8.狩り前夜
「ふむふむ、ルピタが俺とマノリトにはさまって寝ることになってもいいなら、連れてってやるぞ?」
夕飯が済んだ食堂で、みんなに竜さまの鱗を披露しているかたわら、ルピタはカジョに直訴している。
「やだ! くさい!」
「おやおや。くさいとか、傷つくなぁ」
ぎゅーっとされて、ルピタが奇声を発して笑ってる。
「うわー、とってもきれいだね」
「ほらぁ、ロペ。お山さまの鱗だよー?」
フィトはノエミが抱えているロペの前に鱗をかざした。
この三人は黄色っぽい肌の色だから、おどろさまの座では目立つ。特にフィトは白人系だから、ほとんど赤く見えた。
「うぶ」
「あ、ロペ! なめないの!」
「だいじょーぶです。エーヴェもたまになめるよ」
慌ててロペの口から鱗を離そうとしていたノエミは、目を丸くする。
「え、なめるの?」
「でこぼこが楽しいのです」
「じゃあ、あとでふいておくね」
フィトがなぜか、笑いをかみ殺している。
「うぶーう、ぷぅ」
ロペが手足をばたばたして何か言った。
「満足ですか?」
「うん、満足」
ノエミがロペの両手を持って上下させ、フィトが鱗をきれいにふいてくれた。
ハスミンが作ってくれたのは編み上げリュックのような物で、鱗の縁に縄を引っかけて帯に腕を通すと、網がきゅっと締まって鱗が落ちなくなる。
便利。でも、鱗が目に入らないのは、ちょっと残念だ。
鱗の様子を見ようとすると、自分の尻尾を追いかける犬みたいになる。
「エーヴェちゃん! 一緒に行けるよー!」
顔を輝かせて、ルピタが走ってきた。
「タタン! やったねー」
「やったー」
「明日は日が昇ったらすぐに出るから、もう寝なさいよ」
二人で喜んでいると、水色の髪のドミティラが、腰に手を当てて見下ろしてくる。
「泊まりは止め。夜明けに出て、その日のうちに戻る。わがまま言ったんだから、泣き言言ったら怒るよ」
「はい!」
「分かった!」
出発に都合が良いから、今夜もルピタの部屋で寝ることになり、二人で部屋に戻った。
「明日、何を狩るのかな?」
「プラシドはスベンザの肉が好きだけど……会えるかどうか分かんないね」
「スベンザ?」
「曲がった角がある大きい獣だよ」
ルピタの指の形を見ると、水牛のイメージかな?
「私はね、ワニがいいと思うんだよね。おいしいし、卵だったらエステルも食べられるんじゃないかな」
「ワニ!」
食べられる話はあったけど、人間が食べる側でもあるのか。
やはり、人間はとても野蛮。
「タタンはエステルが大好きだね!」
「うん!」
部屋に着いて、二人で並んで寝台に寝転ぶ。
「甘露で大きくなる頃は、みんなエステルの家に住むんだよ。ロペは違うけどね。エステルはとっても物知りで、いろんなことを教えてくれるんだ。それから、寝るときに歌を歌ってくれるんだよ」
ルピタは歌ってくれた。
「竜さまが おめめをぱちり
夜来たお空に お星さまきらり
竜さまが 尾っぽをゆらり
のぼった月が 傾くくらり
竜さまの お乳はとろり
お腹いっぱい キミは眠り
竜さまが 泡 ぽこぽこり
まだ遠い 朝まで お眠り」
朝は全然遠くなかった。
「二人とも、起きて!」
身体を揺すられて、目を開ける。真っ暗な中だけど、声でカンデだと分かる。
「おきた」
「じゃあ、そのまま、寝台を出るんだ。ルピタ! しっかり起きて!」
ルピタが頭をぐらぐらさせて、寝台に戻りそうになっている。
半分眠った気持ちで寝台の傍に立つ。
ごわごわした何かを身体に着せられている。目の前のカンデも、いつもとは違う格好だ。
「大丈夫か? 目を開けて、外に出るよ」
手を引かれ、口から魂を出しながら、渡り廊下を歩いた。
目を射る明るい光に、目蓋をこじ開けると、集落の入口にはたいまつを持った人影がいくつかあった。
「あやや。これ、大丈夫かね」
「お、俺、背負うか?」
「甘やかすのはよくない。――ルピタ、起きて!」
水色の髪がルピタの前にしゃがみ込む。
「――エーヴェ」
ぴんと背筋が伸びた。
「はい!」
ぐりんと振り返った先に、後ろ手を組んだニーノが立っている。
「エーヴェ、起きてる!」
「そうか。気をつけて行ってこい」
まだ眠気が強くて、うんうん頷く。
「何かやりたくなったら、やる前に大人に言え。いいな」
どういう意味か分からないけど、うんうん頷く。
「致命的なことはしないと思うが、よく見てやってくれ」
「気をつけておくよ」
カジョが頷く。
「ニーノ、いってきます!」
ニーノに見送られて、門の外に出発した。
すぐ歌います。
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