12:11 ジンとルルゥ
物音を聞きつけた村人たちから離れるために、村人たちが飼育している馬小屋の裏手から中に侵入した。飼料と乾牧草が無数に落ち、三本フォークや熊手等の厩舎用具の並べられた脇へと連行する。
飼育された馬たちはおとなしく、珍しい人間が通ってきたのを目で追うが関係なしという風に無視していた。
この世界の人物は馬に騎乗するか、馬車を引くか、自動四輪駆動車という『アーティファクト』に乗って移動するらしい。
それはさておき、両腕を後ろで“塵”の力で固められ拘束されたジンは、納得いかない様子で胡坐をかいて座り込んでいた。
「うう、お金なら持ってませんよ。その小さい獣を殺したことは謝りますから……」
「うむ、たっぷり反省してくれよな。まあこいつのおかげで助かったから海より広いオレさまの心に免じて許してやるよ」
両腕を組んで偉そうにふんぞり返るルルゥだが、本題はそこではない。いや、それもあるのだが、
「……ジンさん。ひとつ訊きたいことがあります」
「断る、と言ったらどうしますか?」
ナミダがジンの正面に座り、目くばせでハツミを彼の背後に移動させる。
「一回ごとに指を折ります。はじめは小指から、薬指、中指、そして人差し指と親指は同時です。3、2、1のカウントダウンの後に間接の反対側に力を加えて、静かな馬小屋の中に枝が折れるような音が響き渡るんです。そこから真っ赤に腫れあがって――」
「も、もういい、話す、話すから」
じゃあ、とナミダは続ける。
「涼風加惠奈さんについて知ってることを話してほしいんです」
その名前に、ジンはゆっくりと顔を上げる。積年の恨みによる憎悪に近い表情。ぞくりと背筋が凍った。
「カエナ――? ここにカエナがいるんですか?」
「それは今のあなたには関係ないです。もしこの世界に存在するとしたらどうするつもりですか?」
次の言葉はきっと殺したいとか、憎らしい顔面に一発入れたいとかの暴力的なものだろうと思っていたが、
「謝りたいです」
であった。
「それは約束できません。ですが伝えておきますよ」
観念したのか、力が抜けて視線を餌の残骸まみれの床に落としながら、分かりましたと了承する。
「数年前のことだ――」
ジンの話が真実とは限らないし、信じたいとも思わない。隠し事をする度に少しずつナミダと、カエナの距離は広がってゆく。信頼を築いていくのは骨が折れるが、崩すときは骨を折るより簡単なのだ。
もし望むなら、次にジンが話した内容をスキップしても構わない。ナミダにとってそれは、目を瞑りたくなるような残酷な史実の扉だったのだ。




