12.地獄耳じゃなかった!
料理を片付けて、移動の準備をする。
「ドミティラ、狩りのとき、どうして慌てましたか?」
肝臓のスープをついだ竹の器を、ドミティラは洗って重ねていく。器は口と底がかっちりはまって、コンパクトに収納できる作りだ。
「スベンザは力が強いからね。仲間が助けようとしてきたら、カジョ一人じゃちょっと大変だと思ったんだよ」
「えー! もう戻っちゃうの?」
なるほど、と納得してたところで、ルピタが叫ぶ。
大人たちは獲物の部位を、それぞれの荷物にくくりつけて立ち上がっている。
「まだ処理が終わったわけじゃないから、急いで帰って片付けないとな」
「今から戻っても、夕方になるからね」
カジョとカンデのもっともな言い分に、ルピタは不満そうだ。
「タタン、どうしました?」
「……なんでもない」
口がへの字になってる。言いたくないみたい。
どうしたのかな?
心配だけど、ルピタも片付けを始めたので、竜さまの鱗のところに戻った。
帰り道は、スイレンの池を来たときとは別の方角に折れて土手沿いに歩く。
マノリト、ドミティラ、私、ルピタ、カンデ、カジョの順だ。
大きなカヤツリグサの花穂が見事だったので、二本切って一本は自分が持ち、一本をルピタに渡した。ルピタはまだ口数が少ないけど、カヤツリグサでちょっかいをかけると、向こうも応戦してきて、少し元気になった気がする。
長いものを振り回したくなるのは、この世界でも変わらないのです。
「ドミティラの軽くなる魔法、どうやりますか?」
「まほう?」
ドミティラが笠を傾けた。
「呪文ややり方があるわけじゃないから、特性かな」
「とくせい」
前にニーノも、特性って言ってたな。
「小さい頃からときどき、軽くなるな、と思っててね。どんなときに軽くなるのかコツをつかんでいった感じ」
へえ、小さい頃から、不思議な力そのものはあるのか。
「まあ、三万日くらい練習して、自在になったかな、私は」
「ほあ、さんまん!」
道のりは長い。自分の特性が何かも分からないのに。
「カジョは、腕が多いんだっけ?」
「ばらさなくていいんだよ、そういうことは」
カジョはおっとり苦笑いしている。
「腕が多い?」
後ろ歩きでカジョを見てみるけど、一般的な人間らしく、二本の腕と二本の足しか見えない。
「見えない腕が使えるのさ。見えてる腕と、動きや届く範囲は変わらないんだけどね」
「ええー、見えない? 何本ありますか?」
奇妙だ!
手がいっぱいあると、便利かな?
「見えない腕は二本。足は一本」
足も?
「だから、カジョの早弾きは異常だ」
カンデがぼそっと言う。
腕が四本あったら、二つ楽器が演奏できるもんね! でも、頭がしっちゃかめっちゃかになりそうだ。
「誰でも特性がありますか? あ、エステルさんは身体の中が見えます!」
「誰でもなのかはよく分からないな。だが、エステルとプラシドの特性は、ここでは本当に役に立つ」
身体の中が見えるのが――?
「え、エステルは、な、何でも見透かすんだ」
「果物に虫がいるかどうか見えるし、沼地の下にどんな層が続いているかも見える」
「ええ!」
「固い岩盤の上で、水の流れから外れた場所を探して、今の座の場所に決めたらしいね」
「すごーい!」
「プラシドが、頑張って地面を乾かしたんだよ」
ルピタがカヤツリグサをふりふりしている。
「エステル、すごい! プラシドもすごい!」
世界の始まりの神話みたいだ。
あちらこちらの木や草を指して、名前を聞きながら先に進む。
行きと違って声の大きさを気にしなくていいので、のびのびした心地。
ころろろろ……くるー、ころろろろくるー
珍しい音が聞こえて、首を伸ばす。
「変な声が聞こえます」
「変な声?」
マノリトが「だまって」の合図をして、みんな黙る。
ころろろろ……くるー、ころろろろ
「ハ、ハクビガンの声だ。エ、エーヴェ、す、すごい。よく気がついた」
ほめられた!
「え、声、する?」
「マノリトより早く気がつくなんて、すごいな」
「さっき、スベンザの息とかみんなの声、聞こえました」
どうやら本当にエーヴェは耳が良いのかもしれないぞ。
得意になっていると、何か考えていたカジョが、目の前にしゃがみ込んだ。
「エーヴェちゃん、ちょっとお山さまの鱗貸して」
「お? いいですよ!」
腕を抜いて、カジョに手渡す。
カジョはなぜか頭の後ろに鱗を持って行った。
「んー、なるほど。エーヴェちゃんは今、ハクビガンの声、聞こえるかい?」
言われてみると、さっきはあんなにはっきり聞こえたのに、今は聞こえない。
目をつむって耳を澄ます。ころろろのところが聞こえた。
「ちょっとしか聞こえないよ?」
「ほら」
カジョが顔の後ろに鱗を降ろした。
くるーころろろろ……
「お! 聞こえます!」
「うん。お山さまの鱗は声を大きく聞かせてくれるのかもね」
「おおー!」
「おおお! すごい」
みんなが試したい風なので、貸してあげる。
知らなかった。竜さまの鱗、なんて偉大。
確かに遠くの物音が聞こえたときは、鱗を背負っていた気がする。
ん? プラシドとニーノがケンカしてたときも、竜さまの鱗を持っていたぞ?
「じゃあ、エーヴェは地獄耳じゃありません」
竜さまの鱗の素晴らしさが分かって嬉しい。だけど、耳が良かったわけじゃないのは残念だ。
複雑な気分で周りを見回したとき、ルピタがいないのに気がついた。
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