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異世界症候群は死の夢さえも殺せない  作者: 凡人a
一日目 狂おしいほど、血が欲しい
3/48

01:04 カエナ

 真夜中の1時である。

 男女二人は、中途半端に舗装された緩やかな傾斜の道を登っていた。

 脇には、すずらんのような形をした怪しく緑に発光する花が植えられており、それがずっと続いていた。イルミネーションであるならおしゃれだったが、あいにく今はクリスマスとは遠いやや涼しい気温である。つまるところ昼はなかなかに暑そうだが、風がかなり心地よいので実際には四月くらいだろうか。


 キャラクターシートを確認しろ、とゲームマスターは言っていたが、確かにナミダたちの初期装備であるノーマルなレザー製のプレートの隙間に、一枚の紙が挿入されている。というのは建前で、真っ暗な道を移動している最中に、闇夜に浮かんでいる+のボタンを発見し、それに触れる動作をしてみると、いわゆるステータス画面のようなものが開かれる。

 ステータス画面は震度四くらいで倒壊しそうな近所の本屋に並んでいそうな古書からページ破って貼り付けたようなものだ。


「こういうのはさ、雰囲気なのだよタナトスくぅん」と、道端からもぎ取ってきた発光する花をぶんぶんと振り回し、得意げに語る。


「カエナさんはなんでこんなに明るいんですか。こんなわけわからない世界にいきなり飛ばされたのに――」


 まるでどちらが発光しているのか分からなくなるくらいに騒がしい女だ。


「帰りたいって思わないんです?」

「んー、だってさ、USJに着いて開口一番に「帰りたい」なんて言う彼氏、アタシだったらその場で蹴飛ばしちゃいたくなるから」


 たぶんあのデカい地球儀のとこでだろう。


「帰りたい、って思うのは分かるかもだけど――そんなことアタシの前では言わないでほしい。言うならさ、喫煙所で言いなよって思っちゃうんだよね。ちょっとアイコス吸ってくるねって。頭ぽんぽんした後に背中見せてよ」

「ああ、喫煙所ってめっちゃため息交じりに肩落としながら吸ってる人いるよね」


 あれってそういう空間だったのか。確かに彼女に振り回される彼氏orパパの気持ちもわか……ナミダは自分が恋人いない歴=年齢であることに今気づいた。


「でも、タバコで口臭くなった状態で「ただいま」なんて言われたらげっそりしない? それで現実に戻されるっていうか」

「んー、しないと言ったら嘘になるかもだけど。アタシはその努力を認めるから、何も咎めたりしないよ。どう? アタシいい女でしょ」


 カエナは軽くウィンクしながら、口元を花で照らす。まさに陽のオーラで眩しくて前が見えなくなってしまうから、ナミダは「まぶし」って手で目を覆った。


「でもスマホとコンビニないのは最悪だよね! あぁ、今頃友達からライン来てたらどうしよとか思わない? 特に家にスマホ忘れてガッコ―行っちゃったときとかさぁ~」

「気持ちは分からなくないけどコンビニはなぜ?」

「だってアタシ、普段財布持ち歩かないんだもの、ペイペイって言いながら支払いしてるんだよ! だったらコンビニも必要じゃん」

「あっそう。今はこのステータス画面を見てスマホを眺める気分を味わうしかないね」


 冷めた態度を見せるナミダ。

 改め、キャラクターシートに目を通す。そもそもなぜナミダたち勇者候補はキャラクター扱いされるのだろうか。雰囲気重視なのは否定しないけど、自分のことが書き記されているのにどこか他人のようだ。


『雨宮波打 Lv1 HP12 MP10 ATK1 DEF1 DEX1 

スキル:『死』 上限-3』


 いろいろとツッコミどころがあるが、まずはこのステータスである。これは高いのか? 低いのか? いや、Lv1からスタートしている時点でまったく高くはないし、多少高いとしてもどんぐりの背比べであろう。

 スキル:『死』ってなんだよ。使ったら死ぬとかじゃないよね……ってかどうやって使うんだよ!!

 かなり不親切設計のようで、何度『死』を調べようと文字をタップしても、反応がない。長押しも無駄だった。こういうのはカーソルを合わせて右クリックすれば何かしら表示されるのがゲームの世界だろう。


「タナトスくん! このキャラクターシートの裏面って地図だよね? この周辺なのかなー」


 言われて、ナミダはキャラクターの右端にある→ボタンを押してみる。裏面の画面が開き、どこか見知らぬ大陸の地図が記載されている。楕円状の島国が、正面から見て斜めに浮かんでいるようだ。

 真ん中に大きく時計が描かれており、すぐにナミダたちのいた時計塔であることを理解する。ざっとこの地形の特徴を解説すると、南西にはぽつぽつと村や洞窟のようなものがあり、巨大な湖のようなものがぽっかりと空いていた。反対に北西には王城のようなものが建築されているようだが真偽は不明である。

 というか僕たちはどこに向かってるんだ? ナミダは率直な質問を地図にぶつけるが、錬金術で創られたお喋りな本ではないみたいで返答はない。

 と、途中で分かれ道に遭遇する。右の道はすずらんの道が続いており、イルミネーションを楽しむためのルートだろうか。左はあまり舗装されていない、獣道のように草が生い茂った道だ。


「代わりにアタシが応えてしんぜよう、このまま右に進めば村がある!! そして今日はそこでお泊りする!」

「んなとんとん拍子にいくわけ……」


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