようとしたのを誤解された、
そう嘆いておりますよ」
北政所様の視線が竹籠に向けられた。
一番上に家康の文があるから、さあ、それを読みなさい、
そう語っている気がした。
与太郎は困惑した表情、ついでに首を傾げた。
事前に聞いていたから驚きはしないが、それでも困った。
練っていた策は幾つかあるが、それを口にするほど馬鹿ではない。
こういう時は・・・、さて・・・。
あった。
子供になって、何故何故どうしてどうして攻撃。
教えて大人のご意見。
「私は子供なので家康殿の事は上辺しか知りません。
ですから皆様方、家康殿の深い所を教えて頂けませんか」




