1.看病講座
大きくは変わりませんが、ここから新章です。
二日も寝てなかったのに、ニーノは相変わらず、びしびし働く。
「プラシドは生殖器の近くに腫瘍ができている。排尿が難しくなったり、痛みをともなったり、場合によっては血が混ざることもある。もう一つ、右膝に腫瘍がある。プラシドは我慢しているが、痛い。こちらは状況次第で右足を失う。その際には、足の代わりになる器具をつけることになる」
もじもじしているプラシドの横で、ニーノが説明している。
夕方の丸い屋根の家には、涼しい風が吹き込んでいた。
「はいにょーって何?」
「おしっこすることだよ」
ルピタの質問にカジョが答えてあげる。
「それから、プラシドが気にしているので説明するが、子どもを産んだり育てたりする臓器に腫瘍ができたのは、ただの偶然だ。子どもを産んだり育てたりした結果、腫瘍ができるわけではない」
「ノエミ、フィト、カジョ! 大丈夫だからね!」
騒いだプラシドを、ニーノが冷たい眼光で黙らせた。
「個人的な気がかりで、病気をやせ我慢するのはすすめない」
「……プラシドったら、そんなことしてたの?」
「誰も気がつかないよ、そんなこと」
ノエミとフィトのあきれ顔に、プラシドが眉を下げる。
「そっかぁ、気にしすぎたー」
「まぁ、プラシドらしいけど、痛いの我慢するなんて性格もおかしくなるはずだ」
カジョの言葉にみんなが笑う。
プラシドはみんなに笑われてるけど、好かれてるんだな。
前の世界の記憶から思うに、まとめ役には珍しい性格。
「――これは私の推論だが、エステルとプラシドはお泥さまの庇護がない状態で、不毛の地を長く探索したことがある。おそらく、その時に腫瘍の芽ができた。だが、お泥さまの庇護下に戻り、腫瘍の成長が遅くなったのだろう。エステルとプラシド以外は、不毛の地にさほど立ち入っていない。同じ病気になる可能性は、とても低い」
みんなの顔に「説得力あるわー」って書いてある。
「さきほどプラシドからも伝えてもらったが、エステルの世話を頼みたい。プラシドも足を触るから、しばらく動けなくなる。だから、全員に世話について説明しておく。それから、甘露が非常に役に立ったので、もう一度もらえたらありがたい」
甘露の話は、みんな嬉しげだ。
うちの竜さますごいでしょ、って顔。
「その際、一桶、私に準備させてほしい」
「え、何か変質できるのがあるの?」
ドミティラが首をかしげる。
「分からない。ただ、試してみたいことがある。小さな桶でいい」
うん、この顔は「もうこれ以上話しません」だ。
「熱を出したり、咳が出たり、足をくじいたりしたことはあるだろう。だから、看病はできるはずだが、エステルについては特に清潔に気を配ってくれ」
ちょっと退屈そうな顔をしている人もいるけど、全員ちゃんと聞いている。赤ちゃんまで部屋にいるからすごい。
「エステルは甘露しか口にしていない。今後、少しずつ食事を重くしていくが、程度は私が指示する。注意してほしいのは、食器を熱湯で洗うことだ。エステル専用の物を作るのがいい。他の者が口にした水や食べ物は渡すな。水瓶から直に移した水ではなく、一度わかした水を……」
ニーノの説明はめちゃくちゃ広い範囲に及んでいた。
お泥さまの座ではみんなはだしなので、エステルの家に入るときには足を浄める場所を作ること。おむつかおまるを準備すること。清潔な布で身体をふくこと。清潔な布を準備するために洗濯する方法。身体を支える簡単なやり方――これは実技指導付き。
「急に熱が出たときは、必ず、私に知らせてくれ。汗をたくさんかいている。顔色が明るい、暗い。発疹が出ている。どんな些細な異常でも、ためらわなくていい」
「ふわー、大変だなぁ」
ハスミンの溜め息に、ニーノは真面目な顔をして頷く。
「自分で動けない人間が二人と赤子がいるというのは、想像よりずっと大変なことだ。心して協力してほしい」
……お、すごい。
す、とみんなの背筋が伸びた。
急に、ロペが泣きはじめて、みんな笑う。
外はすっかり暗くなっている。
「今まで泣かずにいたなんて、たいそう偉い子だ」
「お腹空いたかなー?」
「アラセリ、カジョ、ハスミン、役割分担を決めよう」
「私はエステルのところに行っておきます」
ドミティラが三人を呼ぶ間に、カンデが部屋を出て行く。
「プラシドの手術を行う場所を決めておきたい」
「本人の部屋でいいだろう」
「誰か配膳手伝ってくれー」
ナシオが部屋を出て行く。ぴょん、とルピタが立ち上がった。
「手伝うよー」
「お、俺も」
みんなが一斉に動き出す。
すごいなぁ。それぞれやることを探して、ちゃんと動いてる。
「貴様、なぜ、にやにやしている?」
プラシドと話していたニーノが、こっちに気がついた。
「うっふっふ、しゃかいを感じるのです」
軽く眉を上げて、ニーノは部屋を見回す。ややあって、頷いた。
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