プロローグ 翼のもがれた鳥
オレは人間が嫌いだ。
曇天の大通りを黒い羽根が飛び去る。雲と影のコントラストがいくつも空を覆って、カアカアと声がする方を路地裏からただ見上げていた。
そのうちの一匹のカラスが、路地裏の彼に向って言う。
「よう、羽なし。今日も路地裏探しか?」
「なんだよ。冷やかしならどっかいきやがれ」
「はは、もう手伝ってやんねー」
誰がいるものかと、両足で跳ねながら奥のごみ捨て場に向かう。
最近は人間たちも対策を講じてか黄色い網がゴミ袋を覆う場所が多くなり、少なくとも飛ぶことのできないカラスにとっては食料調達をより困難にしていた。
ここもダメだ、ここもダメだ。見て回った4か所すべてに網がかかっていたため、さらに足取りは重くなる。孤高を極めた飛べないカラスも、そのうち降り出した雨にみじめに思い始めていた。
こんなことになったのも、あの人間の所為だ。あの人間の投げた石に当たらなければ翼を怪我することもなかったのに。
何度考えても、人間への憎悪と油断していた自分の不甲斐なさに感情が直結していく。カラスはついに今日の食料を諦め、屋根付きのごみ捨て場と段ボールの下で孤独にたたずむことになった。