後編
登場人物
ポンチ・・・たぬき。甘いものが大好き。
クマン・・・こぐま。よくポンチと川で遊んでいる。
ニャーコ・・・ねこ。毎朝紅茶を飲んでいる。
クモス・・・くも。だれかの耳の中に入るのが好き。
レオ・・・しばいぬ。村で一番チェスがうまい。
キツネのすむ森はとてもとおくにありました。ポンチたちはみんなくいしんぼうだったので、途中に立ち寄ったかえるさんの村で昼ごはんを食べると、ヤギさんの村でおやつを食べ、おいしいからあげが売っているとうわさのモモンガさんの町にも寄り道をしました。そうしてところどころ休けいをはさみながら移動し、空がオレンジになりはじめたころ、ようやくキツネの森に到着しました。
「あの森のおくにクマンはきっといるはずだ」ポンチは森のほうを見て言いました。
「腕がなるぜ」クモスはポンチの耳の中から出てくると、細い前足をぐるぐると回しました。
「大丈夫かなあ……怖いなあ」とレオ。
「みんな、しずかに。森の入り口を見てみて」
ニャーコがおさえた声で言いました。ポンチたちは近くの岩かげにかくれると、入り口に目をこらしました。
「1、2、3、うわっ、4匹も見張りのキツネがいる……」レオはふるえた声で言いました。
「こりゃあ大変だな。おいポンチ、どうするよ?」とクモス。
「うーん、どうしようか。正面から行くのはむずかしそうだね」ポンチはう~んと考え込みました。
「ここは、あたしにまかせてちょうだい」ニャーコはきれいなしっぽをまっすぐのばして言いました。
「4匹くらいなら、あたしひとりでなんとかしてみせるわ」そう言うとニャーコは低い姿勢を保ったまま、キツネたちの方へ近づいていきました。
「ニャーコ、大丈夫かな」
「しんぱいだなぁ……」ポンチとレオは不安そうにニャーコを見つめています。
ニャーコは忍び足でゆっくりキツネに近づいていきます。キツネたちは楽しそうにおしゃべりをしており、気付く様子はありません。ニャーコはためらうことなくどんどん近づいていきます。もう少しでキツネたちに気付かれてしまう!、そうポンチが思った瞬間でした。
ニャーコはいきなりのどをふるわせて鳴きはじめたのです。
にゃ~にゃ~、ころころ、にゃ~ころろ、にゃ~あにゃ~あ、ころろろろ
ニャーコの心地よい鳴き声が辺りにひびき渡りました。すると、おどろいたことにキツネたちは急に動かなくなりました。キツネたちはそのまままゆっくりとひざをつくと、目を閉じて眠ってしまいました。
「すごい!さすが」ポンチとレオはニャーコに近づいていきました。
「あたしの鳴き声を聞いたら、みんなねちゃうらしいのよ」と言って、ニャーコは笑いました。
「その証拠に、ほら、クモスもねちゃってるわ」ニャーコの耳元にいたクモスもねころんだまま大きないびきをかいています。
「ははは、仕方ない、クモスはねむらせておこう」クモスがあまりに気持ちよさそうに寝ているので、ポンチはクモスを起こさないことにしました。
「さあ、進みましょう!」
「よしっ」ポンチたちは森のおくへと進んでいきました。
森の小道の途中ではさいわいなことにキツネたちと出くわすことはなかったので、ポンチはほっとひといきつきました。しばらくあるいていくと、次第に前方に大きな広場が見えてきました。そこにはたくさんのキツネと、小さなおりに閉じ込められているクマンがいました。
「いた!クマンだ!」ポンチは小さな声で叫びました。
「でもあれじゃあ、近付けそうにないわね」
「どうにかして注意をひきつけないとなあ」とポンチ。
「ぼくが……注意を引くよ……」とレオは勇気をふりしぼって言いました。
「でもそれだとレオがあぶなくなっちゃうわ!」
「でも……それしかないんじゃないかな……」とレオ。
「いや、待って」ポンチはレオの言葉をさえぎりました。「ボクにひとつ案がある」
「それはなんなの?」
「ボクは変化の術でたぬきのぬいぐるみに化けることが出来るんだ。それをうまくつかえれば……」
「なるほど、そういうことね!」ニャーコは納得したようにうなずきました。
そして、作戦がはじまりました。レオは上空をあおぐと、大きな声でほえ始めました。
わんっ、わんわんわん、わっわん、わわわわん、くぅんくん……
広場のキツネたちはいっせいに音のする方を見ました。ガヤガヤと話し合ったあと、いきおいよくポンチたちのほうへとかけ寄ってきます。しかし、ポンチたちには気付くことなく、そのまま入り口の方へ通り過ぎていきました。キツネの一匹が、森の中に不自然に置かれた大きなたぬきのぬいぐるみに気づきましたが、首をかしげただけで走り去ってしまいました。そのぬいぐるみのうしろにニャーコとレオ(と、すやすやのクモス)が隠れてることにはまったく気がついていなかったのです。
「よし、いくよ」ポンチはそう言って変化を解くと、だれもいなくなった広場へ向かいました。広場の真ん中にあるおりの中に、友だちのクマンがさびしそうにうずくまっています。
「クマン、助けに来たよ!」とポンチ。
「おお、来てくれたんだ!はやく、このおりをどかしてくれ!」クマンはそう言うと、立ち上がっておりを揺らしました。
「すぐにどかすよ」そう言ってポンチがクマンに近づこうとしたその時、
「ちょっと待って!!」
普段は声の小さいレオが大声で叫びました。ポンチとニャーコはおどろいたようにレオを見ました。
レオはゆっくりとクマンへ近づいていくと、低いうなり声をあげました。
「くぅ~ん、やっぱり、やっぱりそうだ」
「どうかしたの、レオ?」
「ぼくが知ってるクマンの匂いじゃない。一体……君はだれなんだい?」レオは牙をむきだしにしました。
「ちぇっ、バレたか」クマンはそう言うと自分のヒフをビリビリビリとはがしました。なんとそこには、細い目をしたキツネがいたのです!
「そんな、だまされた!」ポンチはそう言うと、もとの道を引き返そうとしました。しかしそこには、戻ってきたキツネたちが待ち構えていました。
「いけない、かこまれちゃったわ!」
「どうしよう……どうしよう……」
ポンチたちを取り囲んだキツネたちはニヤニヤと笑いながらゆっくりとポンチたちに近づいてきます。
「まずい、このままじゃあ」ポンチは後ろ足で立ち上がってたたかう体勢を取りました。30匹はいるであろうキツネの大群に普通にたたかっても勝てるはずもありません。でも、やるしかないか──、そうポンチが覚悟を決めた時でした。
「おいおい、どうなってるんだぁ」
ニャーコの耳元でクモスが起き上がって言いました。まだ少し眠そうにしています。
「クモス、起きたんだね。いま、たいへんなことになっているんだよ!」とポンチ。
「ああ、ほんとだなあ」クモスはのんきにあくびをしながら言いました。「そんじゃあ、オレに任せとけよ」
そう言うとクモスは地面に降りて大きな声を上げました。
「おういおまえら!!出番だぜ!こいつらをやっちまえ!」
その時でした。地面がゆれたかと思うと、土のなかからとてもとてもたくさんのクモが出てきました。こめつぶくらいの大きさのクモたちはすばやくキツネたちを囲むと、いっせいにキツネめがけて糸をはきだしました。キツネたちはあわててにげようとしますが、もがけばもがくほど糸は体にからまっていきます。そうしているうちにあっという間にキツネたちは身動きがとれなくなってしまいました。
「クモス、あなたたちやるじゃない!」ニャーコはいもむしのようにぐるぐる巻きになったキツネたちを見ながら言いました。
「おう、そうだろう?体は小さくても、出来ることはあるんだぜ!」
「ホントに助かったよ。でも、これからどうしようか」ポンチは周囲をぐるっと見渡します。
「あの奥から、かすかにクマンの匂いがするよ」レオは広場の奥に続く小道を指さしました。
「よし、そこだ!走ろう」
ポンチたちは走り出しました。長い道を抜けて走っていると今度は前方に黒いおりが見えてきました。
「あれは!」とクモス。
「クマンだ!」ポンチはそう叫ぶとスピードを上げました。小さく見えていたおりが次第に大きくなっていきます。その中には、今度こそホンモノのクマンがいたのです!
「ポンチ!それに皆も!」クマンは泣きそうになりながら叫びました。
「クマン、君に会いにきたよ。このおりをどかすから下がっていて」そう言うとクマンはおりを下から持ち上げようと力を入れました。
しかしおりは重くてなかなか動きません。
「あたしも、手伝うわ」とニャーコ。
「ぼくも……手伝うよ……」レオも力を込めます。
「フレーッ、フレーッ」クモスはレオの頭の上で小さな枝を旗のように振っています。
「がんばれ!みんな」クマンも叫びました。
ギギギという音がして、おりが少しずつ持ち上がっていきます。そして、クマンはおりの下のわずかなすきまに体を入れて、なんとか外に出ることができました。
「ああ、クマン!会えてよかった」ポンチはクマンに抱きつきます。
「元気そうで安心したわ」
「良かった……本当に……」
ポンチたちは目に涙を浮浮かべています。
「本当にみんな、ありがとう。ここに閉じ込められているあいだ、すごく怖かったんだ。でも、なぜだかわからないけど、みんなが助けに来てくれる気がしてたんだ。そしたら本当に来てくれた。こんなにうれしいことはないよ」
そう言うとクマンは口を大きく開けて笑いました。ポンチもつられてアハハと笑いました。
「おいおい、しゃべるのもいいが、それより先にここをずらかるぜ!」いつの間にかクマンの鼻の先にのっていたクモスがその場ではねました。
「そうだね!その前に……」ポンチはそう言うと、リュックの中から小さな小ビンを取りだして、おりの中へ置きました。
「おいポンチ、そのビンをどうするつもりだ?」クモスはふしぎそうにポンチを見ました。
「ふふふ」ポンチは少し笑いました。「見といて」
そう言うと、ポンチはビンに向かって変化の術をとなえました。
「なるほどね」クマンもふふふと笑いました。
ニャーコ、クモス、レオもこらえきれずにワハハハと声に出して笑いました。笑顔のままポンチは言いました。
「よし、いこうか」
もうすでに日は沈んでいました。お星さまがかがやく夜空の下を、ポンチたちは歌いながら帰っていきました。
それからしばらくたった後、ようやく糸から抜け出すことができたキツネたちは、クマンが捕まっていたおりを見にいきました。
そこにはクマンのすがたはなく、ただ大きなくまのぬいぐるみがポツンと置かれているだけでしたとさ。
おしまい。
普段は書かないようなジャンルでしたが、書いてみると意外と楽しかったです。この作品を書くにあたっていくつかの古典的な童話を読んでみました。そこで共通していたテーマが、「みんなでちからをあわせる」ということでした。自分ひとりの力で出来ることなんて限られていますよね。
それでは、また。