4.お泊まり
すっかり夏休み気分です。
今日は泥場じゃない水場に案内された。
「ここのハスの葉っぱは大きいから、上に乗れるんだよ!」
「ふわー! すごい!」
近くに立ててあった竹竿に上着をかけていく。
「泳ぎに来るんだから、始めから上着着なくていい?」
まるで上着かけ用みたいな竿を眺めて、聞く。
「帰りが遅いとき、探す手がかりにするんだよ。だから、いつでも着ないとダメ」
ルピタが真面目な顔で言う。
「ここは内側だから、竜さまが見ててくれるけど、外は絶対ダメなんだよ」
「おお、分かった!」
きっとルピタも誰かから言われたんだろう。
大事なルールだ。
「わー! すごいすごい!」
「エーヴェちゃん、こっち、こっち!」
ハスの葉の上を歩くの、初めて!
直径二メートルはある大きな葉で端がお盆みたいに持ち上がっている。揺れで水の上だと分かるけど、思いのほか安定している。
ルピタの近くには、大きいけれど端の持ち上がっていない葉っぱが浮いている。
「この葉っぱはね、長く立っていると沈むんだよ」
「おお、じゃあ、走る?」
「そうなの! 行くよー!」
えいっと二人で走り出す。
ぐいっと力を入れると沈むので、油断できない。
一枚の葉っぱに乗ったら、次の葉! とっても忙しい。
「うわぁ!」
ぐにゃあっと足から崩れて水に落ちる。
少し先でルピタも水に落ちた。
泳いで戻って、またハスの上レースをする。
お昼になってハスの上でおにぎりを食べていたら、頭にホテイアオイみたいな植物をのせたおどろさまがやって来た。
――今日も、泳ぐか?
「はい、泳ぎます!」
二人で声を合わせた。
お泥さまが一緒に泳いでくれる。やる気百倍だ。
ときどき泡が来たけれど、前みたいに全身が浮く大きな泡はなくなった。
ちょっと上達したってことかな?
お泥さまはあっちにぷかり、こっちにぷかりして、ゆったり瞬きしている。
「おどろさまが泳ぐところ見てみたいです」
「だったら、もぐる練習がいるね!」
しまった! ルピタ先生をやる気にしてしまった。
「でも、ここは植物が多くて見通しがよくないんだ。もっと水脈に近いほうがいいんじゃないかな」
水脈は深いところだ。お泥さまが一緒だったら溺れないだろうけど、ちょっと不安。
いつか、お泥さまと水の中を泳げるかな?
クジラと泳ぐ映像を思い浮かべて、にやにやする。
お泥さまが今日はおしまいを宣言したので、ルピタと手を振ってハスの葉に上がる。
「立ち泳ぎはだいじょうぶだね! 明日は横に泳ご! 足ができてるから、あとは簡単だよ!」
ルピタ先生の教室は明日も続く。
「あとは簡単……?」
ルピタはにこにこして頷く。
「上手になると荷物を運んだり、銛を持って魚を突いたりできるんだよ!!」
「おお! エーヴェ、頑張る!」
着ている物があまり乾かないうちは、ルピタはたたんだ上着を頭にのせる。
「そういえば、今日、ニーノさんいないんだよね?」
器用に首をこっちにめぐらせてルピタが聞く。
「はい。プラシドの手術です」
「じゃあ、私の家で一緒に寝ようよ!」
「はい!」
やったー! パジャマパーティーだ!
「タタンは一人で住んでますか?」
「ハスミンとカンデがいるけど、部屋は別なんだよ」
「じゃあ、ハスミンとカンデに聞いたらいいね」
ご飯のときに許可をもらう。カンデは手術の手伝いがあるから、いないらしい。
「二人で一緒に寝るなら、エーヴェは部屋から枕持って来るんだよ」
ハスミンの言いつけ通り、枕を取るために部屋に戻る。
「ルピタの家はどれですか?」
客室は集落の外れにある。
丸い屋根の家が集落の中心で、東側の渡り廊下でつながるたくさんの家がみんなの寝室みたい。ルピタがそっちから来るのは知ってるけど、どれが誰の家なのかは知らない。
「客室と丸い屋根の真ん中だよ!」
入口には素敵な染めの布がかかっていた。
「星空みたい」
黒に白い点がたくさん散って、天の川みたいになっている。
「それはハスミンが染めたんだよ」
「おおー」
たしかに、とっても上手だ。
小屋の中は、竹を斜めに組んだ壁で仕切られている。全部で四部屋。それぞれ、二、三畳くらいかな? この世界では、個人で引きこもってやることが少ないから、これで十分なのかな。
ルピタの隣に枕を並べると、意味もなくにやにやしてしまう。
お友達と一緒に寝るの、初めて!
ゴザの上でゴロゴロして、腕や足がぶつかるたび、くすくす笑う。
「遊ぶんじゃなくて、寝るんだよ、二人とも」
ハスミンが壁の向こうで叫んだので、おとなしくした。
暗い中で、首をルピタに向ける。
「タタンはおどろさまが泳ぐところ見た?」
「見たよ。竜さまはね、両手両足を身体にぴたっとつけて泳ぐんだよ。ゆったり身体を揺らすのが、とてもすてき」
水の中で、ゆったり身体を揺らすお泥さま。
ぜひ見てみたい。
「おどろさまがご飯食べるのは、見たことありますか?」
「うーん。見たけど、見てないかも。泥がぶわーってなっちゃうから」
手でぶわーを表現するのに、ルピタは宙を手でかく。
「おぉ、それは残念。りゅーさまは食べるところとてもかっこいい」
ルピタが身体ごとこっちに向いた。
暗くても、目がキラキラしてるって分かる。
「お山さまは何を食べるの?」
「鉱石だよ。ごきん、ばきんってかみ砕くのです!」
「おおー!」
「それでね、りゅーさまは硫黄が大好き! 食べると有毒ガスを発生するので、困るよ」
「お山さまも毒出すんだね!」
ちょっと違うけど、まぁいいかな。
「竜さまはね、内緒だけど、モモが好きなんだよ」
「え!」
ひそひそ声の内容にびっくりした。
「モモ! エーヴェも好き!」
「モモを食べるとね。ぷわっと金色に光るんだよ、竜さま」
ルピタはくすくす笑う。
「わぁ! 金色!」
とっても好きな感じがする。
「こーら、話すんじゃなくて寝るんだよ、二人とも!」
ハスミンの声で、二人とも黙った。
――金色に光るお泥さま。
いい夢が見られそうな気がする。
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