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熊本

 熊本に行ったときは、船で行ったのだと思う。大阪から出ているフェリーである。子供のころは何回か、家族で九州に旅行するときにフェリーに乗ったっけ。そのときは本当に雑魚寝だったような記憶があるが、あれから数十年経って随分と居心地よく改善されているようだった。等級の低い部屋で寝たのだけれど、一人一人のスペースが確保されて清潔な寝具がたたんで用意されていた。それに、乗客の数も多くなかったので、数十人入る大部屋に五六人だけだったので窮屈ではなかった。

 出港してすぐに、風呂に入った。風呂はだんだん混んでくるし、港の風景が見えるからいいのだとネット上の情報で見たからだった。同じような理由で、風呂に急ぐ人々の姿もいくつかあった。大浴場と言うほどではなかったが、船の上とは思えない充実した風呂だった。私はシャワーで体を洗い、それから湯船に浸かった。多分私は当時、風呂にはあまり入らなくなっていたように思う。シャワーで済ますようになっていたのだ。その代わりのように、スーパー銭湯に月一くらいで行っていたが、それさえ最早いかなくなった。いまも冬至と新年くらいしか湯舟を張らない。今年は入浴剤も買って、風呂を楽しもうと計画したのだけれど、余らせたまま入らなくなっている。

 それから夕食の時間まで船内をぶらぶらしたが、見るべきところがそうそうあるわけではない。トイレの場所や、給水機の場所を確認したくらいだ。安く済ませるには、カップラーメンやなんかも売っていたけれど、私は食堂が開くのを待った。開店前には行列に並んだ。なるべく早く行ったのだけれど、五六番目くらいだった。

 店に入ると、窓際の海の見える席を確保した。焼酎のハーフボトルを買い、バイキングのおかずを取ってきて呑んだ。小一時間ぐらいそうしていたように思う。席は限られているだろうから、混んできたら追い出されるだろうと思っていたのだが、そんなこともなく、私が店を出るころにはむしろ客が減っていた。

 部屋に帰ってもなかなか眠りに就けなかった。売店でつまみを買って、ボトルの残りを呑んだ。眠っては目が覚め、トイレに行ったり給水機の水を飲んだりした。私は外ではあまり眠れないたちだった。明け方近くにはもう諦めて、船の側面に設えられた展望席で海を眺めた。朝食待ちをして、開店したらそちらに向かう乗客がいたが、私は朝食は取らなかったように思う。その席でホットコーヒーくらいは飲んだのだろうが。

 港に着いて困ったのは、まだ電車の始発が出ていないことだった。港から駅までは送迎バスがあったのだが、そこから先は身動きが出来なかった。店も開いておらず、待合室にいるくらいしかできなかったのだが、私はウロウロ歩き回って、どんな店があるのかを探して時間をつぶした。帰りもこの港に来るのだからと思って。

 別府か博多かどこかでもライヴがあったようにも思うのだが、私の記憶には熊本しか残っていない。九州ツアー自体は数件あったはずだが、私の日程に合ったのが、ここだけだったのかも知れない。熊本は佐賀と比べたら格段に都会だった。ターミナル駅からは、路面電車に載ってホテルの近くまで行った。熊本城を見に行ったが、例によって天守閣には登らなかった。まだ、地震で城が崩れる前だった。

 昼の間にくまモンを見に行った。執務室に座っているくまモンの頭には空気穴があって、まるで十円禿のようだった。くまモンショーは、子供たちに前を譲って後ろの方から見た。土産物を何点か買って後にした。時間は有り余っていたはずだから、商店街を何度も往復したのだろうか、ホテルで昼寝をしたのだろうか。夕食は、ステーキとシーフードの店に入って食べた。割と美味しかったように思う。

 いつものように早めに会場に行って開場を待って並んでいた。しばらくしたら時間になって、中に入ってびっくりした。狭いのだ。奥にカウンタがある以外は、だいたい正方形で、その一辺が十メートルくらいだったと思う。ギタリストのソロアルバムが売っていたので買って、あとでサインをもらうことにした。楽器が並んでいるところがステージなのだが、そことフロアの間に境目がない。私はギターの立てかけてある少し前に立って待っていた。

 すると、徐々に客が入り始め、ほぼ満員となった。満員と言ってもせいぜい数十人しか入らないのだけれど。ふと後ろを見ると、私の後ろに二人の少女がいて、二人とも背が低かった。これでは見えないだろうと思って、私は二人に声をかけて最前列を譲った。彼女たちは背が低いので、その後ろに立っても、よく見えるのだった。バンドのメンバーが現れて、ヴォーカルの人が小さい声で、近いなと言った。

 素晴らしい演奏が終って、片づけ始めたので、私はさっき買ったシーディーを持ってギタリストにサインをしてもらった。さっきの少女たちが物販にいたので、シーディーを買ったらサインをもらえるよと教えた。彼女たちがそれぞれシーディーを買ったので、メンバーのところに連れて行ってサインをお願いした。私はそのまま離れて待っていた。メンバーがいったん楽屋に入り、客も残り少なくなっていた。私は少女の一人に声をかけて、ツイッターの相互フォローをした。そのまま入り口で別れて、ホテルに戻ったのだが、その途中で折畳傘のカヴァーを落としてしまっていた。

 ツイートを見ると彼女は大学生だということがわかった。直接やり取りをすることは少なかったが、相互フォローなのでお互いの発言は読んでいた。やがて就職活動に関するツイートが目立つようになった。私は、自分で事業をやった方がいいよとアドヴァイスした。能力的に無理だというので、そんなことはないよと言ったけれど、受け入れられなかった。その後、彼女は就職して、引っ越した。中国地方のどこかだったと思う。仕事関係のツイートが増えてきた。大阪に遊びに行くんだというツイートを見て、おすすめのおでん屋さんを教えたけれど、そこには行かなかったようだ。繁華街で出会った親切なおじさんに教えてもらった店に行ったとか書いていた。私は、お笑いのレース番組の短評を録画を見ながらつけていた。多分それが原因だったのだろう。お笑いを評論するのはどうかしていると言ったことをツイートしたかと思ったら、その少し後にブロックされたいた。

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