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7.赤子のあれこれ

「そろそろ満足したか?」

 会見の終わりを宣言しそうなニーノに、ルピタがはっと顔を上げた。

「いつ、しゅようを取るか決まった?」

 ニーノは無言。エステルが笑顔を見せる。

「私は、早くしてほしいんだ。ニーノは心配することが多いから」

「貴様の体力が問題だ。栄養価が高く、吸収のよいものがあれば」

 エステルはすごく痩せている。この世界に点滴なんかないんだから、回復は本人の体力頼みだ。

「ないことをどうこういっても仕方ない。明日より今日のほうが、体力があるとは思わないか?」

 エステルは軽い口調だ。でも、紫の瞳は揺るがなくて、強い意思を感じる。

「ねーニーノ。赤ちゃんがいたけど、お乳を分けてもらったらどうですか?」

 思いつきに、ニーノは頷く。

「なるほど。しかし、母乳はさほど吸収がよくない」

「ロペのを横取りするのは、気が引けるね」

 エステルが微笑って、あやすみたいにかるく手を握った。

「――じゃあ、竜さまにお願いしたらどうかな?」

「お泥さまに?」

 ルピタがこくこく頷く。

「私は赤ちゃんのときに竜さまのお乳で育ったんだよ! ね、エステル?」

「おどろさまのお乳!」

 飲みたい! けど、今はそれどころじゃない!

 エステルを見ると、確かに本当のことみたい。


「それはいつでも手に入る物なのか?」

 ニーノの質問に、ルピタは口ごもる。

「――そうか、貴様が知るはずはない。エステル」

「カジョが詳しい。竜さまの変質作用の一種だ。我々は乳とも甘露とも呼ぶ」

「使えますか?」

「実物を見なければ、なんとも言えない」

 ルピタがさっと立ち上がった。

「カジョの所行く? 私、案内しようか?」

 ニーノがルピタを見て、頷く。

「そうだな、頼もう。二人とも外で待て」

「はい!」

 ぴょんと立って、エステルを向く。

「エステルさん、会えて嬉しいのです! 元気になったら、またお話しようね」

 エステルは笑って頷いた。


 部屋を出たところで、ニーノが体調が変わったらすぐに連絡するよう、言っているのが耳に入る。

「貴様の思惑は知らんが、私はできることは全てする」

 変な言い回しだ。

 あまり気に留めず、先に降りているルピタを追いかけた。

「タタン! ――大丈夫?」

「うん! 大丈夫だよ」

 ルピタは目をゴシゴシぬぐう。

「エステル、だいぶやせてた。でも、ニーノさんが治してくれるよね?」

「……タタンはエステルさんが心配ですか」

 ルピタはこくんと頷いた。

「エステルはいつもにこにこしてて、強いんだよ。でも、最近エステルとっても痛そうだった。今日はにこにこしてて、よかったぁ」

 そうか、心配の涙じゃなくて安心した涙だったのか。

 これは、ニーノ、責任重大です。

「ニーノはね、できることしかできないけど、できることがいっぱいあるから大丈夫だよ!」

 ルピタの目がきらきらと輝いた。


「そうだ、タタンはおどろさまのお乳飲みました。どんな味ですか?」

 とっても重要なテーマを忘れるところだった。

「覚えてないよ。でも、落ちてきた子は、みんなそれで大きくなるんだ」

 へえ、やっぱり座によって全然違うんだな。

「邸では動物からお乳分けてもらってたんだって。エーヴェもディーのお乳飲んで大きくなりました」

「えー! 動物のお乳を飲むの?」

 ルピタはぎょっとした顔になる。

 そんなに変かな?

「だから、動物とはちょっと仲が良いんだよ」

 本当は、ニーノが動物のお医者さんだからだと思うけど。

「へー全然ちがうねー」

 ルピタの目が丸くなっていて、面白い。

「タタン、ロペは人間のお乳飲んでました。ロペは落ちてきた子じゃないですか?」

「うん。ロペはノエミとフィトの子どもだよ。まだ生まれて五十日くらい」

「おお!」

 転生者だけじゃなくて、この世界で生まれる人間もいるんだ。

「他にもここで生まれた人いますか?」

「ええっと、アラセリがエステルとプラシドの子どもで、ドミティラがカジョと誰かの子ども。その人は私が生まれるだーいぶ前に、事故で死んじゃったんだって」

「なんと!」

 みんな長生きだから忘れてたけど、死も当たり前にあるんだな。だとすれば、やっぱりエステルを心配するのは当然だ。


「――ルピタ、案内を頼む」

 響いた声に顔を上げる。

 エステルの部屋から出たニーノが、こちらを見下ろしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニーノやエステルら大人たちがエーヴェやルピタの提案を頭ごなしに否定したり、所詮は子どもの言うことだからと取り合わないなんてことがないのが、ストレスフリーで読み心地がいいです。 いつの間にか…
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