表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/300

8.甘露の材料

遅くなりました……。

 ルピタと私は小走りで、ニーノは悠々と道を行く。

 水車小屋まで来た辺りで、こーん、こーんと、いい音が聞こえた。

「あ、お昼ご飯だ。じゃあ、休憩所に行こう! カジョも来ると思うから」

 水辺から離れ、ルピタは竹林の中をぴょんぴょん進んでいく。

 竹の匂いの他に、稲の匂いがしてきた。やがて、ぱっと視界が広がり、青々した田んぼが何枚も続く場所に出る。邸の田んぼよりずっと広い。

 竹林沿いにつけられた道の先に、大きな高床式の建物があった。柱だけで壁のない家。海の家みたいに開放的だ。

 そこに人が集まっているのが見える。

 五人かな?

「あ、カジョー――!」

 ルピタの明るい声に、何か配っているみたいだった緑髪が振り向く。

 いいや、全員がこっちに顔を向けた。

「昼ご飯に来たのかい?」

 おっとりとした笑みを向けられて、急にお腹が鳴る。

「エーヴェ、お腹空きました」

「ああ、貴様とルピタは食え。私は、乳または甘露について聞きに来た」

 とにかく上がれ、とみんなに招かれて、三人で建物に上がる。


 田んぼから風が吹き抜けて気持ちが良い。

 お昼ご飯はおにぎりで、干しエビが混ぜこまれたご飯が香ばしい。渡された竹筒の中身は、野菜の入った透き通ったスープ。良い香り。

 ルピタと無心で食べる横で、ニーノはカジョたちと話している。

「なるほど、甘露をエステルのために……」

「甘露そのものを見てみたいが、今はあるのか?」

「いや。だが、得ることは可能だ。――四人もいれば、足りるだろう」

 カジョは周りを見る。

「じゃ、カジョの代わりに、私が夕飯の支度に入ろう」

 ごろんとしているドミティラが口を開いた。

「頼む」

「カジョ、ご飯係でしたか?」

 カジョはちらりとこちらを見て、歯を見せる。

「ご飯は三日毎に順番なんだ。今日はカジョ」

「へー、(やしき)も順番でみんな料理するよ」

 この世界には、あまり分業はないのかな?

「じゃあ、エーヴェちゃんも料理できる?」

 おにぎりをほおばって、身体を左右に揺らすルピタ。

「んー。エーヴェはお手伝いはしたけど、最初から最後までやったのはないです」

「私ね、お魚、料理するよ!」

「おお、タタンすごい!」

 拍手すると、ルピタは誇らしげに笑う。


「甘露はどのくらいで手に入る?」

 ニーノは料理の話題に無関心だ。

「そうだな。――今なら、材料は何がある?」

「この間、米をひいた粉があるから、それはすぐに準備できる」

 カンデが落ち着いた声で言う。

「それはいい。……甘露ってのは竜さまが変質させた液体だ。変質させる材料は、たいてい穀物の粉を溶いた水を使うんだ。変質にはほとんど時間がかからない。ああ、量はどのくらいいる?」

「少なくとも三食分。栄養次第では、術後にも使いたい」

 カジョは顎に手をあてる。

「じゃあ、二桶も変えていただけば十分だろう。甘露は痛みやすい」

「発酵させても、うまい」

 ナシオの細い目が、さらに細くなっている。


「甘露のこと、エステル承知してるの?」

 ドミティラが身を起こして、お茶(ほうじ茶みたいな色してる)に手を伸ばす。

「竜さまの力にべったりなのは、エステル嫌がるんだけどね」

「好悪について確認はしなかった」

「ふーん」

 片眉を上げて、ドミティラはお茶を飲み干す。

「――とにかく、準備をしよう」

「楽器は何にします?」

 腰を上げたカジョをカンデが見上げる。

「楽器?」

「ああ――、変質に楽器を使うんだ」

 カンデの深い緑の瞳がこちらを見る。

「変質は竜さまの感情に依存する。しかし、ある感情になってくださいと言われて、さっとその感情になれるものではないね?」

 頷くと、カジョがその場でステップを踏んだ。


 た、たたんたん、た、た、たたたん


「だから、曲がある。甘露のための曲を献じるのさ」

「おおー」

「なるほど」

 思わず、ニーノを見る。

 ニーノと一緒に新しいことを知ったぞ。すごい!

「四人で曲をしますか?」

「そういうことだ」

「見てもいい?」

 ルピタに、ナシオが重々しく頷く。

「ほんじゃ、行こうか」

 ハスミンが手に付いたご飯粒をなめ取りながら立ち上がった。


 ハスミンに続こうとして、気がつく。

「あー、芽が出てる!」

 ずっと両手ににぎっていて、お昼の間は側に置いていた竹筒の泥に(ふた)()が見えていた。

「わ! すごいね! 早い!」

「おやぁ。エーヴェ、竜さまに気に入られたんだね」

 ハスミンが竹筒をのぞき込んで、にやりとする。

「おどろさま、とっても素敵。偉大!」

「うむ、うむ」

 ナシオが満足そうだ。

 はっと気がついて、ニーノにも見せた。

 青白磁の目が一つ瞬く。

「お泥さまに花をいただいたか」

「はい!」

「よかったな」

 双葉を眺める目が優しい。

「はい!!」

 ニーノは竜さまのことだけは優しくなります。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回思いますが、ご飯がおいしそう。素朴なメニューなのにおいしいんだろうなって味を想像しちゃいます。エーヴェのグルメリポがいいのかな。 竜さまと人との距離、べったりとした依存じゃなく、共生&…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ