表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/300

19.おどろさまと泳ごう

 お泥さまの泡は、(へん)(けい)()(ざい)。ボート型フロートみたいに、ぷかあとしていられるタイプや、練習用に一部だけ浮かせてくれるタイプがある。

 おかげでルピタに、主に立ち泳ぎを教わることができた。

「タターン、むずかしいー」

「大丈夫だよ、エーヴェちゃん! 何回もやれば覚えるよ!」

 思いのほかスパルタなルピタに、足の動かし方を指導される。


 ――いつか覚える。ゆっくりでよい。


 お泥さまも励ましてくれる。お泥さまのゆったりで、ちょっと安心する。


 お泥さまが顔を出した方向に、せっせと移動する。すると、お泥さまが顔を隠し、キョロキョロ探す。なんとなく水が動く感じがして、お泥さまがまた顔を出す。ルピタと一緒に、せっせと移動する。

 こんな繰り返しが楽しい。

 お泥さまもときどきふわっと光るから、嬉しい。


 ――そろそろ、帰るがいい。


「はーい、竜さま!」

 お泥さまにうながされて、ルピタはすぐさまいいお返事。

「泥場も、泳ぐのも、疲れるんだよ。帰ろ、エーヴェちゃん」

「わかったー。じゃあ、おどろさま、またね!」

 近くの岸に泳いで上がる。

 お泥さまは水の中で、ゆったり瞬きしながら見送ってくれた。


 上着を取りに岸沿いに歩いて、泥場の入口に着いた頃には、服はけっこう乾いていた。上着に袖を通し、竹林を抜けて筏に着く。

「なんだかお腹空いちゃったねー」

「はい、お腹空きました」

 ルピタが筏を漕ぎながら、近くのガマ(に似た植物)から穂を折り取る。

「これ、甘いんだよ」

 ガマと言えば、水辺のソーセージだ。でも、見た目の話で、食べられない。

 半信半疑でかぶりつく。

 思ったより、甘い。でも、口の中にもさもさが残る。どうしようかなと迷っていたら、ルピタはぺっと沼に吐き出してる。

「甘いね!」

 私も吐き出して、はっと思い出す。

 この感じ、サトウキビだ! 噛めば甘いけど、口の中にわんさか(せん)()が残る。

 二人でガマをガジガジしながら、集落の桟橋に着いた。


 桟橋で筏をつないでいると、大きな人が通りかかった。

「プラシド!」

「ニーノ!」

 ルピタと私の声に、それぞれが立ち止まる。

 おや、プラシドは無精ヒゲがなくなってるぞ。

「ほうほう、察するところ、お前さんたち、泥場の帰りだな」

 しゃがみ込んだプラシドに、ルピタが駆け寄って頰を両手でこねる。

「そーだよ! プラシドがすっきりしてる!」

「やめやめ。会うやつ会うやつ、こんなんだ。俺、そんなにヒゲ合わない?」

「合わなーい!」

 明るく笑ったルピタに、プラシドは眉を下げつつ、頭をなでる。

「――プラシド、初めて会ったときと違います」

「本来、プラシドはこうだ」

 ニーノは無表情だけど、ちょっと安心したみたい。

 よく分からないけど、プラシドは肩ひじ張ってたのかもしれない。


「プラシド、手術まで少し休んでおけ」

「分かったー。腹ごしらえもしとくよ」

 肩車されて、ルピタはきゃらきゃら笑っている。

 プラシドはなぜか大あくびだ。

「私は一度、部屋へ戻る」

「あ、エーヴェも一緒に行くー」

 プラシドのが移ったのか、あくびが出た。

「ははっ、眠いな。泥遊びは、思ったよりずーっとくたびれる。寝る準備しておくんだよ」

「はい」

 プラシド、優しい人でした。


 帰る道々、かくんと意識が途切れそうになるので、ニーノが手を引いてくれた。

「ニーノ、おどろさまのお腹は赤かったよ」

「そうか。目をこするな」

「はい」

 ふわーとあくびが出る。

「むー、手術が見られません」

「――見せる気はないぞ」

「ふぁ? なんと?」

 いったいどんな大手術が行われるか、見る気満々だったのに。

「無菌状態に、より力を使わなくてはならないだろう」

「……エーヴェ、()()いっぱい?」

「菌は通常、どこにでもいっぱいいる」

 あー、確かにそうだ。


 魚の骨状階段を引っ張り上げてもらい、竹の床に座る。

 夕ご飯もまだだというのに、眠気に負けそうだ。

 ニーノは竹のテーブルの上に並べたガラス器の一つを見ている。あれは、シャーレだっけ?

「なんで、手術は夜ですか?」

「プラシドとの調整と、エステルにできるだけ栄養を取らせるためだ。それに、夜は多くの生き物にとって修復の時間だからな」

 ずりずりとテーブルに近づくと、ニーノの眉間にしわが寄る。

「貴様はもう寝なさい」

「ニーノ、これ何? 血みたい」

 シャーレの隣のフラスコは、一センチくらい赤黒い液体が入っている。

「血だ。触るな」

 本当に血なのか、ちょっと目が覚める。

「誰の血? ニーノの?」

「そうだ」

 なんで? と首をひねったところで、脇を抱えられ、寝台に運ばれた。


 実力行使は珍しい。

 寝台の気持ちよさに、思ったより限界だったのか、目蓋がくっつく。

 でも、言わなきゃいけないことがある。

「おー……ニーノーがんばれー」

 頭をなでる感触がした。

「そうだな」

 短い答が落ちた。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] プラシドのおおらかなところとお泥さまのゆったりしたところ。どっちもまったりとした安心感があります。 流れる時間もなんだかのんびりでお泥さまの座は癒されます。 あとお泥さまと泳ぐの、実に楽し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ