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5.夢の世界 ふたたび

連載三ヶ月目に入りました。

遅々とした歩みですが、今後ともよろしくお願いします。

 びょう、と生ぬるい風が吹き抜けて、目を開けた。

 重い雲がぐいぐい流されていく。

 雨を降らせそうな黒い厚い雲なのに、ごうごう流されていって、怖い。


 ここ、()()の匂いがする。


 沼地だ。葦の代わりに、さびた金属。水と(おか)の間に(てつ)(さび)が寄せられて、線ができている。


 きょろきょろ見回すけど、誰もいない。

 もちろん、竹も草もない。


 ここは、お泥さまの座なのかな?


 どこの水も濁っている。ぼこっと泡を立てていたり、妙にねばっこく見えたり……。

 泥でも、周りに生えてるのが植物か金属かで、だいぶ印象が違う。

 この水には飛び込みたくない。


 でも、ちょっと(さわ)ってみるかな?


 しゃがんでよく見ると、鉄がじゅうじゅう気泡を出してて、ぞっとした。


 これは触っちゃいけない奴だ。


 見たことないけど、これは滅ぼされた世界なんだと思う。

 いつか、風邪をひいたとき見た世界。あのとき、荒廃だと思った場所。

 さびしい気持ちになる。


 お泥さまが身をひたしている水が、こんなのじゃなくてよかった。


 しかし、夢ならもう()めてほしい。

 風が当たると()()がぴりぴりする。


「誰かー、だれかー」

 呼んでみるけど、答えはない。

 うむー。困った。ちょっと怖い。もの悲しい。

「りゅーさまー、りゅーさまー――!」

 びょう、と風が吹いた。

 目をしぱしぱする。



 ――エーヴェか?


 チェロの深い響きに、背中がピンとなった。


「りゅーさま!」

 ――なにゆえこんなところに。


 何もないところから、すうっと竜さまの首が現れた。

 鱗に赤い光がきらきらして、たてがみが白く輝いている。

 お鼻を降ろしてくれたのでお鼻挨拶しようとしたら、すかっと通り抜けて地面に倒れた。

 むう。目がしぱしぱする。


 ――大事ないか?

「はい! エーヴェ、元気!」

 ぴょんと立ち上がると、ふわっと鼻息がかかった。

 うわー、りゅーさまだ! りゅーさまだ!


 ――それで、なぜここにおる。

「エーヴェ、夢を見てます。でも、起きられないのです」

 全身を現した竜さまが、くわえて背中に乗せてくれた。

 尾っぽが持ち上がっている。

 竜さまもあんまりこの水には触りたくないのかな。


 ――なるほど。それは困るな。

「はい、困ります」

 ふわふわたてがみに手を伸ばすけど、すかっとなった。

 むむむ、とても残念。


 ――ふむ。まぁ、ニーノが気づくであろう。


 竜さまが羽を大きく広げた。

「あ、りゅーさま、ニーノがんばったよ。手術二つもしました!」

 ぶわっと羽が打ち下ろされて、竜さまが浮く。

 すごい、飛ぶのかな?


 ――そうか、そうか。何よりじゃ。


 お、ニーノばっかりほめられてしまうぞ。

「エーヴェ、おどろさまにお花もらったよ!! それに、タタンとお友達になった! ちょっと立ち泳ぎできる! りゅーさまの鱗貸した! それから、それから……」

 一生懸命、竜さまに報告することを探すうち、視界が明るくなっていく。

 ――うむ。励むがよい。

 夢が醒めるのかな? 急がなきゃ!

「エーヴェ、はげます!」



 ひょっひょっ――――ひょっひょっ――


 足に草の感触がして、目を開ける。

 竹がたくさん生えててビックリした。

 上は青い空。夜が明けてる。


 ひょっひょっ――――ひょっひょっ――


 何の音だろう?

 もたれてる物を振り返る。

 白い大きな卵。

 エレメントは卵から首だけ出して、声を上げてる。

「おおお! エレメント! エレメント、首が出てる!」

 首をなでなですると、少し首をかしげたけど、また声を上げる。


 ひょっひょっ――――


 やっぱり白い影なので、表情は分からない。


「――貴様、何をしている」


 ふわっとした風とともに頭上から声が降ってきた。

 相手は分かるので、そろそろ見上げた。

「うわ! ニーノ、血が付いてる!!」

 ゆっくり地面に降り立ったニーノが、マスクを外す。

「プラシドの血だ」

 平静に言い捨てて、エレメントの(あご)に手を伸ばす。

「エレメント、やすめ」

 エレメントは、ひょんと一声鳴いて、首を垂れる。

 いつの間にか、大きな卵に戻ってしまった。


 冷ややかな視線が降ってくる。

「貴様は、何をしている」

 しまった、二回聞かれた。

「エーヴェ、起きたらここにいたよ! 何もしてない」

 ニーノの眉間に微かにしわが寄る。

「あ、夢! 夢にりゅーさまが出て来たの! きれいで大きくて、偉大だった」

「ああ」

「それで、りゅーさまの背中に乗ったら、ここに来ました。『ニーノが気づくであろう』ってりゅーさま言ってたよ」

「――そうか」

 すこし考えるそぶりをしたけど、ニーノは手術着を手早く脱いで、脇に抱える。

「戻るぞ。いろいろ置いてきた」

 ふわっと身体が浮いて、ニーノの背中に運ばれた。


 そのまま、おんぶの体勢になって、空を飛ぶ。

 朝日を浴びるお泥さまの座――。

 すがすがしい気分。

 丸い屋根の家や、張り巡らされた渡り廊下がよく分かる。ちょっと離れた倉庫は、こうして見ると、やっぱり背が高くて、大きい。

 小屋の一つから光がもれてて、人がこちらを見上げていた。ニーノは(そば)の渡り廊下に着地する。

「ニーノさん、大丈夫でしたか?」

 カンデが早足で寄ってきて、私ににっこりしてくれた。

「無傷だ」

「ニーノ、プラシドの手術終わった?」

 とん、と竹の床に着地して、ニーノを見上げる。

「終わった。エレメントの警報で離れたが、呼吸維持が不要でよかった」

「起きてる?」

「まだ眠っている」

「足は大丈夫?」

 カンデがふふっと笑う。

「エーヴェはいろいろ気にかけてくれるな」

「切らずに済ませた。おかげで一晩寝ていない」

「おおー!」

 ふーっと強く息を吐いたニーノを見て、はっとする。

「『そうか、そうか。何よりじゃ』!」

「――なんだ?」

「りゅーさまからの伝言なのです」

 ニーノが軽く目を見張った。

「……そうか」

 カンデに血のついた手術着を預け、プラシドの小屋を振り返る。

「そうか」

 今度は穏やかな声が落ちた。

やっぱり竜さまが出ると、心が落ち着きます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 普段が沈着冷静な分、竜さまに労われてポッと灯りがともったように穏やかな感情を見せるニーノが微笑ましい。竜さまがニーノにとってどれほど大きくて大切な存在なのか伝わってきます。 エーヴェは夢は…
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