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異世界症候群は死の夢さえも殺せない  作者: 凡人a
一日目 多才な人には、勝てないけど
22/48

08:32 死ぬ直前に走馬灯を見るか否かと言えば、遺伝子を残したいという欲求のみ

 広場から数十分。開発途中というわけか、人工的に切り拓かれた道がやがて途絶えて、草むらを掻き分けながら進むことになる。

 顔に蜘蛛の糸が引っ掛かった感覚がして思わず手で振り払うが、「何してんだ?」とルルゥに馬鹿にされた。

 

 このまま西の方角に向かうと最近できた町が見えるようだが、それに逆らってどんどん奥まで進んでゆくと、蛇のように太いツタや、夜行性の小動物が姿を現すようになった。途中途中でハンターたちの矢が落ちていた。


「この一帯を狩場にしてるのかもな。この辺には上質な毛皮の取れるグリムオオカミっていう動物がナワバリを作ってるんだ」


 そんな野生動物の住処をめちゃくちゃにした挙句、ルルゥを仕留めようとした連中にイライラする。

 ようやく洞窟の入り口付近にまでたどり着くと、一人の女性がその傍らで棒立ちしているのを発見する。


「……ッ」


 あの内巻きカールの黒髪女は、間違いなくハツミである。

 ハツミのマントの下から取り出した球体に向かって、周囲の砂が吸収され――それが一斉に、放出される。銃弾よりも速い無数の塵が、肉を裂き、骨を粉砕する。それが最期に見た光景なのだ。


 胃の中の者が逆流し、口の中が酸っぱくなる。

 だけど、吐いたらダメだ。今戻したらここにいるってバレてしまう。

 

 ナミダはその場にしゃがみこんで、深呼吸した。ルルゥは慌てて飛び降りて、ぽんぽんと小さい腕を伸ばして腰をさする。

(大丈夫、ありがとうルルゥ)


 お礼に頭を撫でてやると、もう一度深い呼吸をして、立ち上がった。

 葉と服のこすれる音がして、ぼーっとしているハツミがゆっくりとナミダの方を向いた。


「だれ」


 低く、消えそうなほど静かな声。

 どこか儚さを感じるが、正体はまったく容赦のない殺人鬼である。

 11時になる前、つまり今の段階では彼女はまだ勇者候補を手にかけていないはずだ。だが、殺人を犯す直前の今のタイミングでなぜ洞窟の傍で黄昏ているのだろうか。


「あ、ええっと――はじめまして~う、ウーバーでーす」

「ウーバー頼んだ記憶ない。なんでここにいるの? 殺していい? 寿司持ってきたならおいて行って、その後殺す」


 彼女はマントの下から、義手をあらわにしる。それに優しく握られている球体が、力を発動させようとして光っているが、


「ま、待ってください!! は、ハツミさん」

「っ!?」


 ハツミは目を見開く。血走るほどに、力強い眼光がナミダに圧を飛ばす。

 そこでナミダは「失敗した」と気づく。そうだ、ハツミとは初めて出会った。だから名前をしっているはずがないのだ。


「ええっと、ええっと――ち、違うんだ、その雰囲気とかがそれっぽいなと思ったりとか――あ、あと石碑! ランキング表を見たんだよ、広場にあって、」

 

 しまったーーーー。違う、あれは夜にならないと現れない。だからこの状況はおかしいのだ、ハツミの名前は誰も知らない。

 

 と、ハツミはナミダに近づいて、ゆっくりとナミダに腕を伸ばす。

 もうだめだ。ナミダは両手をぶんぶんと振りながら目を閉じるが、右手の指に広がるやわらかい感触に思わず硬直した。

 その正体はハツミの左手である。機械仕掛けの義手ではない、れっきとした、生まれながらにして持つ左手だ。




「ふつつかものですが……。これからよろしくお願いします、だんなさま」




 きっとこればかりは、理解するのに数回は【死】を体験しなければならないのだろう。

 ハツミの手は暖かかった。それにとても柔らかくて小さい。


「ええっと、どういうことでしょうか」

「ううん、だんなさまのことだから、きっと理解してくれてると思うけど。私は永遠の愛をここに誓ったの」


 一ミリも理解ができないが、どうしてこうなってしまうのだろう。

 嫌な予感がして慌てて手を放すと、以外にもすんなりと離れていった。


 が、嫌な予感は現実となって襲い来る。


「うん、すごいだんなさま。お昼なのにもうそんなに積極的だなんて思いもしなかった」


 彼女はレザープレートを脱いで、なんとズボンを完全に下ろしてしまう!

 しかもこのお嬢様、お風呂に入る時はついでに一緒にパンツも下ろしてしまうタイプで間違いなさそうだ。選択する母に「重なるから一緒にしないで!」って怒られるタイプだろう。


「ってなにしてんだよ!? ルルゥ、見ちゃいけません!!」

「ん、交尾」


 洞窟の入り口はごつごつした岩肌になっているのだが、それに手をついて控えめなおしりをこちらに向けている。女性の生尻を見るのは生まれて初めてのウブな少年ナミダは、顔を真っ赤にして慌てふためく。


「こらっ! めっ!! 年頃のレディが素敵な曲線を好きでもない男の子に見せたらダメでしょう!! ちゃんと最後まで履きなさい!!」

「ええーじゃあ問題ないじゃん私だんなさまのこと大好きだもん」

「そういうのもちゃんと好きな男子ができたらたくさん言ってあげなさい! ナミダママとのお約束よ!」


 急いで花柄のパンツ入りズボンを丸ごと彼女に手渡し、今にも噴火しそうなナミダはそっぽ向いてしゃがみこむ。


「おまえ、本当にいいパパになるよ、ちょっと恥ずかしがり屋なとこあるけど、うにょお!?」

 ルルゥに茶化され、仕返しに背中に顔をうずめて恥ずかしさをしのぐナミダ。


「だんなさま、ところで素敵な曲線ってなんのこと」


 それは女性が持つ、男性なら誰しもがメロメロに魅了される第一の曲線美である。

 女性は2か所に“曲”を持ち、たびたびどちらが素晴らしいかの論争が繰り広げられるのだが、平たく言えば乳派か尻派の話で、ナミダは第一の曲線と例えるように圧倒的尻派である。


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