(女子会)1
与太郎はその夜、熱が出た。
昼間に大人達の相手をしたせいで疲れが出たのだろう。
就寝後なので、誰にも気付かれていない。
そこで【第三の目上級(鑑定)】起動。
自分の状態を診た。
サーチ、解析。
知恵熱・・・、はあっ。
【生活魔法(治癒)】起動。
自分の全身に治癒を波のようにを広げて行く。
ゆっくり、ゆっくり。
声で起こされた。
「与太郎様、朝でございます」
キム、木村重成だ。
キムは朝からスッキリした顔。
どうにも子供らしくない仕草で起こしに来た。
忠臣かっ。
「眠いよ、キム」
「それでも起きましょう。
皆が待ってます。
本日より朝飯前は、槍の稽古です」
はあー、やりやりだな。
朝から忙しなかった。
通常、朝食後は座学なのだか、武官に横入れされた。
「用意が整いました。
早速ですが、上様こちらへ」
案内された一角に沢山の鞍が並べられていた。
意味が分からない。
行動に移す前に説明しろよ。
そこへ急ぎ足で片桐且元が現れた。
「上様、今日は鞍を決めましょう」
それでも意味が分からない。
くらくらした。
「くら・・・、鞍か・・・」
与太郎の昨日の発言が発端だった。
初陣。
皆が喜んだ。
与太郎が乗る馬を用意しようとした。
同時に、与太郎に騎乗経験はない、それも思い出した。
それ以前に、身体的に乗れそうな馬がいないのだが。
考えた末、二人騎乗に辿り着いた。
騎乗技術に優れた者が後ろから与太郎を支えて走らせる。
所謂、タンデム。
早い話、与太郎は相手の懐に抱かれた形になる。
成人男性の胸元の汗の臭い。
ああ、それを想像して嫌になった。
眩暈がしそう。
与太郎は且元に注文を付けた。
「一緒に乗るのは女武者にして欲しい」
女性なら妥協する。
後頭部にふくよかな胸。
そして香しい匂い。
想像しただけで幸福感に包まれた。
且元が嫌な顔をした。
「それは・・・」
咄嗟に口から出た。
「この身体に流れているのは太閤殿下の血だ。
全て言わなくても分かるよね」
秀パパ、ゴメン。
女好きを利用してゴメン。
辺りに微妙な空気が漂った。
肩を震わせる者、顔を背ける者、口元を押さえる者・・・。
キムだけだ、意味が分らぬ顔をしているのは。
そんな中、且元は愕然として膝を落としそうになったが、
それでも最後の一線で踏み止まった。
「女武者ですか」
「危なくなったら逃げるんだ。
だったら軽い女武者の方が良い。
女と子供だ、逃げ切れると思う」
女と子供二人でも、大人の男一人よりも軽い筈だ。
馬への負担も少なくても済む。
且元の表情が微妙なものになった。
「はあ、皆と相談してみます」
「頼む、皆を説得してくれ」
「まあ・・・、それで鞍は」
「女武者に選んでもらおう」
鞍に詳しい訳ではないので、タンデム相手に任せる事にした。
翌日も朝から忙しなかった。
理由はお茶席に招かれた事にあった。
お陰で幾つかの予定が潰れた。
それはそれで正直、有り難い。
暇なのは大好き。
邪な気持ちで渡辺糺の槍道場でヨガっていると、
近習の一人が来た。
「皆様方がお揃いです」
お茶席の用意が整ったそうだ。
与太郎は手早く仕度した。
上番の小姓組が周りを固めた。
おや、何時もは付いて来る伊東一刀斎の顔がない。
新免無二斎、佐々木小次郎もいない。
先程まで道場にいた筈なのに。
渡辺糺が苦笑いした。
「あの三人は逃げました」
やはりか。
三人は今日のお茶席の面々を苦手にしていた。
たぶん、道場の奥の座敷で息を殺しているのだろう。
本丸奥の庭園に建てられた茶室に案内された。
周囲を女武者が警戒していた。
奥の警備を一手に担うのが彼女達。
豊臣家直臣の娘達で、武芸が得意な者達ばかり。
与太郎に気付くと、組頭らしき女武者が駆けて来た。
凛々しい。
何処かで見たような・・・。
誰だったかな。
彼女の足取りは軽そうだが、胸元が重そう。
「上様、皆様方がお待ちです」
そう。
所謂、奥に住まう方々に招かれてしまった。
それも断る事の出来ない女子会に。
渡辺糺、与太郎、来栖治久の順で茶室に入った。
事前に知らされていたが、顔を揃えていた面々に圧倒された。
ねね様、茶々様、初様、まつ様。
数が問題ではない。
それぞれが持つ背景が濃いのだ。
たぶん、秀パパでも尻込みしたと思う。
家康や利家になると裸足で逃げただろう。
実際、渡辺も来栖も誰とも視線を合わせようとはしない。
与太郎に丸投げ状態。
与太郎は冷静に四人に向けて挨拶した。
「北政所様、お母様、叔母様、乳母様、
本日は皆様のお招きにより罷り越しました」
与太郎は四人と軽く遣り取りし、亭主にも挨拶した。
「古田織部殿、急な申し入れであったろう。
済まぬが宜しく頼む」
豊臣家の茶頭がにこやかな笑みを浮かべてくれた。
「上様、勿体ないお言葉です。
こちらこそ宜しくお願いいたします」
半東とお詰めは、淀ママの局二人が務めてくれると言う。




