雪兎
掲載日:2022/11/04
雪兎
あの日手のひらに落ちた真っ白な粉砂糖みたいな雪は体温ですぐに溶けてしまった。
この地方では珍しい雪は私の凍った感性と心を溶かしていく様に胸を満足感で満たしてくれた。
病院の貸し出し用車椅子を押されながら身体中の痛みに耐え、個室に戻ればサイドテーブルにちょこんと鎮座する小さな小さなウサギ。
看護師の粋な計らいだろうか?
『少しの間だけど、同室ね』くすり、と笑えばそっと雪でできた冷たい彼女を指先で撫でてから数日。
雪兎は日々ゆっくりゆっくりと形を変えて溶けていく、まるでその時に私の病を連れていくかの様に日に日に私の病状は回復していった
『ねぇ、そんなことしなくていいのよ、貴女きっと私じゃない病室に飾られた方が幸せになれたわね…』感謝と共にあと片耳と少しの胴体しかなくなった彼女を抱き上げて胸元に引き寄せるとまるで共鳴する様に冷たいはずの彼女の身体から体温と少しの鼓動
きっと他の人は頭がおかしくなったというけれど、最期の時彼女は確かに言ったのだ
『いちどでいいから、だれかをたすけてみたかった』
これはある病院で起こったちいさなちいさな奇跡の物語




