(始まりは突然に)1
大作が二本スタンバイしてました。
これはその一つです。
取り敢えずは、これから。
ログインした。
チンチロリンと音がした。
続けて声が聞こえた。
「おいでやす」
モニターにナビが姿を現した。
二足歩行の子豚。
「惚れたらあかんよ」
一言多いナビだ。
アバターのキャラメイクタイム。
名前は、与太郎。
種族は、人族。
容姿はリアルな自分から遠ざけた。
拘りは二つ。
長身痩躯、人を射殺しそうな眼光。
それで造り上げた。
職業は、錬金術師。
待望のスキルポイント振り分け。
初期設定のポイントは500、課金して得たのは100000。
ポイント合計、100500。
しかし、振り分けられる数値の上限は決められていた。
ゲームバランスを壊しかねないからだ。
魔法には五つの等級があった。
初級、中級、上級、特級、超級。
課金で得られるのは上級まで。
それより上は、血と汗と涙の物語。
HPとMPを上限まで振り分けた。
スキル、【第三の目上級(鑑定、探知、察知)】、【体術上級】、
【生活魔法(水、火、土、風、光、闇、治癒)】を得た。
ユニークスキルは【亜空間収納上級】を入手した。
これで一仕事終えた気分。
残ったポイントはゲーム内通貨に交換し、
屋敷や武器、防具等を購入をする予定だ。
VRで勝手気ままに遊べる、そう確信した。
声が聞こえた。
「ほな行こか」
子豚が僕の手を掴んだ。
チンチロリンと音がした。
途端、視界が暗転した。
☆
慶長4年、1599年、6才。二月。
与太郎はまたあの夢を見た。
はあー・・・。
オンラインの売り文句は、「魔法と魔物の世界」だった。
なのに・・・、実際には戦国時代にリアルで飛ばされた。
所謂、転生させられた。
訳が分からなかった。
・・・。
今は諦めの境地や。
とにかく生を楽しもうやないか、なあ。
与太郎はステータスと念じた。
脳内でチンチロリンと音がした。
脳内に文字列が出現した。
『ステータスを表示します』
名前、豊臣朝臣与太郎秀頼。
種族、人族。
性別、雄。
年齢、六才。
状態、健康
職業、錬金術師、豊臣家の当主。
HP、666。
MP、666。
スキル、【第三の目上級(鑑定、探知、察知】、【体術上級】、
【生活魔法(水、火、土、風、光、闇、治癒)】。
ユニークスキル、【亜空間収納上級】。
ゲーム内通貨残高、33,450ムンク。
そう。
あの豊臣家に生まれた。
秀パパと淀ママの間に生まれた。
・・・・・・。
そう、それは滅びを約束された人生。
いやいや、ちょっと違う点に着目、着目。
そう、幼名。
幼名が違っていた。
拾ではなく与太郎となっていた。
もう一つ。
参内して豊臣朝臣藤吉郎秀頼と称するところ、
豊臣朝臣与太郎秀頼と名乗った。
これは、もしかして別のルート・・・。
東海道ではなくて東北道・・・、或いは仙台行きフェリー。
期待は易々と裏切られた。
一昨年、無理やり元服させられた。
そして昨年、秀パパが亡くなり家督を継がされた。
なるべくしてなった大坂城の主。
淀ママの保護の元だが・・・。
はあ、滅びのレール。
走るんかい。
あっかんわ。
起こされるまではルーティンタイム。
イメージは周辺を漂う魔素の取り込み。
丹田を意識して腹式呼吸。
ヒィ・ヒィ・フー、ヒィ・ヒィ・フー。
モーニングルーティンを初めてから四年目。
すっかり手慣れてしまった。
丹田が暖かくなった。
【第三の目上級(鑑定、探知、察知】を起動した。
丹田を視た。
暖かい物が魔力と表示された。
魔素が丹田で精錬されて魔力となっていた。
魔力を体内に流した。
その流れを視た。
丹田から魔力が蛇のように這い出、蛇からより細い糸となり、
体内を縦に横に循環する経脈、絡脈を通じて全身を巡る。
髪の毛の先にも、足の裏にも。
寝た姿勢で魔力を纏いながら、軽く運動をした。
腹筋、背筋、ついでに腕立て伏せ。
脳内でチンチロリンと音がした。
スキル、【身体強化初級】が生えた。
ほほう、幸先ええわ。
予想してなかったから、余計に嬉しいわ。
「与太郎様、朝でございます」
秀頼ではなく、与太郎と呼ばれた。
声は小姓の木村重成。
与太郎の乳母の子だ。
彼は与太郎とは同年生まれ。
乳母の縁で、幼くして元服、小姓に取り立てられた。
与太郎は半身を起こした。
「入ってもいいよ」
子供が入って来た。
与太郎も子供だが、与太郎とは違い何とも凛々しい。
大人になれば、女達に騒がれるだろう。
羨ましいな、重成くん。
「本日は大広間に大名衆がお集まりになります」
「だから私も」
「ええ、お淀の方様がご一緒なさいます」
ママ同伴か、気が重いわ。
刻限になると与太郎の小姓の上番組が全員集まった。
最年少は木村重成で、他は十才から十五才くらいまで。
彼等を従えて、いや、守られて大広間に向かった。
途中で淀ママと合流した。
ママは局や侍女達を侍らせていた。
与太郎に笑いかけた。
「秀頼、どうです」
「寒いです」
「武士の子なんです。
泣き言はいけませんよ」
そうなんだが、寒い暑いは仕方ないやないか。
でも、口にはせん。
口答えすると余計に叱られる。
喧しくて耳に堪える。
「はい、お母様」
すっかりこの生活に慣れてしまった。
上膳据膳。
重い物は箸しか持たせて貰えない。
出来れば、心頭滅却すれば・・・、そんな武士になりたいのだが。
あっ、あれは坊主か。
まあ、ええわ。
滅ぶ前に何とかしよう。
それまでは大人しく耐え忍ぼうか。