8.竜の鱗の踊り
次話と合わせられなかったので、かなり短めです。
「りゅーさまわーいーだいー、きらきらでーいーだいー」
歌いながらくるくる回る。両手で頭上に掲げた、半透明の軽い板。動きにつれて光が虹色に屈折して、透かし見える世界をにじませる。
「りゅーさまのーうーろこーきらきらでーいーだいー」
つやつやになった竜さまが、ふるふると首を振ったときに、きらっと光って何かが降ってきた。
大きくて、私は下敷きになってしまったけど、ぜんぜん重くない。
つるつるしていて、規則的な凹凸がある。
――鱗だ!
手に持って跳ね上がった。
軽い!
大きさは私の背丈くらいあるのに、簡単に持ち上げられる。形は真円に近いけど、一方が少しだけ細い。厚みは五ミリメートルくらいかな。
力を加えれば曲がりそうだ。魚の鱗みたいに弾力がある。だけど、万一壊したらと思うと、慎重になった。両端を持って、卒業証書を畳むように、内側に寄せる。
ぽうん!
即座に、反発が起こって弾かれた。
尻餅をつき、鱗は床に落ちる。
はいよって、今度は体重を掛けてみた。
――っぽぅん!
くるっと身体が一回転して落ちる。
楽しくなってきた。
「貴様、何をしている」
「ニーノ! りゅーさまのうろこ!」
何か作業をしていたニーノが、鱗を見て目を細めた。
私はすばやく鱗に取り付いて、体重を掛けて弾かれる遊びを披露する。
「いい物を見つけたな」
「うん! はい!」
「では、そろそろ戻るぞ」
ニーノが鱗を拾い上げ、歩き出した。慌てて、追いすがる。
「ニーノ! それ、エーヴェの」
鱗の端をにぎると、ニーノが足を止めた。
「これは竜さまの鱗だろう」
「今は、エーヴェの!」
「――貴様、この鱗が欲しいのか」
「はい!」
「何に使う?」
きょとんとニーノを見つめる。ニーノの青白磁の目は揺れもしない。
「……もっとく!」
「竜さまの鱗は重要な資源だ」
「でも、エーヴェが見つけたもん! りゅーさまー!」
竜の威を借ろうと声を張り上げる。
片目を開けた竜さまが、ぴりっと耳を震わせた。
――好きにせよ。
「ほら! りゅーさま、いいって!」
ニーノが長く息をはいて、手を放す。
それで私は、竜の鱗をかかげて、勝利の舞を踊っている。
部屋に戻って鱗を安置し、食卓に向かった。
お腹いっぱい食べて、寝台に飛び乗る。竜さまの鱗を引き寄せて、両手両足で持ち上げた。
凹凸にそってゆがんだ視界。窓の向こうで、夜空の星がにじんでいる。
身体を丸めれば、鱗にすっぽり納まる。
――竜さまの鱗の下にいる!
むずがゆいほど嬉しい。
自分より大きな生き物の、身体の一部を持つ経験なんて初めてだ。大型恐竜の発掘か、くじらの解体くらいしか可能性がない。
鱗の中は熱が逃げないのか、徐々に温度が上がる。
心地よい暖かさに、満足して眠りに就いた。
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