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最終話 引き継がれる志

 

 ソフトバンクはボーダフォンの買収に成功した。

 ボーダフォンはソフトバンクモバイルへと名前を変え、革新的な通信機器『iPhone』の独占契約を発表する。

 店頭に並べられたiPhoneを見に行ったNTTdocomoの役員は、それを手に取って歯ぎしりをした。

「こんなに高くて扱いが難しい電話、庶民に受け入れられる訳が無い。Appleなんぞに頭を下げなくても、ウチはウチでやっていける」

 言葉では強がっていたが、内心はソフトバンクへのライバル心で打ち震えていた。

 その後、ソフトバンクはiPhoneの独占販売を武器にシェアを拡大。

 店頭に行列を成す若者たちの姿は、社会現象になるに至ったのである。


 ――― 数年後


 ある日、孫正義は執務室で椅子に座ったままウトウトと眠りについていた。

 そこに、ドアをノックする音が聞こえた。

「社長、少しいいですか?」

 そう言いながら入って来た秘書は、孫の前に立つとこう言った。

「社長が書いた本『志高く』を読んだという高校生が、社長にお会いしたいと何度も訪ねてきています。その都度お断りはしたのですが、あまりにもしつこいので、一度社長のお耳にも入れておいた方がいいかと思いまして……。やはりお帰り願った方がよろしいですよね?」

 聞いた孫は、机に手をついて勢いよく立ち上がった。

「何を言っている! そんな常識はずれなことをする奴に、私が会わない訳が無いだろう。今すぐここに連れて来なさい!」

「あ、会わない訳がないですか? 会う訳がないではなくて?」

 困惑する秘書に対し、孫は

「何を言っているのか分からんかもしれんが。私はその高校生に会いたいのだ!」

 そう言って、接客の準備をし始めた。


 その後しばらくすると、社長室のドアから若い女性が入って来た。

 孫が接客用ソファに女性を誘導すると、彼女は一通りの自己紹介を済ませてから、こう言った。

「孫社長、私は知識も無いし、お金も無いし、経験もありません。でも、世界中の人々を幸せにしたいというこころざしだけはあるんです! 私は、これから何をしたらいいんでしょうか」

 孫は彼女が手にしていた本を受け取ると、そこにサインを書き込んだ。

「西村さん、ITの技術はすでに成熟期を迎えている。しかし、あなたが仕事を始める頃には、ITを応用した新しい技術がさらに勢いを増していくことだろう」

 少女は目を輝かせて孫の話に耳を傾ける。

「なんでしょうか? その技術とは」

 孫は右手を頭の高さに上げて指をパチンと鳴らした。

 すると、部屋の片隅に置かれていた人型ロボット『ペッパー君』が、言葉を発しながら2人の席に近づいてきた。

「ソノ、新しい技術トハAGIです。初めまして、西村サン」

 ペッパー君は孫からサイン済みの本を受け取り、それを少女に手渡した。

「ペ、ペッパー君が私たちのやり取りを見て自発的に行動したんですか!? ス、スゴイ!」

 孫はニヤリと微笑んだ。

「AGIと略される汎用人工知能の技術は加速度的に進化を遂げている。すでに医師や士業しぎょうなど、様々な技術者が持つ専門知識はAI(人工知能)によって代替だいたいが進んでいる。しかし、創造性を含めた全ての分野においてAIの知性が人間を越えているとはまだ言い難い。ただし、それは今現在の話。例えば、地球上に存在する全ての人類の叡智えいちを1としよう。AGIは10年後には10の叡智を持つと予測されている。1人の人間の叡智の10倍ではない。全人類の叡智を合計した、その10倍だ」

 少女は息をのんで孫を見つめている。

「では、もしそうなったら何が起きるのか。教育、人生観、生き様、あらゆる産業、あらゆる常識が根底からひっくり返る。世界は新しくリセットされるのだ。だから西村さん、あなたはその新しい世界で何をしたいのか、今からそれを考えて備えておくといい。これからはあなたたちの時代です。命がけで人生を楽しみなさい」


 少女がお辞儀をして部屋から出ていくと、孫は自分のデスクに向かってウインクを送った。

 その先には、息を殺して身をひそめる一人の男。

 ペッパー君を操作するためのリモコンを握りしめた、論破王ひろゆきである。




『ソフトバンク孫正義の偉業は、実は論破王ひろゆきのお陰だったっぽい』  終わり


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