6.お見舞いに行こう
カンデに方向を教えてもらって、ルピタの部屋に戻ると、盛大に迎えられた。
「起きたらエーヴェちゃんが消えてて、びっくりした! 何があったのー? どーいうこと?」
「エーヴェも何だか分かりません。でも、プラシド、手術終わったよ!」
「おおー!」
これは、ハスミンの声も重なった。
お昼過ぎにプラシドが目を覚ましたという知らせがあり、また小屋の前にみんなが押し寄せた。
ニーノが呆れた視線を向けたけど、今回は特に人数制限はなし。
「プラシド、だいじょうぶー?」
プラシドは寝台で上体を起こして座っていた。右足は布でぐるぐる巻かれている。膝を立てた状態で固定されていた。
「みんなー! 俺、生きてるー?」
「生きてる、生きてる」
プラシドは両手を振っている。元気そう。
「プラシドは、エステルに比べれば切った部分が少ない。二日後に排尿補助の管を取って、少しずつ足のリハビリを進める」
「はいにょーほじょのくだ?」
ルピタと声がそろった。
「今、おちんちんに管がささってるんだってー。よく分かんないだけどさ」
「見せるな」
お腹から下を覆っている布をのぞき込むプラシドに、ニーノの厳しい声が飛ぶ。
全員がうんうん頷いた。
「念のためだ。感染症が起こっては困る」
「ニーノちゃん何言ってるかわかんないけど、だいたい正しいから、そういうことね」
「患者、自覚持てよー」
「足残ってよかったな」
笑い混じりのわあわあした声に、プラシドはにこにこしてる。みんなもほっとしてるのが分かる。
まだ終わったわけじゃないけど、一段落だ。
「よかったね、タタン」
「うん!」
ルピタの顔が明るく輝く。それで、もっと嬉しくなった。
「エステルも起きている時間がだいぶ長くなった。様子を見に行くといい」
「話もできるようになってきたよ」
さっきまで看病に当たっていたドミティラが言い添えて、雰囲気がさらに明るくなる。
「じゃあ、会いに行こうよ、タタン」
ルピタがぱっとドミティラの顔を見た。
「小さい人は早めに行ってきな」
「そーする!」
「ちょっと待って! 俺がいちばん会いに行けなくない?」
にこにこ聞いていたプラシドがはっとした。
膝を固定した竹製の器具を見て、みんなちょっと黙る。
「あっはっは、ホントだー!」
「もしかしたら、エステルが来るほうが早いぞ」
「ニーノちゃん、このタイミングはねらったのー?」
情けない声を上げたプラシドに、ニーノがこれ以上ない冷厳な目を向ける。
「あ――、ごめん。めっちゃ急いでくれたんだよね、ごめん、ごめん」
「――私は、しばらく休む」
ふいっとニーノは出て行ってしまった。
「おやすみ、ニーノ」
声が届いたかは分からない。
川辺の道をたどって、ルピタと一緒にエステルの家へ向かう。
「お見舞いに何か持って行こうか?」
「あ、じゃあ、これにしよう!」
ルピタは水辺に生えている小さなカヤツリグサに手を伸ばした。
花穂の部分が星みたいにぎゅっと集まってる。
「星みたいだから、大好きなの!」
「とてもかわいい」
二本摘んでお見舞いが手に入ったので、道を急いだ。
向こうから、鳴り竹の音が聞こえる。
「こーんにちはー!」
はしごを登った先の敷き布で足をふいて、水瓶の水で手を洗い、二人ですだれに声をかける。
「はぁい」
アラセリがすだれを上げて、中に招いてくれた。
こうして見るとはっきりした顔立ちは、プラシド似だ。アラセリも背が高い。
「エステルさん、元気?」
エステルはうっすら笑う。
「すこぉしね。二人とおしゃべりができる」
頭を揺らして、ルピタが寝台にとんとんと寄る。
「はい、これ、お見舞い!」
「――ああ、ルピタが好きな草だね」
「うん!」
ルピタがひょいっとエステルの耳の上にカヤツリグサを飾った。
おお、かわいい!
エステルがふふっと笑った。
「ありがとう。でも、これじゃ、私が見えないな」
「あ!」
ルピタが慌ててカヤツリグサを取り、ちょっと考えてエステルの腕に輪にして結んだ。
「いいね。これで、ルピタが好きな草が見えるよ」
「へへー」
ルピタは嬉しそうだ。
「ルピタはエーヴェと仲良くしている?」
「仲良くしてるよ!」
「エーヴェ、タタンとおどろさまといっぱい泳いでます! ホソダケも捕ったし、草もガジガジした」
「そうか。竜さまも」
「竜さまね、エーヴェちゃんに泡を出してくれたよ! 二人で竜さまのお腹滑ったんだよ!」
ルピタは両手を後ろで組んで、上体をゆらゆら揺らす。
「ふふ、楽しそうだ」
「楽しー!」
両手を突き上げると、エステルはくすくす笑った。
「そうだ、エーヴェ、お山さまの鱗を返そう」
お腹の上に置かれた鱗に、エステルが手を添える。
「エステルさん、もう痛くない?」
「うん、だいぶいい」
む、これはまだときどき痛い奴だ。
「ちゃんと痛くなくなるまで持ちます」
「でも、みんなに見せなきゃ」
「……エーヴェちゃん、これが鱗?」
ルピタが目を丸くしてる。
今やっと気がついたみたい。
「はい! 竜さまの鱗! 偉大!」
「大きいね! 透明! こんなのが竜さまに生えてるの?」
生えてる?
「背中側は鱗だけど、お腹側は毛がふさふさなのです。偉大!」
「触ってもいい?」
エステルと私の顔を交互に見る。
「ほら。みんな見たいはずだから、返すよ」
「むー――。分かりました」
エステルのお腹から鱗を持ち上げて、ルピタに手渡す。
「わー! かるーい! 大きいのにかるーい!」
「はい! 偉大!」
「エーヴェちゃん、いだいばっかり言ってる!」
ルピタはきゃらきゃら笑って、鱗を持ち上げてくるりと一回転した。
「こーら。騒ぐなら、外でやりなさい」
アラセリの声に、ぴたりと止まる。
「遊んでおいで。次のお見舞いを待っている」
「はーい!」
二人で声をそろえて、走り出さないように気をつけて、外に出た。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




